復讐はショコラよりも甘い

璃々丸

文字の大きさ
上 下
52 / 83
天国への階段を下りる

五十.

しおりを挟む
「・・・・・・」
 カルロの事は本当に親友だと思っていたのに、謹慎中に見舞う処か手紙の一通も寄越さなかった。
 今朝も、もしかしたらと期待していたのだが、ものの見事に裏切られた。
「・・・・・・いや、きっとみんなから阻止されてたに違いないんだ」
 僕達の友情にな事をする連中だ、と愚痴を零した。
 暫く馬車は舗装された街道を走っていたが、そのうち景色がモノクロな田園風景から、半ば葉が枯れ落ちながらもまだ鬱蒼とした森の中へ入って行く。
 道も、獣道と見分けがつかないような、轍がわずかに残る程度の険しい道へと変わって只でさえ硬い座席が、車輪が跳ねる度にラウルは浮き上がって何度も尻を打ち付けられると言う嫌がらせみたいな仕打ちに何度も悲鳴を上げていたが、悲鳴を上げると今度は舌を噛みそうになり本当に閉口する羽目になっていた。
 どれ程走っていたのか、まだ其処迄日が落ちた気はしていなかったが、周囲が随分と薄暗い。
 多分、鬱蒼とした森の中を走っているせいだろうか、ランタンに灯を点すには早いが点いていないとどうにも心許ない。
 この道は、言わばトレンティノ王国がまだ今程発展していなかった頃、他国から購入した物資を運びこんだり今はもう閉山した銀山の、銀を掘る労働者達が暮らす村があったりと昔はそこそこ賑わっていた街道のひとつであった。
 色々と技術が発展した今は、新しい道が次々と作られて此処は現在アピタ古道と呼ばれてほぼ使われなくなって久しい街道であった。
 この様に、鬱蒼と木々が生い茂り僅かに轍が残っている程度のこの道は、今は訳ありの人間か犯罪者が誰にも見つからない様に使う道として、曰くつきな道になってしまっていた。
 ラウルは知識としてアピタ街道の事は知っていたが、まさかこのガタガタ道がそうだとは思っていなかった。
 ちくしょうっ、親戚の家に着いたらこんなヤツ、二度と仕事できないようにしてやるっ!
 内心悪態を吐いていたら、いきなりラウルは馬車の中で座席から放り出され、狭い車内で転がった。
「うわっ・・・ぐわあっ!」
 何が起こったのか分からず、衝撃に備えるなんて当然できる訳も無いので、強かに身体中を座席や床に打ち付けたラウルは痛みに呻きながら蹲っていた。ドアが開いて外に放り出されなかっただけラッキーだった。
「ぐっ・・・・・・ううう・・・・・・」
 一体何が起こったのか、外は静かだから襲撃された訳ではなさそうだが、しかしラウルは痛みを堪えるので精一杯でそれ処ではなかった。
 馬車のドアを叩かれた。答える余裕なんて無い彼は暫く無視をしていたが、しつこくノックして来るので頭を押さえながらドアを蹴破る様に開けた。
「・・・何だっ!」
 苛立ちを隠しもせず、男を睨みつけた。
「へえ、すいやせんねえ、馬車が轍にハマっちまったみてえで、ちぃっと手伝ってもらえませんかねえ」
 平素なら、何とも気の抜ける様な喋り方だな、と思うだけだが今はその暢気な喋り方が苛立たしくなる。御者が、笑っている積もりなのだろうか黄ばんだ汚い歯を剝きだしているその様は威嚇しているようにも見えた。
「・・・・・・」
 何で僕が力仕事しなきゃいけないんだよ・・・・・・。
「早くこの森を抜けないと熊も出るんで頼んますよ」
 熊、と言われてラウルは顔を顰めた。このトレンティノ王国付近にも出没する肉食の大型獣だ。
 生きて動いているのを見た事は無いが、何処かの伯爵だったかの屋敷で仕留められて、敷物になっていた熊なら見た事がある。彼はそう言った野蛮な行為は嫌いだから、伯爵の自慢話を適当に聞き流していたが。
 中々の大きさの熊であったのは覚えている。あんなのに襲い掛かられても困るしこんな所で一晩過ごすのも嫌なので、手伝うしかない。
「・・・・・・どうすればいい?」
「へえ、後ろの車輪を見てもらえますかねえ」
 やれやれ、と深々と溜息を吐いてラウルは後輪側へと向かう。
「えー・・・・・・っと、何処だ?」
 原因を探ろうと車輪を覗き込もうとした時だった。
「うぐぅ・・・・・・っ!!」
 右の脇腹に衝撃が走った。カッ、と熱くなる様な痛みが脇腹から広がる。痛みのあまりガクリと膝をついて右脇を抑えながら、助けを求める為男を見た。
 あ・・・・・・。
 この痛みの原因は御者であった。男の手に、ナイフが握られている。
 この薄闇に包まれ始めた森の中でもはっきりと、そのナイフが鮮血に濡れているのが分かった。
「へへへ、済まねえな坊ちゃん、恨むんなら自分の父親を恨むんだな」
 ニタニタと黄色い歯を見せつける様に笑う御者。痛みでそれ処では無いラウルは父上が何だって、と訳が分からず男を見詰めていた。
「分かんねえかい、可哀そうになあ・・・・・・俺あ、お前さんの父親にお前さんを殺すよう依頼されたのさ。 遠く離れた場所で殺してくれ、ってな」 
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

婚約破棄された俺の農業異世界生活

深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」 冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生! 庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。 そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。 皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。 (ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中) (第四回fujossy小説大賞エントリー中)

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

【完結】囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。

竜鳴躍
BL
サンベリルは、オレンジ色のふわふわした髪に菫色の瞳が可愛らしいバスティン王国の双子の王子の弟。 溺愛する父王と理知的で美しい母(男)の間に生まれた。兄のプリンシパルが強く逞しいのに比べ、サンベリルは母以上に小柄な上に童顔で、いつまでも年齢より下の扱いを受けるのが不満だった。 みんなに溺愛される王子は、周辺諸国から妃にと望まれるが、遠くから王子を狙っていた背むしの男にある日攫われてしまい――――。 囚われた先で出会った騎士を介抱して、ともに脱出するサンベリル。 サンベリルは優しい家族の下に帰れるのか。 真実に愛する人と結ばれることが出来るのか。 ☆ちょっと短くなりそうだったので短編に変更しました。→長編に再修正 ⭐残酷表現あります。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...