復讐はショコラよりも甘い

璃々丸

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風、清かに

八十.

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 数日後、トレンティノ中央駅にグィードとジュリオの姿があった。
 バルディーニ家の専用列車の側に立ち、見送りに来たラウラとダリオと話をしていた。
「お父様、お兄様もお気を付けて」
 寂し気に此方を見上げて来る妹に、グィードはそっと肩に手を置いた。
「ありがとう、お前も元気で暮らすんだぞ」
 これからも大変だろうが、もうグィードが思っているような脅威は襲っては来ないだろう。これからはダリオとその周囲の人々が、彼女を助けてくれる筈だ。
 これからグィードは、故郷のトリーノに帰って本格的に領主の跡取りとして仕事に取り組むことになる。
 しかし、そうなる前にグィードは地獄に行く。
 
 ルシフェールに己の全てを捧げて召喚し、復讐を果たした。そして全てが終わった今、もうこうして此処に居る意味は無い。
 ルシフェールの慈悲のお陰で、今は親しい者達に別れの挨拶をする為に生かしてもらっているだけだ。
 事が済めばグィードは生きたまま地獄に墜ちる事になる。
「さあ、名残惜しいかもしれんが・・・行くぞ、グィード」
 積み荷などを積み終わり出発の準備が整った事を告げられたジュリオが、グィードの肩を叩き移動するよう促してきた。汽車のタラップに脚を掛け乍らグィードはふたりに振り返る。
「じゃあ、ふたりとも・・・お元気で」
 兄と父が客車車両の窓から顔を出し、ふたりに手を振る。するとラウラは泣きそうな顔で大きく手を振り、ダリオは軽く頭を下げた後、力強い頼もしい顔で此方を見上げてきた。
 対照的なふたりに見送られ乍ら、徐々に汽車は走り出す。黒煙をあげながら汽笛を鳴らし、鉄の馬車はトリーノに向かって出て行った。
 グィードは早々に窓を閉め、ジュリオと別れて自身に与えられた汽車の個室に向かった。
 長い廊下を経て辿り着いた部屋は、寝台車の個室部分を改造してそこそこ広さのある部屋に仕立てた感じである。
 ベッドと簡素な抽斗などがある以外は、やや殺風景ですらあったがグィードはそれで良かった。
 一か月近く掛けて、これからトリーノに帰る事になる。中々の長旅だが、今は帰れることに対する安堵の気持ちの方が強い。
 此の所、悪魔達は気を遣ってくれているのか此処の所姿を見せていない。
 有難い反面、少し寂しい気もするがあまり姿を見ていないと今迄の復讐が本当だったのか分からなくなりそうだった。
「・・・・・・ルシフェール様・・・・・・?」
 不安になって、何もない虚空に向かって名を呼んでみた。
「・・・・・・・・・・・・」
 暫く待ってみたが、何も変化が起こらず怖くなって辺りを見渡すと不意に、背後から白い手が伸びてグィードを攫った。
「・・・ッ、ルシフェール様っ!」
 白い悪魔の腕の中で、グィードは驚いた声をあげた。
「怖がらせたか? すまんな」
 ルシフェールの笑いを含んだ声音だが、安心させるように抱きしめながらその利発そうな額にキスを落とした。
「ふむ、気を利かせたつもりだったが不安にさせたな」
 そう言いながらベッドに腰掛け、その隣にグィードを座らせた。
「我らは常にお側におります」
 そう言ったのは、床に跪いてグィードの右手を取ったベリアドであった。
 恭しく右手の手の甲に口付け、熱っぽく此方を見て来る。するとベルゼビュート、ダエーワも現れて慰める様にグィードにキスをしたり膝の上に座らせたりとまるで幼子の様に甘やかしてきた。
「ごめんなさい、俺の我儘で皆さんに迷惑をかけてしまって・・・・・・」
 恥じ入って頬を赤らめるグィードに悪魔達は益々蕩かすように甘やかす。
「何をおっしゃいますやら、もっと我儘を申されても良いと言うのに」
「我らが月明かりの君は何と慎ましやかな」
「如何やら我らはまだまだのようだ。 グィード様にはもっと我儘になって頂かなくては」
 揶揄われているのかそれとも本気なのか、悪魔達は熱心に愛撫して来た。   
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