45 / 163
第十章
1
しおりを挟む樹が優しい顔を見せてくれたあの日を界に、僕らは再び心を通わせた。
──というわけでもなかった。人の気持ちというのは、それ程単純なものではないらしい。
ただ、避けられることはなくなったし、『近寄るな』と言われることもなくなった。
明が僕らのところに来る時には一緒には話すことはないにしても、傍にはいる。三人でお弁当を食べている場にもたまに顔を出し、少し離れたところに座っている。
今までのことを考えると、そう悪くは状況ではある。
でも。
(もう少し気軽に話せたらな……)
『自分が伝えたいこと』『樹に聞きたいこと』は、結局何の進展もないままだった。
それ以上近づくことも遠ざかることも出来ない、何でもない毎日が過ぎていく。
季節は秋から冬へと変わる。
期末テストも終わり、学校は午前授業となった。
部室でお弁当を食べてから部活に出る大地を、部室の前で見送り、僕ら三人は校門へと歩いている。
毎日ではないが、こんなふうに三人で歩く日も多くなった。
全く姿を見なかった入学当初や、時々しか見かけなかった合同の体育の授業。あの頃はやはり登校してたりしてなかったり、登校はしてても授業はさぼっていたらしい。
樹と同じ行動を取っていた明が言っていたことがあった。
★ ★
「そんなんだから、一年もう一度やることになったんだろー! ほんとは、もっとレベル高い学校に行ける筈なのに! ここで同じ学年になると思ってなかったーっっ」
軽い調子で話していた明に、大地はかなり怒っていた。
夏休み前の、まだ、大地が明に対して冷たく当たっていた頃の話で、この怒りには僕も『あれ?』と感じた。
(本当はそんなに嫌ってない?)
「だいくん、詳し~~」
僕も実はそう思った。当の本人はそれは嬉しそうな顔をしている。
「ボクのこと、スキすぎでしょ~」
「好きなわけあるかーっっ!! そんなふうに、軽すぎるあんたなんかーーー」
明に対して当たりは冷たくても、とりあえず敬語を使っていた大地だが、それも忘れてしまっている。
急にはっとした顔になって。
「まさか、城河と同じ学年になりたいから──とかじゃないよな」
「えーまさかーそんなわけないじゃーん」
何処か棒読み、目も泳いでいる。
「えっまさかっ」
大地が気持ち悪いもの見るような目差しを向けると、明が慌てて手を横に振った。
「違う違う。ただ~面白くなかっただけ~気がついたら、全然授業出てなかった~」
ひとつ下の生徒と一緒に、もう一度同じ学年をやり直す。僕から見たらかなり勇気がいること。自分がそうなった日にはたぶん不登校になって、退学するとこまで行くんじゃないかと思う。
27
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
地味で冴えない俺の最高なポディション。
どらやき
BL
前髪は目までかかり、身長は160cm台。
オマケに丸い伊達メガネ。
高校2年生になった今でも俺は立派な陰キャとしてクラスの片隅にいる。
そして、今日も相変わらずクラスのイケメン男子達は尊い。
あぁ。やばい。イケメン×イケメンって最高。
俺のポディションは片隅に限るな。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる