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薄氷の上でワルツを
六十.
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そう、まるで自分達の計画が何処かから漏れているとしか思えないような・・・・・・。
しかもあのグィード、ってのが話の中心に居る、ってのが出来すぎとしか言いようがないじゃないか。
そう考えた瞬間、ルイスの作業をする手が完全に止まった。
「・・・・・・」
そう、不思議なもので、もっと早くに勘が働いても良い筈なのに今回に限って全く働いてくれなかった。
何故かこの事を考えようとすると、脳の一部が蓋をされたように何も考えられなくなるのだ。今も、埒も無い考えが脳裏を過り考えが纏まらない。
答えに至ろうとすると恐ろしくなって、叫びながら逃げたいのに、舞台から降りる事は罷り成らぬと脚が縫い留められたようになって、動かなくなるのだ。
建物の裏に居るせいだけでは無い、暗くなった足元をルイスはじっと見ていた。それはまるで、縫い留められた足を唖然と見ているかのようだった。
時刻は既に夕方の五時を過ぎている。例え春とは言え、もうこの時間にもなれば大分日も傾き薄暗い。
先程まで聞こえていた喧騒ももう聞こえない。校舎も真っ暗で、今この学園に居残っているのは彼女だけとなった。
手早く作業を終わらせて帰らなければいけない。一応これでも商家の娘なのだ。
とは言え、最早集中力が途切れてしまった今は、諦めて帰るしかない。
「クソ・・・・・・ッ、逃げるにしたって金がかかるし」
そう、何もかも捨てて逃げるのは簡単だが、どうあっても金は必要だ。色々と名目を付けてアルバーノから金品を巻き上げてきたが、結局は魔晶石であったりの魔法道具を買うのに金は消えていた。
魔女や魔法使いとは何かと金が掛かる職業なのだ。
「もういいや、明日にしょ」
ルイスは軽く溜息を吐いて肩を竦めた。そして魔晶石をそのままにして踵を返して去って行った。
この場所に誰も来ないのは、事前に調べてある。だから、放置しても大丈夫なのだ。
「・・・・・・」
物陰に潜んでいたベルゼビュートは、自らの手のひらを水平に翳してふう、と吐息を吹いて何かを飛ばす様な仕草をした。そしてそれは去ろうとしていたルイスの頭の辺り迄辿り着くときらきらと光る塵のような物になって纏わりついて、儚く消えた。
忘却、と言う程では無いが物忘れの類の呪いだった。ルイスは明日、やる筈だった魔晶石設置を完全に忘れて今はどうやってファウスティーノから金を巻き上げてやろうか考えている事だろう。
中途半端に置いた魔晶石はこのまま放って置いても良いが、何かあって作動しても困るので早々に潰しておくことにした。
この魔晶石はルイスとリンクしていないので、潰してもルイスには気付かれない。
指を鳴らすと魔晶石は軽やかな音を立てて割れ、崩れた。これで、もう二度と使用できなくなった。
これで我らが月明かりの君も喜ぶ事だろう。
戻って早速報告をするとしよう。ベルゼビュートはそんな事を考えながら雑木林の中へと消えて行った。
その後邸に戻り、主であるルシフェールに先ずは報告した。
「そうか、まああの魔女も大したことは出来んだろうが・・・・・・ある程度此方の不利になるような可能性は潰しておいて損はあるまい」
今年は四月でも朝晩は冷えるのか、暖炉が赤々と燃えている。そしてその前で、悪魔達は各々寛いでいた。
グィードは、今は食事中でその場には居なかったが、そろそろ戻って来る筈であった。
「ふむ、魔女共はそう脅威でも無いが・・・・・・あの女が動き出したのが気になるな」
呟くように言ったルシフェールの言葉に、ベリアドが耳聡く聞きつけていた。
「あの女とは、誰の事です?」
「うむ、女神のヤツよ」
ルシフェールの、冷たい太陽の如き麗貌が、女神アンヌンツィアータを思い出し憎々し気に歪んだ。
「何と、今更干渉ですか」
折角気持ちよく遊んでいる所へ水を差す様な真似をされ、悪魔達はざわめいた。
「ふんっ、どうせ大したことは出来んだろうが・・・此方の興を削ぐような真似をするなら我も考えねばならんな」
