32 / 163
第七章
2
しおりを挟むいつも母には怒られるんだけど。
インターフォンで確かめてから出るんだよって。
相手が分かってるからいいだろうと、無視して玄関から飛び出した。
「びっくりしたーっ。あ、ななちゃんの私服姿見ちゃった。新鮮っ!可愛い~」
「え、かわ……」
(かわいい……って。僕、男なのに)
でもなんか悪い気はしない。
(あれ? 大くん、めちゃメイさん睨んでるけど、どした?)
それにしても。
それはこっちの台詞。
明も大地も、制服やジャージ以外の格好を見るのは初めてで、それだけでぐっと親しくなったように感じる。
明は黒のタンクトップに黒のダメージジーンズ。二、三箇所切れ目が入っている。それに、透け感のある白い半袖シャツ。制服よりもスタイルの良さが際立って、格好いい。
大地は、白のTシャツに、クロップド丈のライトブルーのジーンズ。ブルーの格好いいスニーカー。夏の青空みたいに爽やかな大地に良く合っている。
「でもね、ななちゃん。急に出てきちゃダメだよ。ちゃんと確かめないとね」
メイさんが母みたいことを言う。
「なんで、メイさんが一緒に?」
「コンビニで会った」
そう言って大きめのビニール袋を軽く持ち上げた。
同じ小中に行っていた二人が同じコンビニを使っていたとしても可笑しくはない。
それがたまたま今日だったというだけ。
「ななちゃんのお誕生日だって言うから。これはお祝いしないとねー」
「勝手についてきただけだから、もう帰すから」
心底嫌そうな顔をしている。
「だいくん冷たっ」
「大くんって言うなー」
「大くんいいよー。せっかく来てくれたんだから」
「えー」
祝われる当人よりずっと不満気。
でも、この二人なかなか良いコンビのように思える。
「メイさんありがとうございます。二人ともどうぞ」
「おじゃましまーす」
同時に言う。
(ほら、やっぱり)
二人とも玄関に綺麗に靴を揃えて中に入ってくる。
背の高い明は引き戸の上枠を少し頭を傾けてくぐる。
樹より確か少し高い筈。
でももし樹が今来たとしたらこんな感じかも知れない。
「ねぇ、ななちゃん。お線香上げさせて貰ってもいい?」
ふと気がつくと、明は真っ直ぐ進んだところにある仏壇の前にいた。
上と下に収納がある、ぽっかり空いた空間。もとは電話が置いてあった場所。そこに小さめの仏壇が置いてあり、父の写真が飾られている。
「ありがとうございます」
僕がそう答えて蝋燭に火をつけると、明は線香を一本手向けてくれた。それに習って大地も。
細かいことを聞かないのは明の優しさか。
見た目や最初の印象とは違い、物凄く気遣いのできる人だと思う。
『怖い人』と言った大地の言葉に納得できる部分もある。いつもの調子の良い明とは違う口調だったあの時に感じた。
僕の知らない面をたくさん持っていそうだが、でも今のこんな明もけして嘘ではないと思う。
27
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
地味で冴えない俺の最高なポディション。
どらやき
BL
前髪は目までかかり、身長は160cm台。
オマケに丸い伊達メガネ。
高校2年生になった今でも俺は立派な陰キャとしてクラスの片隅にいる。
そして、今日も相変わらずクラスのイケメン男子達は尊い。
あぁ。やばい。イケメン×イケメンって最高。
俺のポディションは片隅に限るな。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる