はじまりの朝

さくら乃

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第十章

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 樹が優しい顔を見せてくれたあの日を界に、僕らは再び心を通わせた。

 ──というわけでもなかった。人の気持ちというのは、それ程単純なものではないらしい。

 ただ、避けられることはなくなったし、『近寄るな』と言われることもなくなった。
 明が僕らのところに来る時には一緒には話すことはないにしても、傍にはいる。三人でお弁当を食べている場にもたまに顔を出し、少し離れたところに座っている。

 今までのことを考えると、そう悪くは状況ではある。
 でも。


(もう少し気軽に話せたらな……)


『自分が伝えたいこと』『樹に聞きたいこと』は、結局何の進展もないままだった。



 それ以上近づくことも遠ざかることも出来ない、何でもない毎日が過ぎていく。
 
 季節は秋から冬へと変わる。

 期末テストも終わり、学校は午前授業となった。
 部室でお弁当を食べてから部活に出る大地を、部室の前で見送り、僕ら三人は校門へと歩いている。
 毎日ではないが、こんなふうに三人で歩く日も多くなった。

 全く姿を見なかった入学当初や、時々しか見かけなかった合同の体育の授業。あの頃はやはり登校してたりしてなかったり、登校はしてても授業はさぼっていたらしい。
 樹と同じ行動を取っていた明が言っていたことがあった。



★ ★



「そんなんだから、一年もう一度やることになったんだろー! ほんとは、もっとレベル高い学校に行ける筈なのに! ここで同じ学年になると思ってなかったーっっ」

 軽い調子で話していた明に、大地はかなりいかっていた。
 夏休み前の、まだ、大地が明に対して冷たく当たっていた頃の話で、この怒りには僕も『あれ?』と感じた。


(本当はそんなに嫌ってない?)


「だいくん、詳し~~」
 僕も実はそう思った。当の本人はそれは嬉しそうな顔をしている。
「ボクのこと、スキすぎでしょ~」
「好きなわけあるかーっっ!! そんなふうに、軽すぎるあんたなんかーーー」
 明に対して当たりは冷たくても、とりあえず敬語を使っていた大地だが、それも忘れてしまっている。
 急にはっとした顔になって。
「まさか、城河と同じ学年になりたいから──とかじゃないよな」
「えーまさかーそんなわけないじゃーん」
 何処か棒読み、目も泳いでいる。
「えっまさかっ」
 大地が気持ち悪いもの見るような目差しを向けると、明が慌てて手を横に振った。
「違う違う。ただ~面白くなかっただけ~気がついたら、全然授業出てなかった~」
 ひとつ下の生徒と一緒に、もう一度同じ学年をやり直す。僕から見たらかなり勇気がいること。自分がそうなった日にはたぶん不登校になって、退学するとこまで行くんじゃないかと思う。
 

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