春を拒む【完結】

璃々丸

文字の大きさ
上 下
4 / 5

雨晴れて覗く空の色

しおりを挟む
「汚い、ねえ・・・・・・あんねえ、恵都君と結婚したいなら君自身の実力で黙らせるか、金の力で黙らせるしかあらへんのやけど。 そのどちらも嫌です出来ません、じゃあ、お話にならへんのやけどね」


 こちらを睨む雛子を、環は呆れたように見ていた。こうやって話を続けても埒が明かないのは明白で、もう話を切っても良いだろうと考えた。


 それに、環は彼女達に付き合って禁煙席に座っていたので、そろそろ煙草が吸いたくなってきたのだ。


「ねえ、桜さん。 君に聞きたいんやけど、君は恵都君と結婚したい、言うけどそのコトについて恵都君自身はどう言うてるん? 勿論、んやんね?」


 そう言うと、初めて両隣に座る友人達ははっ、としたような顔をして雛子を見た。この三人は雛子から『ケイト君が変な人に付きまとわれてる。 むりやりつき合わされてかわいそうだから、何とかして助けてあげたい。だから、手伝って欲しい』と。勿論、自身と恵都は好き合っていると言う前提でこのような事を言われ、同情した三人はこうやって付いて来たのである。


 もうここまで来ると流石に雛子が嘘を言っている、と言う疑惑は濃厚だった。まだ疑惑、なのは信じたい、と言う気持ちよりも、何もかもが噓だった時自分達が被る被害の事を考えたくない、と言う所から来ているからだ。


「聞いとるよ、君らんとこのゼミの先生と、恵都君所の先生とサークルの部長さん、サークルのメンバーも巻き込んで話し合いしたらしいやん?」


「・・・・・・っ!」


 何故知っているのか。青い顔で雛子は環を目を見開いて凝視した。


「え、え・・・どういう事? ヒナ、話し合い、って何?」


 雛子のカーディガンの裾を軽く引きながら、本当に何も知らない稲葉は雛子を見上げた。しかし雛子は稲葉の手をパシンッ、と叩いて振り払う。


「・・・・・・っ! ちょ、ヒナ・・・・・・」


 言いかけた稲葉は、雛子に涙目で睨まれて言葉を詰まらせた。


 何よソレ・・・・・・っ!?


 あんまりな態度に、稲葉は絶句しながらも、もうコイツの味方はしないと心に決めた。


「何で知ってるんや、って顔やね。 当たり前でしょう、恵都君が全部教えてくれたんやから」


 普通に考えれば、そうだろう。


「僕は恵都君の婚約者なんやから、当事者のひとりとして知ってないとおかしいよね?」


 計画、と言うのもおこがましいが、雛子の中で立てていた計画がもろくも崩れ去った瞬間だった。


 環に、雛子が恵都と自分は好き合っているのだから邪魔をするなと言えば、向こうが泣く泣く離れてくれるだろうと、考えていたのだ。


 実際は、真逆な事が起こって自分が涙目になっている。普通に考えれば、当たり前の話だった。雛子達よりも一回りは年上の男が、年下の女の子に言いくるめられて婚約者と泣く泣く別れる、なんてあり得ない話である。


 それに、本当に付きまとわれているのなら、警察か、弁護士に相談する案件である。
 

 自分達のようなただの小娘がて、何が出来ると言うのか。本当に恵都が雛子の事を好きなら、好きな子を矢面に立たせるような真似はしないだろう。


 今更ながら、稲葉は自分達が色々と間違えていた事に気付いてしまった。いや、気付けて良かったのかもしれない。


「あ、あの・・・・・・北條院、さん」


 稲葉が何とか口を挿んだ。


「はい、何でしょ?」


 今ならまだ間に合う、と思った稲葉はㇲッ、と立ち上がり頭を下げた。


「私たちどうやら雛子に嘘つかれてたみたいで、北條院さんの事誤解してました、本当に申し訳ありませんでした」


 と、丁寧に頭を下げた。すると、山田、斎藤も慌ててそれに続いて立ち上がって頭を下げた。


「すいませんでした」


「す、すいませんでしたっ」

 そして稲葉は雛子を横目で見ると、彼女をやんわりと押しのけ伝票を手に取った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【BL】声にできない恋

のらねことすていぬ
BL
<年上アルファ×オメガ> オメガの浅葱(あさぎ)は、アルファである樋沼(ひぬま)の番で共に暮らしている。だけどそれは決して彼に愛されているからではなくて、彼の前の恋人を忘れるために番ったのだ。だけど浅葱は樋沼を好きになってしまっていて……。不器用な両片想いのお話。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

処理中です...