はじまりの朝

さくら乃

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第二十ニ章

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 躊躇しながら、そっと扉をあける。
 そっと開けるけど、扉についているドアベルは鳴っちゃうので意味がない。
 即座に、
「いらっしゃいませ~」
 と声が飛んでくる。
 樹の声ではない。
 けど。


(あれ……。
 何処かで聞き覚えが……)


 店内の中程に、背の高い男が少し身体を傾げている。どうやら料理をテーブルに置いているところのようだ。
 背を向けているが、髪はオレンジ色。後ろに結んでいて、ぴょんと尻尾のように見えている。


(あれって……)


 男は料理を置き終えるとこちらに振り返った。
「どわぁぁぁ」と心の中で叫んだのか、大きく口を開けた。
「メイさん……なんで……」
 樹が着ていたのと同じ、BITTER SWEETの制服である、白のシャツ黒のパンツ黒のソムリエエプロンを着用している。
 明は可愛くトレイを両手で胸に押し当てながら、たたたーっと小走りにやってくる。


(メイさん、なにそれ。
 めちゃ可愛いんですが)


「ななな、ななちゃん。どうして」
 僕がいることにかなり驚いているようだ。
「メイさんこそ」
「ボクはその、樹がいなくなったし、他のバイトのコも休業中に何人か辞めちゃって大変だって、叔父さんに頼まれて」
 早口で説明をする。だいぶ動揺しているみたいだ。
「ななちゃんはしばらく来ないんじゃないかと思ってたのになぁ」
 なんだかへこんでる。
 僕に来て欲しくなかったんだろうか。
「え? 僕、来ちゃダメでした?」
「知り合いに会いたくなかった~こんなカッコー見られたくない~」
「なんで? カッコいいですよ、メイさん」
 何をそんなに嫌がってるのだろう。
 めちゃめちゃ格好いいと思うのに。
 学校だとやっぱり浮いた感の髪色は怖くも感じたが、ここで見るとお洒落で格好いい。
 そして、愛想の良い彼は接客業は似合ってると思う。
「ほんと? ほんとに?」
「はい。とっても似合ってます」
「ななちゃー……」
 いつものごとく抱きついて来ようとして。
「あ、七星くん、来てくれたんだ」
 店長が間に入って来た。
 ちょっとムッとしている明は置いておいて。
「店長さん、えっと」
 どう言うべきが悩んだ。
「再開おめでとうございます?」
 僕の気持ちがわかったらしく、店長はあははっと笑った。
「わかる~複雑だよね。特に七星くんは酷い有り様を見たわけだから」
「はい……」
 二人でしんみりしていると、それをぶち破りたかったのか。
「叔父さん、酷いよね~ボクも受験生だっていうのに働かせるなんて。落ちたらどうしてくれるんだろ」
 ぷんぷんだぞと言いたげに、トレイを持ったまま腰に手を当てる。
「メイさんなら大丈夫ですよ~」




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