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薄氷の上でワルツを
五十八.
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春花祭から数ヶ月が経ち、グィードは晴れてシエナ学園へと入学し、現在は邸と学園を行き来する忙しい日々を送っていた。
グィードは前の時間軸でもそうであったように、生徒会へと請われて入った。
今は、現役の生徒会役員達の元で雑用を引き受けながら仕事を覚えている所だ。
そしてカルロの方はと言うと、オルランドとラウル亡き今は数名の令息達を側近候補として共に行動しているようだった。
このまま行けば、側近候補達はそのまま側近とその補佐のような役割を与えられて、カルロに仕える事になる。
今日は生徒会の会議があるのでその側近達は各々帰ったか、部活にでも行ったのだろう、カルロの側にその姿は無い。
流石に側近達全員を生徒会に入れる訳には行かないので、仕方のない事だ。
会議は滞ることなく進み、思っているよりも早く終わった。会議室を最後に出て、ひとり二階の廊下側から窓の外を見れば走り込みをしている生徒だったり、校庭を横切るように帰る生徒達の姿が見えた。
ぼんやりその様子を見ていると、ふと誰かが隣に立った事に気付く。
はっ、として其方を見たら静かに佇んでいたのはベルゼビュートであった。
「ベルゼビュート卿・・・・・・・どうされました?」
少し驚いたが、おくびにも出さず悪魔を見上げる。すると、ベルゼビュートは静かに窓の外を指差す。
指の先を追えば、見覚えのある少女が何処かへと向かおうとする姿が目に入った。
シエナ学園の制服に身を包んでいる為違和感は無いが、今はまだ彼女は入学前の筈だと何処かへと去るその後姿をグィードは睨んでいた。
「アレは・・・・・・ルイス・アントーニ・・・・・・ッ、何故あの女が今此処に?」
「それを見る為に、ご案内いたしましょう」
悪魔が懐を寛げると、グィードは吸い込まれるようにベルゼビュートの懐へと入って行く。
とぷりと深い闇の沼へと沈み込み、全身が闇に浸かるとくらりと眩暈のようなものを感じてグィードは思わず一瞬目を閉じた。
「大丈夫ですか?」
ベルゼビュートが囁きながら腕を伸ばし、ふらついたグィードをその胸に抱き留めた。ぐにゃりと地面が沈み込むような錯覚を伴う眩暈に、倒れるかと思ったグィードは安心したように溜息を吐いて顔を上げた。
「ええ、ありがとう」
慣れぬ空間移動に酔ったのか、少し青い顔をしていたが時期に良くなるだろう。
「此処は・・・・・・」
グィードは気を取り直すように辺りを見渡す。少し埃っぽいが何処かの校舎の廊下に、ふたりは立っているようであった。
造りはグィードが現在通っている校舎と然程変わらぬ造りをしているように見えたが、しかし何処か古い印象も拭えぬ、そんなグィードの疑問にベルゼビュートが答えた。
「旧校舎ですな」
今は校舎ごと使っておらず、一階部分を辛うじて倉庫代わりにしている、そんな場所であった。
現在使っている校舎よりも北向きな場所にあるからか、随分と薄暗い。そして、先程まで聞こえていた部活動をしている生徒達の掛け声であったり喧騒が、全く聞こえてこないせいかそのシン、とした静寂が何とも不気味である。
「今此処にあの魔女が・・・・・・」
呟くグィードはベルゼビュートの上着の袖を、無意識に強く掴んでいた。
「・・・・・・」
心を落ち着ける為か、グィードはその形の良い眉をギュッ、と寄せて目を閉じる。ベルゼビュートはそんなグィードの肩を抱き、無理に声を掛けるような事はせず、黙って立っていた。
それから数分と立たずにグィードは顔を上げ、ベルゼビュートに謝る。
「・・・・・・すみません、ベルゼビュート卿」
「いいえ、仇が側に居ると思えば心落ち着かぬのも当然・・・・・・もう、大丈夫ですか?」
「はい、行きましょう」
意を決したグィードがそう答える。するとベルゼビュートがそれでは此方へ、と手近な教室へとグィードと共にその身を滑り込ませた。
「どうしたんです?」
小さな声で問うグィードに、暫く聞き耳を立てていたベルゼビュートが静かに、と言う意味で人差し指を口許にやりシィー、と吐息を漏らした。
すると、慌ただしくバタバタと階段を下りる音がして、その勢いのまま板張りの廊下を騒々しく走り遠ざかって行く足音が辺りに響いた。
