はじまりの朝

さくら乃

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第八章

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「そんな顔しないで」
 明の手が伸びてきて、優しく頭を撫でる。
「……樹は、後悔してないと思う、ななちゃんの為にやったこと」
「でも……」
 優しい顔で僕を見る明も、相変わらず口をへの字曲げた大地の顔も、次第に滲んでいく。


(でも……いっくんは僕から離れていった。
 でも……いっくんはいつも怒ったような顔で僕を見る。
 でも……でも……。

 嫌われているとしか……思えない)


「樹があんなふうに変わったのも、ななちゃんのことを避ける理由もわからない。それは本人に訊いてみないと。でも、樹はななちゃんのことを嫌ってなんかいないって、ボクは思うよ。だから──ななちゃん、樹にぶつかっていきなよ」
 明は力づけてくれるけど、でも、僕は首を横に振った。

「駄目だよ……だって、近づくなって言われた──」
「あー」
 二人が同時に声をあげた。
 微妙に違うイントネーションが、心情の違いを表しているようだった。



★ ★



 一学期最後の日。
 全校集会とホームルームを終え、その日は一斉下校となった。
 僕は大地と話しながら校門へと歩いていた。
 明日からの夏休みに浮かれ、皆わいわいと下校していく。
 その中でも一際目立つ集団が、僕らの後からやった来て通り過ぎる。


(あ、いっくん)


 『例の集団』だ。その中には樹もいる。

「あ、ななちゃん、だいくん。ばいばい~」
 少し遅れて歩いていた明が、気がついて手を振る。
「メイさん」
 僕も手を振り返したが、大地はそっぽを向いていた。
「だいくん、つめたっ」
 笑いながら集団の中に混ざって行った。この集団でいる時は明も余り近寄っては来ない。ああやって声をかけてくる程度だ。
 少しずつ遠ざかって行くのを見ながら歩いていると、どんと背中から衝撃を受けてよろける。
「あ、ごめんねー」
 数人の派手気味な女子が通りしな、その中の一人が僕にぶつかったのだ。
 口では謝っているが、少しもそうは思っていない顔をしている。
 全員がくすくすと笑いながら、その前の集団を追いかける。
「樹くん待ってー」
「カナさぁーん」
 とか
「○○せんぱーい」
 とか。
 あの中には同学年ばかりではなく、上級生も混ざっている。

「なんだ、アイツら。わざとぶつかっただろ」
 大地の憤慨した声。
「そう?」
「そうだよ! 樹たちのファンには、たちの悪い奴らも多いからな──金森先輩が七星にちょっかい出すから、面白くないんだろ」
 そのことは僕も知っていたし、実際一部の女子ばかりか男子にも軽く嫌味を言われたり、今みたいこともたまにある。
 でも、もう慣れっこだった。


    
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