春まだ遠く

璃々丸

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雪解け前の雨

七.

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 こうしてふたりはこっそりとではあるが、先ずは友達として付き合う事が決まった。


「本当に無理だと思ったら・・・正直に言って欲しい。改善できそうな事なら直すし、ダメなら別れるから」


 はっきりとそう告げて来た颯人に、ましろは好感が持てたのか大きく頷いていた。


「それなら、僕のコトも悪い所があれば教えてくださいね」


「ああ、お互い良い関係が築けるよう、頑張ろう」


 そうしてその日はお互い固く手を握り合い、連絡先を交換して別れた。


 ましろが家に帰り着くと携帯がタイミングよく震えたので、慌てて制服のポケットから取り出すとロック画面にリアルタイムでチャットが出来るSNSアプリから、颯人の友達招待の通知が来ている事を知らせるメッセージが。


 ましろは急いでロックを外して画面を開くと、招待を受けるボタンをタップした。


 すると、少しして颯人とのチャットルーム画面から今日はありがとうのメッセージがポン、と現れたのでましろもありがとうのメッセージと共に可愛い猫のイラストのスタンプを送った。
 暫く玄関先で靴も脱がずにメッセージの遣り取りをしていたら、突然声を掛けられた。


「ちょっと、玄関先でなにやってんの?」


 呆れを含んだ、やや険のある言い方だが確かに最もな事を言われ、ましろは慌てて靴を脱いだ。


「た、ただいま・・・夏兄。もう具合は良いの?」


 二階から降りてきて、偶然居合わせたのは次兄の夏樹であった。


「ああ、まあね」


 そう言ってふい、と去って行った。

「・・・・・・」


 相変わらず夏樹は冷たく素っ気無い態度である。小さい頃はもう少し愛想があったような気もするが、もうそんな事も思い出せないくらいましろには無愛想な兄であった。


 僕、何かしたのかな・・・・・・。


 言ってくれなければ直すことも気を付ける事も出来ないのに、春人も夏樹も・・・・・・否、ましろの周りはましろに何も言ってくれない。


 そう思うと、颯人のお互い歩み寄ろうとするその心がましろには沁みた。


 ましろは二階に上がると自室へ向かい、制服から部屋着に着替えてダイニングに向かった。
 ダイニングには既に春人も居て、夕飯の準備は整っていた。


「お帰り、ましろ」


「ただいま、春兄」


 そう言いながら、ましろが食卓に着いて食事が始まった。矢張りと言うか、相変わらずお通夜のように静かな食事風景にましろは密かに嘆息していた。


 夏樹はヒート開けなせいか、まだ気怠げな様子で小鳥のような量の食事を静々と食べている。
 次兄の見た目は、日焼けを知らないような白肌に、本来は烏の濡れ羽色のような髪色だが今はほんのりとバイオレット味のある色に染めている。
 険のある目鼻立ちをしているが、長い睫毛や日本人には珍しい、淡い空色の瞳を持っているやや女性的な印象の青年だった。


 綺麗、だよね、とましろは思う。世間的に見ても美人だと大抵の者は言うだろう。実際、画像などのビジュアル要素を通じたコミュニケーションを行うSNSでは三万越えのフォロワーが居る。
 実はましろもこっそりフォローしているが、夏樹の投稿はネイルだったり買った服だったりが主だが、たまに載せる自撮りだと万越えのいいねが付くので凄いと思っている。


 とは言え、性格がちょっとキツイよね。


 ましろには塩所か氷みたいに冷たい態度はましろも凍り付きそうである。
 せめて春人のように当たり障りない態度で居てくれれば、と思うのだが、なぜこんなに自分を嫌うのか。


 今はもう、自分で息をひそめて過ごすしかない。


 息が詰まりそうな家が嫌なら母の居る離れへ行けば良いのだけれど、実は最近その離れから此方へ連れて来られたばかりだったのだ。
 どうして離れ離れに暮らしているかと言うと、緋紗英がましろに体質に合わないヒート薬を小さな頃から飲ませていた事が判明して、そのまま一緒に暮らしているとましろの命に係わる為引き離されたのだ。


 緋紗英自身も現在は、所謂精神的な安定剤等も処方されているので会いたいと言っても、からと言われて最近はあまり会えていない。


 寂しいけど具合が悪いなら仕方ないもんね。


 離れは現在緋紗英と女性のお手伝いふたり程が今は彼女の世話をしている。連絡手段は離れの内線電話だけだ。
 内線に出るのはそのお手伝いの女性のどちらかで、大抵は面会を断られるので最近は連絡をしていない。   
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