ルイスが上階で何かをして、終えたのだろうか。そんな事を考えていると、ベルゼビュートがふ、と笑った。
「さて、参りましょう」
背を押され、促されるように廊下に出た。
グィードは前の時間軸でもそうであったように、生徒会へと請われて入った。
今は、現役の生徒会役員達の元で雑用を引き受けながら仕事を覚えている所だ。
そしてカルロの方はと言うと、オルランドとラウル亡き今は数名の令息達を側近候補として共に行動しているようだった。
このまま行けば、側近候補達はそのまま側近とその補佐のような役割を与えられて、カルロに仕える事になる。
今日は生徒会の会議があるのでその側近達は各々帰ったか、部活にでも行ったのだろう、カルロの側にその姿は無い。
流石に側近達全員を生徒会に入れる訳には行かないので、仕方のない事だ。
会議は滞ることなく進み、思っているよりも早く終わった。会議室を最後に出て、ひとり二階の廊下側から窓の外を見れば走り込みをしている生徒だったり、校庭を横切るように帰る生徒達の姿が見えた。
ぼんやりその様子を見ていると、ふと誰かが隣に立った事に気付く。
はっ、として其方を見たら静かに佇んでいたのはベルゼビュートであった。
「ベルゼビュート卿・・・・・・・どうされました?」
少し驚いたが、おくびにも出さず悪魔を見上げる。すると、ベルゼビュートは静かに窓の外を指差す。
指の先を追えば、見覚えのある少女が何処かへと向かおうとする姿が目に入った。
シエナ学園の制服に身を包んでいる為違和感は無いが、今はまだ彼女は入学前の筈だと何処かへと去るその後姿をグィードは睨んでいた。
「アレは・・・・・・ルイス・アントーニ・・・・・・ッ、何故あの女が今此処に?」
「それを見る為に、ご案内いたしましょう」
悪魔が懐を寛げると、グィードは吸い込まれるようにベルゼビュートの懐へと入って行く。
とぷりと深い闇の沼へと沈み込み、全身が闇に浸かるとくらりと眩暈のようなものを感じてグィードは思わず一瞬目を閉じた。
「大丈夫ですか?」
ベルゼビュートが囁きながら腕を伸ばし、ふらついたグィードをその胸に抱き留めた。ぐにゃりと地面が沈み込むような錯覚を伴う眩暈に、倒れるかと思ったグィードは安心したように溜息を吐いて顔を上げた。
「ええ、ありがとう」
慣れぬ空間移動に酔ったのか、少し青い顔をしていたが時期に良くなるだろう。
「此処は・・・・・・」
グィードは気を取り直すように辺りを見渡す。少し埃っぽいが何処かの校舎の廊下に、ふたりは立っているようであった。
造りはグィードが現在通っている校舎と然程変わらぬ造りをしているように見えたが、しかし何処か古い印象も拭えぬ、そんなグィードの疑問にベルゼビュートが答えた。
「旧校舎ですな」
今は校舎ごと使っておらず、一階部分を辛うじて倉庫代わりにしている、そんな場所であった。
現在使っている校舎よりも北向きな場所にあるからか、随分と薄暗い。そして、先程まで聞こえていた部活動をしている生徒達の掛け声であったり喧騒が、全く聞こえてこないせいかそのシン、とした静寂が何とも不気味である。
「今此処にあの魔女が・・・・・・」
呟くグィードはベルゼビュートの上着の袖を、無意識に強く掴んでいた。
「・・・・・・」
心を落ち着ける為か、グィードはその形の良い眉をギュッ、と寄せて目を閉じる。ベルゼビュートはそんなグィードの肩を抱き、無理に声を掛けるような事はせず、黙って立っていた。
それから数分と立たずにグィードは顔を上げ、ベルゼビュートに謝る。
「・・・・・・すみません、ベルゼビュート卿」
「いいえ、仇が側に居ると思えば心落ち着かぬのも当然・・・・・・もう、大丈夫ですか?」
「はい、行きましょう」
意を決したグィードがそう答える。するとベルゼビュートがそれでは此方へ、と手近な教室へとグィードと共にその身を滑り込ませた。
「どうしたんです?」
小さな声で問うグィードに、暫く聞き耳を立てていたベルゼビュートが静かに、と言う意味で人差し指を口許にやりシィー、と吐息を漏らした。
すると、慌ただしくバタバタと階段を下りる音がして、その勢いのまま板張りの廊下を騒々しく走り遠ざかって行く足音が辺りに響いた。
ルイスが上階で何かをして、終えたのだろうか。そんな事を考えていると、ベルゼビュートがふ、と笑った。
「さて、参りましょう」
背を押され、促されるように廊下に出た。
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