はじまりの朝

さくら乃

文字の大きさ
上 下
118 / 167
第二十ニ章

 4

しおりを挟む
「そうそう。まあ、万が一落ちでもしたら、うちで正社員にしてやるから安心しろ」
 ポンポンと明の肩を叩く。
「ひどっ。くそっ樹め、早く戻って来ないとグーパンチだぞっ」
 どうやら明は一年の頃に樹にグーパンチをされたことを根に持っているらしい。


(メイさんも……願ってるんだなぁ。
 きっといつか。
 いっくんが戻ってくることを。
 ここに。
 そして、僕らの元に)


 僕は明の言葉に声を立てて笑ったが、じん……として心の内では涙を流していた。



★ ★



 夏休みも終わり、瞬く間に月日は流れた。
 九月半ばには高校生活最後の文化祭も終え、クラス内はだんだんと受験に向けてピリッとした空気を感じ始めていた。



 九月に入って一週間程が過ぎた頃。
「夏休み明けてから、また樹来てないな」
 ぽつんと明が口にした。
 気になってはいたが、なんとなく樹のことを話題にするのは躊躇っていた。
「そろそろ進級危ないんじゃない?」
 心配げに言う。
「ですよね。僕も夏休み終わりの日にラインしたりしたんですけど」
「そっか……ななちゃんはまた時々連絡入れてあげてね」
「はい」



 そんな会話から、また月日が経った。
 明の言った通り僕は時々樹にメッセージを送っていた。
『おはよう』『おやすみ』
『もうすぐ文化祭だね』
『今日は学校来るかな』

『また一緒に』ーー『お昼食べよう』


 時々文字が涙で滲みそうになる。
 そんな時は。


(何これ。
 返信も来ないのに。
 ストーカー並じゃん)


 あははと笑い飛ばす。
 誰もいない自分の部屋で。 
 でも樹はそのメッセージをちゃんと見ているのだ。
 返信は来ないけど、見ている。
 それが僕の支えだった。



 九月もあと数日。
 今日は中庭のベンチで昼を過ごす。
 明が僕と大地のところに来るようになったのは一年の今頃から。もう二年経つルーティーンで、よく続いているなと思う。
 それから樹も加わって、今彼はここにはいない。
 秋めいて来て、また寂しい気分になってしまう。


「……樹、学校来始めたね」
 と明。
「あ、俺も見た」

 大地はこの二年の間に随分成長して、僕よりも七、八センチは高くなった。夏の部活で真っ黒に焼けていた。
 高校総体の長距離で優秀な成績を修め、スポーツ推薦に一歩近づいている。
 明の場合成績はダントツでクリアだが、それ以外で些か問題点があり一般入試を狙っている。
 僕はと言えば、指定校推薦、一般入試の両方を視野に入れている。
 推薦は面接がありそこが問題点。一般入試は人の多さに圧倒されて上がる可能性がある。どちらも何処か問題点がある。
 でも、僕も昔よりは強くなってきているのではないかと思う。どちらかは引っ掛かる筈だ。

 
(いっくんは……受験、どうするんだろう。
 学校の先生になりたいという夢は……)


「樹……先生に直談判して、補講やらテストやら受けてるらしいよ」

    
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

チョコは告白じゃありませんでした

佐倉真稀
BL
俺は片桐哲哉。大学生で20歳の恋人いない歴が年齢の男だ。寂しくバレンタインデ―にチョコの販売をしていた俺は売れ残りのチョコを買った。たまたま知り合ったイケメンにそのチョコをプレゼントして…。 残念美人と残念イケメンの恋の話。 他サイトにも掲載。

しのぶ想いは夏夜にさざめく

叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。 玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。 世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう? その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。 『……一回しか言わないから、よく聞けよ』 世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。

さむいよ、さみしいよ、

moka
BL
僕は誰にも愛されない、、、 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 人を信じることをやめた奏が学園で色々な人と出会い信じること、愛を知る物語です。

平凡くんと【特別】だらけの王道学園

蜂蜜
BL
自分以外の家族全員が美形という家庭に生まれ育った平凡顔な主人公(ぼっち拗らせて表情筋死んでる)が【自分】を見てくれる人を求めて家族から逃げた先の男子校(全寮制)での話。 王道の転校生や生徒会、風紀委員、不良に振り回されながら愛されていきます。 ※今のところは主人公総受予定。

ボクに構わないで

睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。 あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。 でも、楽しかった。今までにないほどに… あいつが来るまでは… -------------------------------------------------------------------------------------- 1個目と同じく非王道学園ものです。 初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章開始!毎週、月・水・金に投稿予定。 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

処理中です...