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第十一章
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扉の向こうは──確かに、普通の家とは違っていた。
奥に筒抜けていて、ナチュラルウォークのテーブルセットが幾つかと、長いカウンター。
店内にもツリーやクリスマスの飾りつけがされている。
大きな窓からは庭が見える。
玄関側からは見えなかった庭にもイルミネーションが施されているようだ。
カウンターの奥には厨房が見え、白いコックコートを着た料理人が中で忙しそうに動き回っている。
そして、僕らが入って行くと。
「いらっしゃいませ」
の声が四方から飛んでくる。
一番扉に近い場所に立っていた白いシャツに黒のパンツ、黒のソムリエエプロンの背の高い男性スタッフが振り返る。
「いらっしゃいま…………」
軽く笑みを浮かべていたその顔が固まった。
「……あ、いっくん」
「…………」
沈黙して見詰めあってしまう。
「五時半に予約してるんですけど~」
明がにやにや笑いながら言うと、樹の眉間にくっと皺が寄った。
「予約ってお前かよー」
周りに聞こえないくらいの声は、それでも怒気を感じさせる。
「通りで店長、予約の名前言わない筈だよ」
「店長さんに内密でお願いしました~てへっ」
「てへっじゃねぇよ、バーカ」
二人でこそこそ言い合う。
その後。
何事もなかったように店内の方を向き、
「ご予約のお客様いらっしゃいました。ご案内いたします」
と声をかける。
「こちらです、どうぞ」
すっかりスタッフの顔に戻り、二階への階段を指し示す。
僕らが先に階段上までやって来ると、ささっとステーションにあるメニューを持ち、僕らの前に立つ。
二階は個室になっているようだ。
扉の数は四つ。
吹き抜けで廊下からは賑やかな階下が見える。
「こちらです」
一番突き当たりには『Stuff Only』というプレートが下がっていて、その手前の部屋に案内された。
部屋の広さは僕の部屋くらい。
奥にテーブルクロスとカトラリーがセットされたテーブルと、ゆったりしたソファー。
入口の横にはやはりクリスマスツリーが飾りつけられている。
明が率先してソファーに座り、僕と大地もそれに続く。
樹が軽く背を傾け、
「お料理はご注文頂いておりますので、お飲み物を」
メニューを開いて渡される。
アルコール……というわけには行かないので、それぞれソフトドリンクを頼む。
「承知いたしました」
そのまま去ろうとする樹に、
「樹もボクのたんじょーびお祝いしてね~」
と声をかける。
「仕事中!」
すぱっと切り捨てて部屋を出ていった。
「──忙しいから……って」
飲み物も料理も揃い乾杯も済まして食べ始めた頃を見計らって、そろっと口を開いた。
奥に筒抜けていて、ナチュラルウォークのテーブルセットが幾つかと、長いカウンター。
店内にもツリーやクリスマスの飾りつけがされている。
大きな窓からは庭が見える。
玄関側からは見えなかった庭にもイルミネーションが施されているようだ。
カウンターの奥には厨房が見え、白いコックコートを着た料理人が中で忙しそうに動き回っている。
そして、僕らが入って行くと。
「いらっしゃいませ」
の声が四方から飛んでくる。
一番扉に近い場所に立っていた白いシャツに黒のパンツ、黒のソムリエエプロンの背の高い男性スタッフが振り返る。
「いらっしゃいま…………」
軽く笑みを浮かべていたその顔が固まった。
「……あ、いっくん」
「…………」
沈黙して見詰めあってしまう。
「五時半に予約してるんですけど~」
明がにやにや笑いながら言うと、樹の眉間にくっと皺が寄った。
「予約ってお前かよー」
周りに聞こえないくらいの声は、それでも怒気を感じさせる。
「通りで店長、予約の名前言わない筈だよ」
「店長さんに内密でお願いしました~てへっ」
「てへっじゃねぇよ、バーカ」
二人でこそこそ言い合う。
その後。
何事もなかったように店内の方を向き、
「ご予約のお客様いらっしゃいました。ご案内いたします」
と声をかける。
「こちらです、どうぞ」
すっかりスタッフの顔に戻り、二階への階段を指し示す。
僕らが先に階段上までやって来ると、ささっとステーションにあるメニューを持ち、僕らの前に立つ。
二階は個室になっているようだ。
扉の数は四つ。
吹き抜けで廊下からは賑やかな階下が見える。
「こちらです」
一番突き当たりには『Stuff Only』というプレートが下がっていて、その手前の部屋に案内された。
部屋の広さは僕の部屋くらい。
奥にテーブルクロスとカトラリーがセットされたテーブルと、ゆったりしたソファー。
入口の横にはやはりクリスマスツリーが飾りつけられている。
明が率先してソファーに座り、僕と大地もそれに続く。
樹が軽く背を傾け、
「お料理はご注文頂いておりますので、お飲み物を」
メニューを開いて渡される。
アルコール……というわけには行かないので、それぞれソフトドリンクを頼む。
「承知いたしました」
そのまま去ろうとする樹に、
「樹もボクのたんじょーびお祝いしてね~」
と声をかける。
「仕事中!」
すぱっと切り捨てて部屋を出ていった。
「──忙しいから……って」
飲み物も料理も揃い乾杯も済まして食べ始めた頃を見計らって、そろっと口を開いた。
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