はじまりの朝

さくら乃

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第二十一章 

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(いっくんは、なんで僕にそんな嘘を……)


 梨麻の話したことの順を追う。
『彼女のフリ』を頼んだのが『修学旅行後』。
 樹が言ったという理由については意味がよくわからないけど、それも真実とは限らない。梨麻のいう通り、『自分のことを好きな誰かを諦めさせる為』というのが普通の考え方なのかも知れない。


(そうだとしたら?)


 BITTER SWEETでも『フリ』をしていたということは、そこに来る『誰か』に見せたいから。あるいは、そこに来る知り合いに見せて噂を広めたいから。
 あそこにはT校の女子も樹目当てに通っている。T校で噂を広めたかったのかも知れない。
 それから。
 もう『彼女のフリ』を解除した後なのに、僕に『他に守りたいヤツがいる』と言った。実際に他に出来た、『彼女』か『好きなひと』かというのも考えられるけど。


(僕への牽制……)


 さまざま考えて、思い至るのは。
 ひょっとして、修学旅行で僕が自覚した『想い』に、樹が気がついたんたのではないだろうか。
 血の気が引いていくのがわかった。
 変な汗が流れてくる。


(気持ち悪いって思われたんじゃ……。
 自分に近づくと危ないから、とかじゃなく。
 本当に嫌われたのだったら……)


 僕の頭の中はいろんな想いで混乱した。


(嫌だ!
 嫌われたくない!
 離れたくない!
 嘘でもいい!
 自分の気持ちを捨ててもいい!)


 そんなんじゃないって言いに行こうと、僕は決意した。
 僕は慌ててそこから立ち上がった。
 さっき通って来た道を走って戻る。
 学校へ行く大通りを途中で右に入って、BITTER SWEETがある住宅街へ。
 もしかしたら今日はバイトではないかも知れない。それだったら、樹の家に行こう。
 

(今日どうしても話したい……っ)


 切に願った。

 体力のない僕はさすがに最後まで走り続けることは出来なかった。
 息が切れ、BITTER SWEETの少し前から歩き始める。
 ゆっくり近づいて行くと、目に入る様子が何か今までと違うような気がする。


(あれ……壁ってあんな色だったっけ?)


 確か白だった筈の壁にいろんな色で塗られているように見えた。
 壁の前まで来て愕然とする。
 ラッカーなどでの酷い落書きだった。
 僕が怪我をした公園で、中学生が石碑にラッカーで落書きをしたのを思い出した。
 心拍数が上がり、頭がぐらぐらする。
「なにこれ……」
 心の中で言ったつもりが、口から溢れてしまった。
 もう一歩を踏み出すと足許でジャリジャリと音がする。
「ナナ! 危ないから歩くな」
 思いもかけず声が飛び出してきた。
 門の中を見るとすぐ内側に樹と店長が立っていた。
 樹は制服のままだった。
 
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