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薄氷の上でワルツを
七十一.
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王城に着いて、馬車の降車場まで辿り着くとその降車場にカルロが待っていた。
所謂正装姿で、今か今かと言った風情で待っていた。
「ようこそルイス嬢! 待っていたよ」
そう言いながら馬車から降りようとするルイスに手を差し伸べる姿は、とても様になっていた。
この、見目だけは麗しい王子様の顔面にパンチを入れてやりたい衝動に駆られたが、矢張り此処でもその気持ちは抑えた。
クッソ、大臣のヤツまたかよっ・・・まったくもう、何してんのよ・・・・・・っ!
数日前にも念押ししたと言うのに、アルバーノは前日にも何も連絡を寄越さなかった。最近は情報の類も、連絡すらも回って来ないし仕事もまともに回って来ない、と弁明していたが流石に今日の様な日に連絡が来ないと言うのは有り得ない。
前日の、多分ギリギリに連絡が来ただろうがそれでも一言ぐらい此方に言えた筈であった。
もう此処迄来たら逃げられない。せめても、魔女である事がバレないようにするしかない。
でもどうしよう・・・・・・聖女として認定・・・は、このままじゃ無理だし・・・・・・。
そう、回復の奇跡を閉じ込めた魔晶石があったから出来た作り物の奇跡なのである。今日はそう言った仕込みを持って来ていない為、無理かもしれない。
カルロに手を取られながら、長い石造りの回廊を歩くルイスは内心冷や汗がだらだらと流れ落ちていた。
今のルイスは、実は周囲の人間全てが自分の正体に気付いており、罠に嵌める為にこんな事をしているのではないかと疑心暗鬼に陥り掛けていた。
・・・・・・大丈夫、大丈夫。だってその為にこの娘の身体を選んだんだから。
そう、無作為にルイスと言う娘の身体を選んだわけでは無い。瘴気耐性があり、魔導士、魔法士の素質のある少女であったから選んだのだ。
ひいては魔女の素質もある、と言う事でもある。もし、何かしらの魔力を感じ取られたとしてもそれは素質があるからだと認められたら、逃げられるかもしれない。
そんな事を考えていたら、ピタリと一緒に歩いていた周囲の人間達が立ち止まる。はたとして立ち止まったら、扉の向こう側でカルロとルイスが来たことを告げる声が聞こえ、大きく荘厳な造りの扉がゆっくりと開かれた。
中はダンスパーティーも開ける程の大広間で、そして室内には既に招待客達が集まって、彼等を待ち構えている状態であった。
中に導かれ、一歩足を踏み入れる。途端、視線は一斉にルイスに注がれた。
無遠慮で、容赦ない値踏みをする沢山の目、目、目・・・・・・。魔女は今迄だって差別的で侮蔑的な視線に何度も晒されてきた経験がある。慣れた、とは言わないが貴族達のそれはなお鋭く突き刺さる。
ヒュッ、と小さく喉が鳴った。
青い顔をしていたのだろう、流石にカルロが大丈夫?と囁きかけた。
「・・・・・・うん、流石に緊張しちゃって・・・・・・」
「大丈夫だよ、例え悪い結果だとしても君を悪いようにはしないから」
本当にそうだと良いのだけれど。
遠く、緊張する少女を気遣う王子とその優しさに健気に応える少女の仲睦まじい姿を、茶番だと嘲笑う者が居た。
「ククッ・・・・・・見ろ、前菜がやって来たぞ」
そう言ったのは貴族、と言うよりは王族皇族の方がしっくり来る様な美しくも厳かな姿をしたルシフェールだった。そしてその側には位の高い聖職者を思わせる様な衣装を身に纏ったベルゼビュートが控えていた。
グィードはそんなふたりの側で騎士服姿で立っていた。
「さて、どうなります事やら・・・・・・」
にやにやと悪意に塗れた笑みを浮かべたベルゼビュートが呟いた。
ふたりの側に居たエリカが何事かを囁いて側を離れると、何処かへ消えたのが見えた。聖女認定の儀に聖職者側で参加しているので役目を果たす為、何処かへ向かったようだ。
「さあ、始まるぞグィード」
ルシフェールが美しくも禍々しい笑顔でそう言った。
所謂正装姿で、今か今かと言った風情で待っていた。
「ようこそルイス嬢! 待っていたよ」
そう言いながら馬車から降りようとするルイスに手を差し伸べる姿は、とても様になっていた。
この、見目だけは麗しい王子様の顔面にパンチを入れてやりたい衝動に駆られたが、矢張り此処でもその気持ちは抑えた。
クッソ、大臣のヤツまたかよっ・・・まったくもう、何してんのよ・・・・・・っ!
