はじまりの朝

さくら乃

文字の大きさ
上 下
64 / 163
第十三章

 1

しおりを挟む
 

 ──4月。
 僕らは二年に進級した。

 T高校の壁沿いに咲く桜に迎えられ、校舎までの道筋に散る花びらを僕は踏みしめて行く。
 昨年の春、ここで樹と再会した。
 もう一年が経ったのだと、感慨深く思う。
 再会した当初樹には冷たくされていたけれど、少しずつ距離が近づいてる。
 そう思っているのは、僕だけかも知れないが。

『また行ってもいい?』
 樹にそう言ったけど、結局その後行くことはなかった。
 学校帰りに制服で入る勇気もなく、かといって休みの日に行くことも出来なかった。それだと、ちょっとついでに寄ってみたという気軽さを演出することは出来ない。
 いかにも樹に会いに来ましたという感じになってしまいそうで僕も気まずいし、樹もさすがに気持ち悪く思うかも知れない。

 そんなわけで、いつも通り学校の中で会って、たまに会話をする。その程度のまま一学年が終わり、瞬く間に春休みも終わり今日に至った。



 二学年のクラスの発表は、下駄箱前で配られているプリントにて行われる。
 二学年の下駄箱に近づくと、大地と明がプリントを見ながら騒がしくしていた。
「おはよう、早いね」
「七星おはよー」
「ななちゃん、久しぶり~」
「どうだったクラス?」

 明も今回は無事進級出来た。見た目とは違い、元々頭の良い人なので出席日数さえちゃんと取れていればなんの問題もない。
 これは大地や樹のお陰かも知れない。二人と一緒に進級したいと思いが彼の中に生まれたんだろう。
 ちなみに初詣の時に落ち着いた色になっていた髪色は、冬休み明けにはもとのオレンジ色に戻っていた。



「七星~クラス離れた~」
 ぐずぐずと言いながら僕の肩に顔を押しつける。
「大くーん。それ、わかってたことだよ。僕文系で大くん理数系選択したでしょ」
 頭を撫で撫でしながらそれでもきっぱり言う。
「そうだけどさー」
「ボクがいるから、いいじゃない~~」
 明が大地に顔を近づけて言うが、見もせずに押し退けられる。
「カナ先輩はいらない~七星がいい~~」
「だいくんつめたいっ」
 いつものパターンだ。

 でも、気づいてしまった。


(ん? カナ先輩?
 三学期終わりまで金森先輩って言ってなかった?)


 ふと、見ると。
 ぶつかり合ってる二人鞄に。

「なんか、二人とも可愛いのつけてる。色違いの海月?」

 ぱっと焦ったように僕の肩から離れる。
「え、あ、これはっ」
「可愛いでしょー。この間水族館に行っ」
 バチンッ。
 今度は口を叩かれた。
「いたっ。だいくんひどいっ」
「うるさいっ」
 途中で遮られてもなんとなくわかってしまった。
「あ、二人で水族館行ったんだ?」
「行ってないっ」
 と大地は否定するが、
「けっこう楽しかったよ~今度は四人で行こうか~」
 明はしっかり肯定した。
 そんな明に大地がう~~っと唸る。

    
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

地味で冴えない俺の最高なポディション。

どらやき
BL
前髪は目までかかり、身長は160cm台。 オマケに丸い伊達メガネ。 高校2年生になった今でも俺は立派な陰キャとしてクラスの片隅にいる。 そして、今日も相変わらずクラスのイケメン男子達は尊い。 あぁ。やばい。イケメン×イケメンって最高。 俺のポディションは片隅に限るな。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo
BL
君に愛されたくて苦しかった。目が合うと、そっぽを向かれて辛かった。 結婚した2人がすれ違う話。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

処理中です...