はじまりの朝

さくら乃

文字の大きさ
上 下
121 / 163
第二十三章

 1

しおりを挟む



 車に乗せられてからの所要時間はそれ程長くもなく、車の窓から海が見えたところから学校近くの海岸線を走ったのだと思われた。
 使われなくなって何年も経っているという風情の建物。
 両腕を掴まれて歩かされている時に見た感じは、二階建てだった。
 ここに入って来てから両手両足を縛られ、冷たい床の上に転がされた。
 いろいろ拘束グッズがあるところを見ると、普段からそういったことが行われているのかも知れない。



 人はきっと、恐怖が過ぎると案外冷静になる生き物ではないかと思う。
 今正に僕はその状態だ。


(お腹空いたなぁ~)


 カーテンのない磨りガラスから見えるのは夜の色。
 雨戸もないところから、会社か何かの建物なのかも知れない。
 本当だったらBITTER SWEETで昼食を食べながら、中間テストのお疲れ様会。時々明も交ざって来たりして。
 今頃は家に帰って母が夕飯を作っているのを自室で待っている頃だろうか。腕時計もスマホも見れず正確な時間がわからないが、もしかしたらもう食べてるかも。


(今日の夕飯なんだろう……)


 少し離れたところで、床に座り込んで飲食している男たちを眺めながら思う。
 ここに来て新たな人間が加わっては、また出ていくを繰り返している。


(お母さん心配してるだろうな……大くんやメイさんはどうしてるだろう。約束していたのに現れない僕をどう思ってるだろうか……それから……いっくんは……)


『あとで樹を呼んでやる』と言っていたが、樹はいっこうに現れない。たぶん樹が見つからないのだろう。
 もし見つかってれば、例え今僕との関係が結ばれてなくても、飛んで来るに違いない。
 樹はそういう人間だ。
「樹のヤツ何処にいやがるだ!」
「他にラインとか繋がったヤツいねぇのか」
 それを裏づけるように何度か似たような会話がなされている。


(なんていうか……連絡先もわからず、見つける方法もないとか。雑過ぎやしませんか~?)


「樹連れて来れなかったらどうするよ? アイツ」
 そこにいた全員の凶悪な視線が注がれる。
「そーだなー。どうするかー」
「いつまで置いといても意味ないしなぁー」
「アイツ、ボコって明日の朝学校か、あの店の前に捨てておくってのはどうです?」
 コンビニではいなかったが、途中で加わった同高の三年だ。
「そりゃあ、いいや」
 この中では立場が上らしい男が言うと、一斉にげらげらと笑いだす。


(全然、面白くないしっ! なんだったら明日の朝とか言わず、今ボコって早く解放してほしいっ。なるべく穏便にお願いしますよ~)


 彼らにそう念を送ってみた。
 
 
 
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

地味で冴えない俺の最高なポディション。

どらやき
BL
前髪は目までかかり、身長は160cm台。 オマケに丸い伊達メガネ。 高校2年生になった今でも俺は立派な陰キャとしてクラスの片隅にいる。 そして、今日も相変わらずクラスのイケメン男子達は尊い。 あぁ。やばい。イケメン×イケメンって最高。 俺のポディションは片隅に限るな。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo
BL
君に愛されたくて苦しかった。目が合うと、そっぽを向かれて辛かった。 結婚した2人がすれ違う話。

処理中です...