数日前にも念押ししたと言うのに、アルバーノは前日にも何も連絡を寄越さなかった。最近は情報の類も、連絡すらも回って来ないし仕事もまともに回って来ない、と弁明していたが流石に今日の様な日に連絡が来ないと言うのは有り得ない。
前日の、多分ギリギリに連絡が来ただろうがそれでも一言ぐらい此方に言えた筈であった。
もう此処迄来たら逃げられない。せめても、魔女である事がバレないようにするしかない。
でもどうしよう・・・・・・聖女として認定・・・は、このままじゃ無理だし・・・・・・。
そう、回復の奇跡を閉じ込めた魔晶石があったから出来た作り物の奇跡なのである。今日はそう言った仕込みを持って来ていない為、無理かもしれない。
カルロに手を取られながら、長い石造りの回廊を歩くルイスは内心冷や汗がだらだらと流れ落ちていた。
今のルイスは、実は周囲の人間全てが自分の正体に気付いており、罠に嵌める為にこんな事をしているのではないかと疑心暗鬼に陥り掛けていた。
・・・・・・大丈夫、大丈夫。だってその為にこの娘の身体を選んだんだから。
そう、無作為にルイスと言う娘の身体を選んだわけでは無い。瘴気耐性があり、魔導士、魔法士の素質のある少女であったから選んだのだ。
ひいては魔女の素質もある、と言う事でもある。もし、何かしらの魔力を感じ取られたとしてもそれは素質があるからだと認められたら、逃げられるかもしれない。
そんな事を考えていたら、ピタリと一緒に歩いていた周囲の人間達が立ち止まる。はたとして立ち止まったら、扉の向こう側でカルロとルイスが来たことを告げる声が聞こえ、大きく荘厳な造りの扉がゆっくりと開かれた。
中はダンスパーティーも開ける程の大広間で、そして室内には既に招待客達が集まって、彼等を待ち構えている状態であった。
中に導かれ、一歩足を踏み入れる。途端、視線は一斉にルイスに注がれた。
無遠慮で、容赦ない値踏みをする沢山の目、目、目・・・・・・。魔女は今迄だって差別的で侮蔑的な視線に何度も晒されてきた経験がある。慣れた、とは言わないが貴族達のそれはなお鋭く突き刺さる。
ヒュッ、と小さく喉が鳴った。
青い顔をしていたのだろう、流石にカルロが大丈夫?と囁きかけた。
「・・・・・・うん、流石に緊張しちゃって・・・・・・」
「大丈夫だよ、例え悪い結果だとしても君を悪いようにはしないから」
本当にそうだと良いのだけれど。
遠く、緊張する少女を気遣う王子とその優しさに健気に応える少女の仲睦まじい姿を、茶番だと嘲笑う者が居た。
「ククッ・・・・・・見ろ、前菜がやって来たぞ」
そう言ったのは貴族、と言うよりは王族皇族の方がしっくり来る様な美しくも厳かな姿をしたルシフェールだった。そしてその側には位の高い聖職者を思わせる様な衣装を身に纏ったベルゼビュートが控えていた。
グィードはそんなふたりの側で騎士服姿で立っていた。
「さて、どうなります事やら・・・・・・」
にやにやと悪意に塗れた笑みを浮かべたベルゼビュートが呟いた。
ふたりの側に居たエリカが何事かを囁いて側を離れると、何処かへ消えたのが見えた。聖女認定の儀に聖職者側で参加しているので役目を果たす為、何処かへ向かったようだ。
「さあ、始まるぞグィード」
ルシフェールが美しくも禍々しい笑顔でそう言った。
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