はじまりの朝

さくら乃

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第十八章

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「城河に彼女? ただの噂だろ」
 然り気無くさっき聞いたことを二人に言ってみた。
 大地の口振りからすると、既に知っていたようだけど。
「なぁ、カナ先輩?」
「うーん……」
「え? まさか、あの噂ほんとなのか?」
 何の根拠か完全にただの噂だと思っていたらしく、即答しない明に驚いている。
 明はもう一度「うーん」と唸る。
「大くんは……なんで、ただの噂だと思うの?」
 自身ありげなあの口振りの理由なんなのか。それを聞いて安心したいと思った。
「えっ、だって。城河って」
 そこまで言って明に遮られた。
「彼女だって、樹は言ってた」
「え!」
 声を上げたのは大地のほうで、僕はもう声も出せなかった。


(いっくんが……そう、言ったんだ……。
 彼女だって……)


 心臓がさっきよりもずっとずっと痛い。
 何処かであの女子が言ったことが、ただの勘違いだと思いたかったのだ。
 それこそ『なんの根拠で』だ。

「この間、久しぶりにBITTER SWEETに行ったんだ。母親から叔父さんに用事頼まれて」
 マスターは明の母親の弟ということだろうか。
「そしたら、扉の前で樹が、女子大生風の女のコと話をしてて」
「お客さんじゃないのか?」
「や、そうだけど。樹、ただのお客さんを外まで見送らないよぉ、特に女子は。面倒ごとのもとだからって言ってたから」
 うっと大地が言葉を詰まらせる。樹のもて具合と性格からして、それはあり得ることだと思った。
「先に入って叔父さんに『誰?』って聞いたら、『常連さんなんだけど、最近つき合い始めたみたいだよ』ってにやにやしながら言うんだ」
「叔父さんの勘違いじゃないの?」
 大地はどうしてそこまで『彼女説』を否定したいんだろう。
「いや、だからさ。オレが帰る時、樹を外に引っ張ってって聞いた、『誰』って。『彼女──最近つき合い始めた』アイツ、そう言った」


(ん? メイさんなんか怒ってるのかなー。
 口調が……)

「良かったよね。いっくんに彼女できて」
 友だちだったらきっとこういうに決まってる。だから、本当は言いたくないことなのに、僕は笑って言うしかなかった。
「七星……」
「ななちゃん……いいコ」
 何処か労るような目差しを両方から向けられた。
 大地にはぎゅうっと抱きしめられ、明はよしよしと頭を撫でられる。
 

(なんで二人ともそんな顔、するの。
 僕、ちゃんと、いっくんのこと友だちだと思ってるよ。
 これからも友だちとして接するよ)


「何やってんだ」
 突然頭の上から不機嫌そうな声がして。
 僕にくっついている二人を引き剥がそうとする力を感じた。
「いっくん」


 
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