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第二十四章
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「ナナ、おめでとう」
「いっくんありがとう……あの」
僕はもじもじとした。
なんて、声を掛ければいいんだろう。
何故か後ろめたい気持ちになってしまう。
そんなふうにしていると。
ピシッと軽くデコピンされた。
「まだ気にしてるのか? お前は素直にお祝いされてればいいんだよ」
晴れやかな笑顔だった。
樹は本当に気にしてないのだ。
気にしているのは周りだけ。
卒業式の話が話題になる度に。卒業式が近づいてくる度に。
つい一昨日も。
二月から三年生は自由登校に入っていたが、その日は午前中卒業式の予行練習が行われた。卒業しない樹は休みだった。
僕が家に帰った頃、スマホにメッセージが届いた。
『お昼食べた? そっち行ってもいいか?』
樹にそう言われれば、断る筈がない。嬉しくて飛び上がりたいくらいだ。
僕は『うん、待ってるよ~』と返信した。
しかし、午前中に卒業式の予行練習があった為に、僕は何だか後ろめたい気持ちになったのだ。それが顔に出ていたのだろう。樹は今と同じようにデコピンをして「俺は平気だから」と笑ったのだ。
「これ、お祝い」
そう言って渡されたのは、ピンクのチューリップが四本と、小さな花をつけている僕の知らない花の可愛い花束だった。
「ありがとう──可愛い」
(いったいどんな顔をして買ったんだろう……)
僕は想像して、ふふっと心の中で笑った。
店員はきっと恋人へのプレゼントだと思ったに違いない。
「甘い匂いがするね」
「これ、ジャスミンって花らしいよ」
「そうなんだ」
樹がじっと僕を見詰めている。
どうしたのかな、と思って見詰め返すと、何か言いたそうに口をもにょもにょ動かしていた。
ぽりぽりと鼻の頭を掻いて、また口を開いては閉じる。
(いっくん、どうしたのかなー?)
「──本当は赤い薔薇なんかが定番なんだろうけど」
「何が?」
「この花も赤は同じ意味だし」
僕の問いの答えにはなっていないようだけど。聞こえなかったろうか。
「ピンクのチューリップのほうがお前に合ってると思って……その、可愛い花だから」
(えっなにっ急に可愛いっとかっ)
その言葉にぽっと顔が赤くなったような気がして。
「今日雪降ったから寒いね。顔赤くなってない?」
そう誤魔化した。
「そういえばそうかな」
樹の両手が上がって僕の頬を包みこんだ。
「俺の手も流石に冷たいか」
「あったかいよ」
本当はちょっと冷たかった。でも気持ちは温かい。というより、熱いかも。
「──本当は赤い薔薇……あ、別に赤いチューリップでもいいか。百八本、いや、三百六十五本あげたいくらいなんだけど」
ぼそっと独り言のように呟く。
(いっくーん、いったい何の話してるの~?)
「けど、この花束でも間違いじゃない」
「え? どいうこと?」
樹の言うことが全くわからなかった。
「いや、何でも」
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