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第二十四章
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しおりを挟むだけど。
僕は今の樹が好きなんだと思う。
いろいろあって、悩んで。
それは少し──かなり、大変なこともあったし、下手をしたらもう二度と会うこともなかったかも知れないんだけど。
だからこそ。
何事もなく成長していった樹のことは確かに、想像はするけど。でもそれは結局は想像だけで生身の樹ではないのだ。
僕にとっての樹は、今の樹でしかない。
樹が卒業出来ないことは、実はもう退院した頃にはわかっていたのだ。
それでも彼は腐ることなく登校し授業に取り組んだ。そして、前と同様に昼休みを僕らと過ごした。離れていた時間を取り戻すように。
戻って来た彼は、前と同じようで何処か違っていた。素っ気ない口調に思えて前より柔らかい。前よりも積極的に僕らと関わろうとしている。大地も明も気がついていているだろう。気づいているが、敢えて口にはせずに、たぶん心の中で喜んでいるのではないだろうか。
受験まではやはり余り遊びに出かけることはできなかったが、クリスマスはこれまでの二年間同様『BITTER SWEET』で明の誕生日込でお祝いをした。バイトを辞めた樹も今回は初めから参加。
そして、あの時以来初めてマスターと顔を合わせた樹は、まず深々と頭を下げたのだ。
「気にするな」とマスターは言い、「怪我良くなったらまた頼むよ」の言葉に樹は目を潤ませながら何度も頷いた。
一番最初に良い知らせを持って来たのは大地だった。
スポーツ推薦で、陸上の強い憧れの大学に合格。クリスマス前の発表だったので、明のバースデー&クリスマスのお祝いに、大地の合格祝いも加わった。
明は一般入試を受けた。
大地と同じ大学のスポーツ医療学科。受験したのそれ一校だと言う自信が明らしい。前に冗談ぽく言っていたことは、冗談でも何でもなかった。
大地は『ついてくるなよ~』と漏らしていたけど、明が真剣に考えた進路なのだと思う。
そして、僕。
僕は結局一般入試を選んだ。慣らす為に模試を幾つも受け、数か所の大学を受験した。
樹がくれたお守りを胸に受けた大学は全大学に合格を貰い、それは僕の自信となった。
皆の行き先が決まった二月からは、過ぎて行く日々を惜しむように四人で楽しんだ。
少しも前進しようとしなかった中学時代。
高校生活は、いろいろあって。
大変だったり、辛いことや切ないことも多かった。
でも、僕も随分と成長したと思う。
成長しなければ、と思うことができたのだ。
そして、僕らは今日、高校を卒業する。
樹が一緒でなかったことは、酷く残念だけど。
でも、彼は、もう大丈夫なのだ。
自分の進むべき方向はきちんと見定めている。
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