はじまりの朝

さくら乃

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第二十三章

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 場にそぐわない気の抜けるような声が聞こえた。


(え……っこの声って……)


 ひょいっと樹の影からオレンジ色の髪が現れた。
「カナ」
 目の前の背が名を呼んだ。
 どうやらこの男は樹のことだけではなく、明のことも知っているらしい。
「彼奴らまだツルんでたのか」
 樹より少し背の高い明は、本当なら入って来た時に気づく筈。わざと樹の後ろで屈んで見えないようにしていたのだろう。
「わぁ~こういうの久々でわくわくしちゃう~」
 彼は妙に楽しそうだった。


(メイさん……そんな楽しそうに……)


 そんなにこにこ顔をみていたら、目が合ってしまった。
 更に手まで振ってくる
「ななちゃーん、心配したよぉ。いつまでも経ってもお店来ないからさぁ。だいくんも先に行かせるんじゃなかった!ってめちゃめちゃ心配してたよぉ」

 割りと緊迫した状況だと言うのに、いつも通りの明。
 どうして二人がここに来たのか、経緯は気になるけど。
「カナ、うるさい」
 樹に窘められた。
 それでも彼の口は閉じず。
「ラインしても返信なし、電話して見たら電源切れてるし」
 そう言えば、ここに来た時電源切られたっけと思い出す。
 明は余裕そうに話しているが、戦闘は既に始まっていた。
 十人程の場数を踏んでそうな方々が一斉に二人に襲いかかる。
 殴られたり蹴られたりの音が響いていた。
 今は人数に負けず、二人のほうが優勢に見える。
 そこで鉄パイプが何本か登場する。


(あーここ、あちらさまの陣地だもんね。何かしらあったりするよね)


 急に不安が増した。
 それなのに。
「さすがに心配になっちゃって、樹に連絡しちゃったよー」
 応戦しながらも明の話はまだまだ続く。
「龍惺会が関わってるんじゃないかと思ってさ。ちょっと関係者に連絡しちゃった。それでいくつか巡ったんだ、ボクちゃんの愛車で」
 

(関係者? なんのことだろ。愛車は──バイクのことかな? それでいっくんと一緒に。メイさんありがとー)


 つい聞き入って心の中でお礼言っちゃったけど。
「あ、メイさん! 危なっっ」

 僕のほうを見て話をしている明の後ろから鉄パイプが!
「カナどけっ」
 樹の怒鳴り声に素早く反応した。
 いでぇーっっと叫んだのは、その男のほう。後ろから樹に蹴りを入れられていた。
「さんきゅー、樹」
 ハートマークでもついてそうな言い方。
 明は楽しそうに喧嘩に混ざった。
 僕に背を向けている男は、ぎゅっと両手を握り締めているが入って行こうとはしない。
 

(これって、ひょっとして、何かの時には僕を……とか?)


 男の意識が向こうに集中している間にどうにか逃げる……と思ってみたものの、手足縛られてて芋虫のような状態でしか動けないことが発覚。


(二人とも、ごめんっ。何かの時には僕のことは放っておいてっっ)


 
    
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