ルシフェールはその目を半眼にして、どこか遠くを睨みつける様に暖炉を見詰めていた。
暖炉の炎を反射して、その金色の瞳の輝きは爛々としていた。
しかもあのグィード、ってのが話の中心に居る、ってのが出来すぎとしか言いようがないじゃないか。
そう考えた瞬間、ルイスの作業をする手が完全に止まった。
「・・・・・・」
そう、不思議なもので、もっと早くに勘が働いても良い筈なのに今回に限って全く働いてくれなかった。
何故かこの事を考えようとすると、脳の一部が蓋をされたように何も考えられなくなるのだ。今も、埒も無い考えが脳裏を過り考えが纏まらない。
答えに至ろうとすると恐ろしくなって、叫びながら逃げたいのに、舞台から降りる事は罷り成らぬと脚が縫い留められたようになって、動かなくなるのだ。
建物の裏に居るせいだけでは無い、暗くなった足元をルイスはじっと見ていた。それはまるで、縫い留められた足を唖然と見ているかのようだった。
時刻は既に夕方の五時を過ぎている。例え春とは言え、もうこの時間にもなれば大分日も傾き薄暗い。
先程まで聞こえていた喧騒ももう聞こえない。校舎も真っ暗で、今この学園に居残っているのは彼女だけとなった。
手早く作業を終わらせて帰らなければいけない。一応これでも商家の娘なのだ。
とは言え、最早集中力が途切れてしまった今は、諦めて帰るしかない。
「クソ・・・・・・ッ、逃げるにしたって金がかかるし」
そう、何もかも捨てて逃げるのは簡単だが、どうあっても金は必要だ。色々と名目を付けてアルバーノから金品を巻き上げてきたが、結局は魔晶石であったりの魔法道具を買うのに金は消えていた。
魔女や魔法使いとは何かと金が掛かる職業なのだ。
「もういいや、明日にしょ」
ルイスは軽く溜息を吐いて肩を竦めた。そして魔晶石をそのままにして踵を返して去って行った。
この場所に誰も来ないのは、事前に調べてある。だから、放置しても大丈夫なのだ。
「・・・・・・」
物陰に潜んでいたベルゼビュートは、自らの手のひらを水平に翳してふう、と吐息を吹いて何かを飛ばす様な仕草をした。そしてそれは去ろうとしていたルイスの頭の辺り迄辿り着くときらきらと光る塵のような物になって纏わりついて、儚く消えた。
忘却、と言う程では無いが物忘れの類の呪いだった。ルイスは明日、やる筈だった魔晶石設置を完全に忘れて今はどうやってファウスティーノから金を巻き上げてやろうか考えている事だろう。
中途半端に置いた魔晶石はこのまま放って置いても良いが、何かあって作動しても困るので早々に潰しておくことにした。
この魔晶石はルイスとリンクしていないので、潰してもルイスには気付かれない。
指を鳴らすと魔晶石は軽やかな音を立てて割れ、崩れた。これで、もう二度と使用できなくなった。
これで我らが月明かりの君も喜ぶ事だろう。
戻って早速報告をするとしよう。ベルゼビュートはそんな事を考えながら雑木林の中へと消えて行った。
その後邸に戻り、主であるルシフェールに先ずは報告した。
「そうか、まああの魔女も大したことは出来んだろうが・・・・・・ある程度此方の不利になるような可能性は潰しておいて損はあるまい」
今年は四月でも朝晩は冷えるのか、暖炉が赤々と燃えている。そしてその前で、悪魔達は各々寛いでいた。
グィードは、今は食事中でその場には居なかったが、そろそろ戻って来る筈であった。
「ふむ、魔女共はそう脅威でも無いが・・・・・・あの女が動き出したのが気になるな」
呟くように言ったルシフェールの言葉に、ベリアドが耳聡く聞きつけていた。
「あの女とは、誰の事です?」
「うむ、女神のヤツよ」
ルシフェールの、冷たい太陽の如き麗貌が、女神アンヌンツィアータを思い出し憎々し気に歪んだ。
「何と、今更干渉ですか」
折角気持ちよく遊んでいる所へ水を差す様な真似をされ、悪魔達はざわめいた。
「ふんっ、どうせ大したことは出来んだろうが・・・此方の興を削ぐような真似をするなら我も考えねばならんな」
ルシフェールはその目を半眼にして、どこか遠くを睨みつける様に暖炉を見詰めていた。
暖炉の炎を反射して、その金色の瞳の輝きは爛々としていた。
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