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第九章
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しおりを挟むもしかしたら──望みは『薄』ではないのかも知れない。
プレゼントは突き返されなかったし、僕の前髪を整える手は思いの外優しかった。
もう一度樹に会って、聞きたいこと伝えたいことを言う。
そう毎日考えながら、残りの夏休みを費やした。
夏休みが終わり、一週間程が過ぎた日の昼休み。
いつも一緒にいる大地と、何故か二学期に入ってから必ず現れるようになった明と、中庭の木陰でお弁当を食べている。
「これ、ちょーだい」
と、大地のお弁当から卵焼きを摘まむ明。
「美味し~~」
そして、また手を伸ばし、パシンッと叩かれる。
「ってっ!」
「もうやめろよ~俺のなくなるっ」
「ボクのパンあげるから~」
(ん~?)
気のせいだろうか。
明に対する大地の反応が以前と違うような気がするのは。
敬語もなくなった?
それに、夏休み前までは、明が近づくと僕を遠ざけるようにしていたのに。それもなくなった。
この間僕の家で一緒に過ごしたことで、大地の明に対する気持ちに変化でもあったんだろうか。
「ねえ、なんか、二人って仲良くなってない?」
「えっ」
びくっとして大地が固まる。
「そんなことないよっ」
「だいくん、つめたっ。なかよくなったじゃ~ん」
明が大地をぎゅうっと抱き締める。
「やめろって」
それを押し返す大地の反応はいつも通りのような気もする。
でも。
(だいくん、顔真っ赤?)
じっと見つめていると、照れ隠しか、
「それよりさー七星のほうはどうなったんだ?」
急にこちらに話を振ってくる。
「どうって?」
「だから、城河のことだよー」
「そうそう」
大地から手を離して明も同意した。
「ななちゃん、いつまで経っても何も言わないから、気になってしようがなかったんだけど。樹とは話できたの?」
「あ……うん……」
僕はあの日のことを二人に話した。既にいろいろ話してしまっていたので隠すこともないし、誰かに聞いて貰いたくもあった。
「城河のヤツ、許せねぇー」
大地は怒りを見せたが、明はちょっと違った。
少し思案げな顔をした後、ぽんぽんと僕の頭を撫でた。
「──でも、樹はプレゼント返さなかったんでしょ。だったら、望みはあると思う。お互いまだ話せてないことあるだろうし──ななちゃんがまだ樹ともう一度昔みたいに……って思うなら、チャレンジだよ。ななちゃんが樹を切り捨てるって思うまで、何度でも、だよ!」
明の優しい声音と励ましの言葉に涙が出そうになる。
大地はまだむっとした顔をしている。これも僕のことを思ってだろう。
(メイさん……大くん……)
自分のことでこんなに親身になってくれる人が昔の樹以外に二人もできるなんて、中学時代や高校入学当時には思いもしないことだった。
友だちの少ない僕には、この二人だけでも充分だと思えた。
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