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薄氷の上でワルツを
六十二.
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それからあ、っと言う間に一か月が経ち、遂に留学生が学園にやって来た。
事前に朝一で理事長室へ来るよう言われていたグィードは、同じ一年の役員達と一緒に理事長室へと向かった。
理事長室に入室すると、もう既に見知った顔が数人と留学生と思しき女性が居た。
シエナ学園の制服に身を包んだ彼女は、肩で切りそろえられた濃いこげ茶色の髪を持ち、榛色の瞳は強い意志を感じさせる凛とした輝きを放っていた。
立ち姿は上品、と言うよりも折り目正しいと言ったその様子に真面目そうな性格だと見て取れた。
少し融通が利かない所はありそうだが、概ねの好印象をグィードは持った。
「おはようございます」
その場に居る全員に向けて挨拶をすると、皆もそれぞれ返してくれる。勿論、留学生も口許にうっすらと笑みを浮かべて返してきた。
それは所謂アルカイックスマイルと呼ばれるもので、大きく表情を動かしてはならない貴族と同様に、モディーリアの聖職者達もあまり大袈裟に感情表現を現してはならないと言われている。
彼女のその笑みの完璧さは幼い頃から訓練されている者の形だ。
へえ・・・・・・。
グィードは感心した。
「さて、皆さんが揃ったところで彼女を紹介しましょうか」
理事長がそう言って口を開いた。カーラ・ザッケローニ。女性でありながらシエナ学園の理事長を務める教育熱心な伯爵家三女の女性であった。
「マリカさんよ、よろしくしてあげて頂戴ね」
カーラはそう言って彼女の背にそっと手を置いた。モディーリアで聖職者になる場合は家族も財産も俗世に置いて来るよう言われる。それは当然名前もだ。
とは言え、置いて来るのは苗字だけで名前だけは唯一持って行く事が許されているものだった。
なので彼女は苗字の無い、ただのマリカだ。
この歳でモディーリアで聖職者をしているような女性は、実は相当珍しい。
モディーリアで女性が尼僧をしているのは大半が年老いていたり、若くても未亡人が主なのだ。孤児院に居るような子供でも、職業の選択の自由を与えられているモディーリアに於いて、年若い女性が尼僧をしている場合理由は幾つかあるが実は祈り手となる女性は咎人である、と言う噂がある。
ただ、それは真偽不明の噂の域を出ない話だとは言われているが・・・・・・。
「マリカです、皆さんよろしくお願いいたします」
落ち着いているが、爽やかさも感じさせる雰囲気に生徒達はグィード同様好印象を持ったらしい。
皆、マリカに対して随分と親切に声を掛けていた。
「私も一年なの、困ったことがあれば力になるわ」
「僕たちは上の学年だけど、勿論何かあれば頼ってくれ」
皆の親切丁寧な態度にマリカは随分と感動したようだ。両手を胸の前で組んで、先程よりも笑みの形を深めて見せた。
「皆さん、本当にありがとうございます。 もしもの時は遠慮なく頼らせて頂きますね」
カーラも、生徒達のその様子に目を細めながら満足気に頷いていた。
「皆さんの頼もしい言葉が聞けて私もうれしいわ。でも当面の間はカルロ殿下、貴方に彼女の面倒をお願いしたいの」
理事長の意外な言葉に、皆驚いたものの理事長の何か考えがあっての事だろうと口を挿まなかった。
「分かりました、理事長。マリカさんの事、引き受けさせて頂きます」
カルロは頼もしい笑みを見せ、皆から尊敬の眼差しを受けるのであった。
事前に朝一で理事長室へ来るよう言われていたグィードは、同じ一年の役員達と一緒に理事長室へと向かった。
理事長室に入室すると、もう既に見知った顔が数人と留学生と思しき女性が居た。
シエナ学園の制服に身を包んだ彼女は、肩で切りそろえられた濃いこげ茶色の髪を持ち、榛色の瞳は強い意志を感じさせる凛とした輝きを放っていた。
立ち姿は上品、と言うよりも折り目正しいと言ったその様子に真面目そうな性格だと見て取れた。
少し融通が利かない所はありそうだが、概ねの好印象をグィードは持った。
「おはようございます」
その場に居る全員に向けて挨拶をすると、皆もそれぞれ返してくれる。勿論、留学生も口許にうっすらと笑みを浮かべて返してきた。
それは所謂アルカイックスマイルと呼ばれるもので、大きく表情を動かしてはならない貴族と同様に、モディーリアの聖職者達もあまり大袈裟に感情表現を現してはならないと言われている。
彼女のその笑みの完璧さは幼い頃から訓練されている者の形だ。
へえ・・・・・・。
グィードは感心した。
「さて、皆さんが揃ったところで彼女を紹介しましょうか」
理事長がそう言って口を開いた。カーラ・ザッケローニ。女性でありながらシエナ学園の理事長を務める教育熱心な伯爵家三女の女性であった。
「マリカさんよ、よろしくしてあげて頂戴ね」
カーラはそう言って彼女の背にそっと手を置いた。モディーリアで聖職者になる場合は家族も財産も俗世に置いて来るよう言われる。それは当然名前もだ。
とは言え、置いて来るのは苗字だけで名前だけは唯一持って行く事が許されているものだった。
なので彼女は苗字の無い、ただのマリカだ。
この歳でモディーリアで聖職者をしているような女性は、実は相当珍しい。
モディーリアで女性が尼僧をしているのは大半が年老いていたり、若くても未亡人が主なのだ。孤児院に居るような子供でも、職業の選択の自由を与えられているモディーリアに於いて、年若い女性が尼僧をしている場合理由は幾つかあるが実は祈り手となる女性は咎人である、と言う噂がある。
ただ、それは真偽不明の噂の域を出ない話だとは言われているが・・・・・・。
「マリカです、皆さんよろしくお願いいたします」
落ち着いているが、爽やかさも感じさせる雰囲気に生徒達はグィード同様好印象を持ったらしい。
皆、マリカに対して随分と親切に声を掛けていた。
「私も一年なの、困ったことがあれば力になるわ」
「僕たちは上の学年だけど、勿論何かあれば頼ってくれ」
皆の親切丁寧な態度にマリカは随分と感動したようだ。両手を胸の前で組んで、先程よりも笑みの形を深めて見せた。
「皆さん、本当にありがとうございます。 もしもの時は遠慮なく頼らせて頂きますね」
カーラも、生徒達のその様子に目を細めながら満足気に頷いていた。
「皆さんの頼もしい言葉が聞けて私もうれしいわ。でも当面の間はカルロ殿下、貴方に彼女の面倒をお願いしたいの」
理事長の意外な言葉に、皆驚いたものの理事長の何か考えがあっての事だろうと口を挿まなかった。
「分かりました、理事長。マリカさんの事、引き受けさせて頂きます」
カルロは頼もしい笑みを見せ、皆から尊敬の眼差しを受けるのであった。
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