はじまりの朝

さくら乃

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第六章

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 溜息が出そうになって慌てて止める。


(なんか、最近溜息ばかりだなぁ)


 ふと、視線を感じた。
 僕の横顔を大地が見詰めている。
「なに? 顔に何かついてる? ご飯とか?」
「えっ」
 自分の行動にはっとした。そんな表情をしている。
「あっ、やっ、なんでも……」
 また顔が朱くなった。
「さっきから顔朱いけど、熱でもあるのかなー」
 手を伸ばして大地の額に当てようと手首を掴まれた。そのまま「大丈夫、大丈夫」と手を振る。
「それよりさ」
「う、うん?」
 かなり前のめり気味になってくる。
「前から気になったんだけど、前髪長くない? もうちょっと切ったらいいのに。せっかく、可愛い……じゃなくてっ。これから暑くなるしな!」
 前髪に手が伸びてきて──。

「った!」
「わっ!」

 同時に叫んだ。
 僕がけようとしたのと、大地が前のめりになり過ぎたのとで、後ろに倒れてしまう。
 テラスはコンクリートではなく人工芝で、怪我はしないだろうが、それなりに後頭部に衝撃はあった。
 一緒に倒れ込んできた大地の重みを、ぎゅっと目を瞑って耐えた。
「ごめんっ」
 慌てて上体を起こしたのを感じて、僕も目をひらいた。
 片手は繋がれたままで、上から見下ろされている。
 ──見詰め合ってしまった。
 

(んん?
 なんだろう。
 この展開。
 少女漫画みたいな。
 でも、僕が相手じゃあねー)

 
「ごめんっ大丈夫?」
 心なしか声が上擦っている。
 顔も真っ赤だ。


(まぁ。男同士でも、これはちょっと照れるよね)


「うん。大丈夫だよ」 
 そう答えたけど。
 大地はそのまま固まっていた。
 視線が……。

「あ……」

 彼の視線は額にあった。
 今のばたばたで、前髪が乱れたらしい。
 気まずい空気が流れた。

「やだーなにやってんの~~」

 素っ頓狂な声がその空気を破ってくれた。
「メイさん」
 上から顔を除かせる。
 オレンジ色の髪を、今日はゴムで下側に結わいていた。
「げっ」と変な声を上げて、大地が僕の上から飛び退いた。それから、明と僕の間に座る。肩で僕を押すので、徐々に明から遠ざかる。

「なになに。ひょっとして、お邪魔だったかな~。キミたちそういうかんけーなの?」
 と訳のわからないことを言う。
「そんなんじゃねぇですっ」
 大地には意味がわかったらしい。
「冗談だよぉ。そんなおっかない顔しないで」
 くすくす笑いながら、さりげなく間を詰める。
「でも、いっつも一緒にいるよね。仲良しさんだー」
「そういう、金森先輩も、城河といつも一緒じゃないっすかー。今日はいないんですか?」
「あ、樹は。今ね。二年の女子にもってかれたー」
「あ、告白タイムか。城河もてもてだな」


(もてもて……)


 どきんと胸が跳ね上がった。
 
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