はじまりの朝

さくら乃

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第二十章

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 今日は五月五日。大地の誕生日だ。
 昨年は四人で水族館に行き、樹にイルカのストラップを貰った。少し彼に近づくことが出来たと思った日だった。
 今でも僕のスマホにはそのイルカが切なく揺れている。
 昨年とは違い、今年は三人で祝っている。
 明の部屋だった。
 田んぼに囲まれた中に現れた驚く程の邸宅の中の、やっぱり驚く程大きな部屋。
 可愛いものと格好いいものが混在する不思議な部屋だった。


 昼休みに過ごす時、いつ言おうか毎回悩んでは言えずにいた、BITTER SWEETでの出来事を僕は二人に話した。
 お祝いの席でする話題ではないかと思ったけれど、明が『一応樹にも連絡したんだけどね』とぼそっと言ったのを切っ掛けにした。

「──でも、それはさぁ。ななちゃんを危ない目に合わせなくないからじゃないかなー」
「だなー」
 大地も明の意見に同意する。
 そのことについて、だいぶ自惚れかも知れないが、僕もそう思ってはいる。そう思いたいだけなのかも知れないけど。
「暫くって言うんだから、また、そのうち行ってみたらどう?」
 明はそう言うけど。
 あの日の樹の態度がそれだけではないような気がしてならない。本気で僕を遠ざけようとしているような感じだった。
 浮かない顔の僕の頭を、明はよしよしと撫でてくれた。
 それからうーんと言葉を探すように考える素振りをする。
「確かに……今の樹は、ちょっと危ない感じするな。オレらには新学期になってなんで急にって思えるんだけど、ななちゃんは何か心当たりある?」
 さっきまでのは僕への慰め仕様の言葉で、本音は明もすごく気になっているのだろう。
 それは明の口調が俄に変わってきていることで感じられる。

「僕もいっくんが急にまた学校に来なくなったり、あの人たちと行動してるのかわからないんです。クラス違っちゃって最初は気がつかなかったし。いっくんのクラス覗いてもいないのは、たまたまだと思ってました。何だか一年の最初の頃に戻ったみたいな……」 

 話ながら僕は考えていた。『あのこと』を話すべきか。明も知っている『人たち』のことだ、明がどう思うか知りたい。
 樹が今どういう状況に置かれているか、判断材料になるかも知れない。
「あの……メイさん。実はそのBITTER SWEETでのことより前に──」
 僕は出来得る限り正確に、『タキ』たちに出会った時のことを話した。

「うー……ん」
 全てを話終えた時、明の顔は更に険しくなった。
「龍惺会が絡んでるのか……そう言えば、確かに『あの集団』の中に龍惺会の末端の奴が数人いるな」
「わぁ~カナ先輩、暴走族に入ってたんだ~サイテー」
 大地が呆れたように言うと、明はその口を自分の手で塞いだ。
「だいくん、今は黙っててな」
 いつもなら冗談ぽく躱しているだろうが、今はそれもなかった。 
 

 
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