50 / 83
天国への階段を下りる
四十八.
しおりを挟む
ラウルは弁護士の迫力に気圧され、顔色を失くしていた。何か言い返そうにも上手い言い回しが思い付かず、どう言い繕っても弁護士に敵わぬだろう事が漸くわかったのか、青くなった唇をわなわなと震わせるばかりであった。
「・・・・・・ラウルの意見は此処迄にして、次はバルディーニ家側からお願いします」
ジャンパオロにそう言われて、ジュリオはベリアドと顔を見合わせてベリアドが深く頷いてからさっ、と辺りを見渡した。
「では・・・バルディーニ侯爵令息が不貞を働いていない証拠として当日夜勤勤務をしていた警備員の方々をお呼びしました。 ではどうぞ、お入りください」
ベリアドの言葉に、ベルトルドが出て来たドアとは別の扉が開いて、三人の男が入って来た。
年齢は様々だが、肩幅も広く腕も太い屈強な男達であった。三人はそれぞれ名を名乗り、真顔でベリアドの近くに立っていた。
「では、早速始めたいと思います。 当日、バルディーニ侯爵令息が帰る所を見た方はいますか?」
と、訊ねると一番年嵩の男が手を挙げた。
「はい、私です」
「どの様に目撃されましたか?」
「当日は警備員詰め所兼、入館受付所にてバルディーニ家の馬車を確認しました。 侯爵令息も乗っておられるのを見ております」
トレンティノの国立図書館では貴族が馬車で出入りする際は記名することになっているのだ。大抵の場合は御者が記名するのが殆どだがその日も、バルディーニ家の御者が行き帰りに記名していた。
そしてその証拠として一冊の帳簿がベリアドの手元にあった。
「そしてこれが当日の署名された帳簿です」
帳簿には確かに、入退館した時間と共に確かにバルディーニ家の名前があった。
「では、質問を変えます。 図書館内の巡回警備はどの様に行われますか?」
すると、一番肩幅の広い中年の男が答えた。
「夕刻の巡回と、深夜の巡回の計二回行う事になっています」
「それはひとりで巡回されるのですか?」
「いえ、夕刻はふたり、深夜は三人で巡回しています」
「それでは夕刻に巡回したおふたりに質問です・・・・・・・・・・・・」
先程とは違い、整然と話が進んで行く。その間もラウルが口を挿むことも無いまま、青い顔で座り込んでいた。
常のラウルなら、巡回中何処かに隠れているのを見落としたのでは無いのか、とか。賄賂を受け取っているのではないかと口を挿みそうなものなのに、驚くほど静かであった。
それもその筈で、ラウルが突っ込みそうな部分はベリアドも事細かに聞いて、隙を見せないようにしていたからである。
「・・・・・・答弁は以上です。 ビスカルディーニ公爵令息、何か反論はありますか?」
弁護士が尋ねるが、血の気の引いた顔色のままだったラウルは悔しそうにありません・・・・・・とか細い声でそう言った。
「それでは、間違いを認めて謝罪をして頂けると言う事で宜しいですかな?」
「・・・・・・・・・・・・」
頷けない。否、頷きたくないのだろう。悔し気に俯いたまま、小さく両肩を震わせていた。
「言っておくがラウル、貴様が謝ろうと謝るまいと除籍するからな」
「え・・・・・・っ、そんな・・・・・・っ!」
ラウルが弾かれたように顔を上げた。謝罪する意思と誠意を見せない息子に対して業を煮やした父親の冷たい言い草に、ラウルは絶望した。
「何故だと?逆に聞きたいが、此処まで騒ぎを大きくしてどうして追い出されないと思えるんだ?」
「~~~~~っ、・・・・・・」
ラウルはがくりと肩を落とし、床にへたり込んだ。しかし、いきなり立ち上がったかと思うとグィードをギッ、と鬼のような形相で睨みつけて叫んだ。
「僕は絶対に貴様を許さないっ!」
言われたグィードは唖然とした。
それから思わず大笑いをしそうになるのを辛うじて堪えて、グィードは困惑したような素振りで口許に手をやり、にやけそうになるのを隠した。
