はじまりの朝

さくら乃

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第十一章 

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「だいじょーぶ、だいじょうぶ。これから知ればいいんだよぉ」
 よしよしと頭を撫でられる。

「なーに、やってんすかー」

 大地がトイレから戻ってきて、僕の頭に乗っている明の手をぺちっと叩く。
 僕の隣にどさっと座った。
 部屋のドアが開いたことに少しも気がつかなかった。
「ってっ」と言いながら、明が離れる。

「樹がかっこいーよねーって、話」
「あー」
 大地が口をへの字に曲げたまま。
「確かにかっこいいですねー」
 不服そうに言う。
「今下行ったら、めちゃ女子に声かけられてましたよー」
「ここでバイト始めてあっという間に、樹目当てのコでお客さん増えたってって話だしね。大学生のおねぇさんたちからは、ずいぶんみたいだよぉ」


(うん。わかる。
 あんなにかっこ良かったら、もてるよね)


 玄関にあった靴。放課後に樹の『仲間』が言っていたこと。
 いろいろ思い出して、また胸がもやもやする。
 何でもこんなふうにもやもやしてしまうのか。
 樹ばかりもてるのが悔しいとか、そういうことではないのだけは、はっきりしている。

「背が高くてイケメンで、あのカッコはほんと、反則ですねー。俺とかがやってもああはならない」
「だいくんだったら、めちゃかわいーと思うけど」
「恥ずかしいこと言うな!」
 
 二人の会話も遠くから聞こえて来るようだった。



 それから一時間程して。

 今、その『かっこいい』樹が、目の前にぶすっ垂れた顔で座っている。
 さっきとは違って、制服のグレイのスラックスに、白いV字のセーターを着ている。

「はいはい。じゃあ、樹もこれ持って」
 と、ジュースの入ったタンブラーグラスを渡す。
 最後に樹が運んで来たものだった。
「くそっ。なんで……っ」
「店長に早く上がれるように頼んでおきました~」
 遣ってやった感溢れる顔で言う。
 どうやら勝手に時間を切り上げさせられて、ここに送り込まれたようだ。

「樹もボクのたんじょーび祝ってね」
「勝手なことしやがって。祝ってじゃねぇ」
 そんな彼の言葉はスルーし、
「はいはい。みんなもグラス持って」
 僕らにも促し、自分のグラスを掲げた。
 僕と大地もそれぞれ飲みかけのグラスを持ち上げる。
「では~改めてまして~カナさんの十七歳の誕生日とクリスマスを祝って──かんぱーい」
「かんぱーい」
 樹は結局乾杯には参加しなかった。

 けど。

「──誕生日、おめでと。カナ」

 明の隣でぼそっと言った。
「いつきぃ~~」
 嬉しそうに抱きつこうとして、避けられる。
「一つオジサンになった」
 ニッと笑う。
「それ、言う~?」
「しょうがねぇな。食ってやるか」
『しょうがない』と言いつつ、腹を空かせていたのかがつがつ食べ始めた。

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