春を拒む【完結】

璃々丸

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鈍色の空

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 すると、雛子はみるみるその顔を桜色に染めてふみゅ~、と奇妙な声を上げた。


「は、はうぅ・・・・・・ケイト君のお嫁さん・・・・・・っ」


 結婚、と言うキーワードだけで何を妄想したのか、両手で自分の頬を包んではうはうと照れていた。


「・・・・・・うん、まあ幸せに浸ってるとこ申し訳ないけど僕の質問に答えてくれる?」


 彼女の妄想に水を差すと、はっ!と言いながら我に返った雛子は自身の胸元で握り拳を作り、興奮気味に環に言った。


「も、もちろんっ、け、けけk・・・んんんっ、結婚したいですっ!」


「・・・へえ、で。 君は何が出来るん?」


 環の問いに、雛子は一瞬きょとんとした顔をしたが質問の意味を雛子なりに理解し、答えようとしたところで環は遮るように言葉を重ねた。


「ああ、『お菓子作りが得意です』言うんはナシね」


 唯一の回答を封じられた雛子はうっ、と言葉を詰まらせどうしようかと考えようとしたが、しかし雛子の次の回答を待たずに環が心底呆れたように溜息を吐く。


「なんやあ、君ホンマになんも無いんやね。 せめて五か国語喋れます、とか将来諏訪の家になんか利益が出る研究してます。 くらいは言うて欲しかったわ」


 随分とストレートに嫌味を炸裂させているが、をした所で雛子が理解できるはずも無いのでそのものずばりな言い方をしているだけだ。


「言うとくけど、恵都君と結婚したいなら北條院と諏訪の家が納得するがないとアカンよ」


 『可愛いお嫁さんになれます』では駄目なのだ。


 彼女はきっと恵都と結婚し、自分好みのマンションか一戸建てで彼の帰りを美味しい料理を作って待つのが夢だったのだろうが、残念ながら諏訪家ではそのような嫁は希望していないのである。


 そして同時に、環の後釜に納まりたいなら北條院を黙らせる実力がなくてはならない。


 しかし残念ながら彼女────。何故なら、彼女はだからである。


 雛子の両親は勿論アルファとオメガだ。医師の家系のアルファの父親を持つ、一般的に見れば裕福な家庭のお嬢さんである。


 しかし、それだけだ。彼女に特筆すべき特技も能力も無い。


 それが悪い訳では無い。ただ、条件に合わないだけである。しかし、雛子にはそれが理解できなかった。


「あ、アタシはケイト君が好きですっ!それだけじゃ、ダメなんですかっ!」


「うん、アカンね」


 ばっさりと言い切った。もし、恵都と好き合ったうえで言っているならば考える余地もあったかもしれないが、それは環の気持ちの問題であって結局は諏訪家と北條院家を説得する理由にはならない。


「まあ?君が僕の家に慰謝料払います、言うんなら考えてあげてもええけど」


 環は目を細めながら言った。


「あ、言うとくけど結納やらなんやらで動いたお金は百や二百なんてちゃうで?」 


「お金で解決だなんて、汚いです!そんなの、良い大人がするコトじゃありませんっ!」


 何処までも自分本位で我がまま。そして何ひとつこの話を理解していないのは当事者のはずの彼女だけである。


 雛子の友人達だけでなく、興味本位で聞き耳を立てているファミレスの客達ですら、この話の本質を理解していると言うのに、雛子だけが全く理解できていなかった。  
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