はじまりの朝

さくら乃

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第一章

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 何処の学校でも大抵植わっているのでは、と思わせる桜。この学校でも、外塀に沿って桜が植わっている。
 塀の外側を歩いている時か、校門を通った時についたのかも知れない。
 白い花びらの散った額だけの。紅い、また別の花のような桜。
 花柄かへいを指先で摘まんで、僕の眼の前でくりくりと回す。
 全く気にもしていない笑顔に、僕はほっとした。


(いつかは……わかることだけど……。
 でも、なるべく、引き伸ばしたい……)


 僕は軽く前髪を整え、そこから手を離した。


 立ち止まった僕を歩かせるように、大地が肩を組んだまま、ぐいっと前へ押す。


(なんか、顔ちか……)


 お互いまだまだ発展途上中で、背の高さが同じくらいなのだろう。顔が間近にあった。


 誰かと密着するなんて、久しぶりだ。
 いっくんとも、こんなふうに。



『もう、しょうがないなぁ。ナナは』

 いつまでも追いつかない僕を、最後には待っていてくれた。それから、肩を組んで一緒に歩く。
 確か小学校低学年まで同じくらいの背丈だった。それから少しずつ間近にある顔の位置は
ずれていった。
 日焼けした肌。ガキ大将のように元気で。屈託なく笑う。
 大地の何もかもがその頃の樹を思い起こさせる。そう思うたび、温かいような、切ないような気分になる。


「あ……」
 ぼんやりと考えごとをしていたせいで、大地と歩調が合わず足が縺れてしまう。
 よろめいたところを、どん……っと誰かにぶつかった。
「すみませ……っ」
 慌てて謝りながら顔をあげると、オレンジ色の髪の背の高い男が、僕らを見下ろしていた。
 

(あ……昨日の……)


 派手な集団の中にいた一人だった。

「ああん?」とでも言いたげな険しい顔。でも、一瞬で崩れにやにや笑いをする。
「あー仲良しこよしでちゅかー。だめでゅよー、ちゃんと周り見なくちゃー」
 得体が知れなくて、余計怖くなった。
「七星」
 大地が僕を庇って前に出ようとした瞬間。
「カナ、絡むな」
 押さえぎみの低い声が飛んできて、間に入ってきた人物がいた。


(いっくん?!)


「お前……」
 今度は完全に僕を見た。間違いなく僕のことがわかった表情をしている。
「……なんでここに」
 口の中で小さく言い、その後ちっと舌打ちをするのまで聞こえてきた。
 胸がぎゅっと痛くなる。


(やっぱり……会いたくなかったのかな。
 僕のこと……きら……い……になった……? )


 ほんの数秒の出来事が僕を完全に落ち込ませた。つん……と鼻の奥が痛くなる。

    
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