はじまりの朝

さくら乃

文字の大きさ
上 下
65 / 163
第十三章

 2

しおりを挟む

(あ……二人で。そうなんだ。ほんとに仲良しなんだ。
 いいな。僕もいっくんと……)


「相変わらず、騒がしいな」
「わ、いっくん」
 樹のことを考えてたら本人登場で飛び上がる程吃驚してしまう。
「何、飛び上がってんだ」
 くすっと笑われる。


(あー。
 飛び上がってたかー)


 恥ずかしいのを誤魔化そうとして、
「おはよー。春休みに二人で水族館行ったんだって。仲良しだよね~。僕もいっ……」
 余計なことまで口走ってしまいそうになって慌てて止める。


(今のわからないよね?
 いっ……しょにって感じに聞こえたらいいんだけど)


「行ってないし! 仲良しじゃない!」
 大地がまた騒いでいる。
「ふーん」
 樹はまったく興味なさそうな顔で相づちを打った。
「──クラスもう見た?」
「あ、まだ。大くんとメイさんは同じクラスだって」
 数人の先生が配っているプリントを二人で貰いに行き、それぞれ確認をする。
「あ」
 僕が小さく声を上げると
「同じクラスだな」
 そういつものようにつまらなそうな感じで言う。
 樹のそんな顔に前は傷ついていたけれど、今はこれが樹の普通なんだとわかる。
 つまり、嫌でもないけど、嬉しいってわけでもないということだ。

 樹と同じクラスになるのは、小学校二年生以来だ。
 それ以降同じクラスにはならず、クラス替えがある度にがっかりしていた。
 今になってその願いが叶うとは。
 でも、あの頃とは違う。
 嬉しいけど、少し気まずい。
 

(大くんもメイさんもいないのに、普通に話ができるかな?
 例えば、グループを組むようなことがあったりして、一緒になってくれる?
 あ、そうだ。
 修学旅行もあるよね。
 うーん。
 どうなるんだろう。
 想像がつかない)



 ★ ★



 いろいろな妄想を繰り返し、既に一週間が経った。

「──ナ……ナナ、おいっナナ」
「え?」
 はっと気がつくと、樹がトントンと机を叩いていた。僕の机の脇に立って見下ろしている。
「また、ぼーっとして。次移動教室だぞ」
 そう言われて周りを見るともう教室の中は僕らだけだった。
「わっ。ごめんっ。いっくん、先に行ってて」
 慌てて机の中に入ってる教科書ノートを出し、次の授業のものを探す。
「待ってる。鐘鳴るから、急いで」
 ぼそっと声が降ってきた。


(うれ……しい……)


 顔がにやけそうになるのを必死で抑える。
「なに、にやにやして」


(あ、抑えられてなかった)


 いろいろ妄想して心配もしたけれど、思った程居心地は悪くなかった。
 すごく話をするかといえばそんなこともない。でも無視されることもなく、普通に朝「おはよう」をして、今みたいに声もかけてもくれる。


 
 
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

地味で冴えない俺の最高なポディション。

どらやき
BL
前髪は目までかかり、身長は160cm台。 オマケに丸い伊達メガネ。 高校2年生になった今でも俺は立派な陰キャとしてクラスの片隅にいる。 そして、今日も相変わらずクラスのイケメン男子達は尊い。 あぁ。やばい。イケメン×イケメンって最高。 俺のポディションは片隅に限るな。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo
BL
君に愛されたくて苦しかった。目が合うと、そっぽを向かれて辛かった。 結婚した2人がすれ違う話。

処理中です...