良いね、罪悪感無く君を追い込めそうだよ、ありがとう。
此処迄愚かならいっその事清々しいな、とグィードはある意味感心した。
「・・・・・・ラウルの意見は此処迄にして、次はバルディーニ家側からお願いします」
ジャンパオロにそう言われて、ジュリオはベリアドと顔を見合わせてベリアドが深く頷いてからさっ、と辺りを見渡した。
「では・・・バルディーニ侯爵令息が不貞を働いていない証拠として当日夜勤勤務をしていた警備員の方々をお呼びしました。 ではどうぞ、お入りください」
ベリアドの言葉に、ベルトルドが出て来たドアとは別の扉が開いて、三人の男が入って来た。
年齢は様々だが、肩幅も広く腕も太い屈強な男達であった。三人はそれぞれ名を名乗り、真顔でベリアドの近くに立っていた。
「では、早速始めたいと思います。 当日、バルディーニ侯爵令息が帰る所を見た方はいますか?」
と、訊ねると一番年嵩の男が手を挙げた。
「はい、私です」
「どの様に目撃されましたか?」
「当日は警備員詰め所兼、入館受付所にてバルディーニ家の馬車を確認しました。 侯爵令息も乗っておられるのを見ております」
トレンティノの国立図書館では貴族が馬車で出入りする際は記名することになっているのだ。大抵の場合は御者が記名するのが殆どだがその日も、バルディーニ家の御者が行き帰りに記名していた。
そしてその証拠として一冊の帳簿がベリアドの手元にあった。
「そしてこれが当日の署名された帳簿です」
帳簿には確かに、入退館した時間と共に確かにバルディーニ家の名前があった。
「では、質問を変えます。 図書館内の巡回警備はどの様に行われますか?」
すると、一番肩幅の広い中年の男が答えた。
「夕刻の巡回と、深夜の巡回の計二回行う事になっています」
「それはひとりで巡回されるのですか?」
「いえ、夕刻はふたり、深夜は三人で巡回しています」
「それでは夕刻に巡回したおふたりに質問です・・・・・・・・・・・・」
先程とは違い、整然と話が進んで行く。その間もラウルが口を挿むことも無いまま、青い顔で座り込んでいた。
常のラウルなら、巡回中何処かに隠れているのを見落としたのでは無いのか、とか。賄賂を受け取っているのではないかと口を挿みそうなものなのに、驚くほど静かであった。
それもその筈で、ラウルが突っ込みそうな部分はベリアドも事細かに聞いて、隙を見せないようにしていたからである。
「・・・・・・答弁は以上です。 ビスカルディーニ公爵令息、何か反論はありますか?」
弁護士が尋ねるが、血の気の引いた顔色のままだったラウルは悔しそうにありません・・・・・・とか細い声でそう言った。
「それでは、間違いを認めて謝罪をして頂けると言う事で宜しいですかな?」
「・・・・・・・・・・・・」
頷けない。否、頷きたくないのだろう。悔し気に俯いたまま、小さく両肩を震わせていた。
「言っておくがラウル、貴様が謝ろうと謝るまいと除籍するからな」
「え・・・・・・っ、そんな・・・・・・っ!」
ラウルが弾かれたように顔を上げた。謝罪する意思と誠意を見せない息子に対して業を煮やした父親の冷たい言い草に、ラウルは絶望した。
「何故だと?逆に聞きたいが、此処まで騒ぎを大きくしてどうして追い出されないと思えるんだ?」
「~~~~~っ、・・・・・・」
ラウルはがくりと肩を落とし、床にへたり込んだ。しかし、いきなり立ち上がったかと思うとグィードをギッ、と鬼のような形相で睨みつけて叫んだ。
「僕は絶対に貴様を許さないっ!」
言われたグィードは唖然とした。
それから思わず大笑いをしそうになるのを辛うじて堪えて、グィードは困惑したような素振りで口許に手をやり、にやけそうになるのを隠した。
良いね、罪悪感無く君を追い込めそうだよ、ありがとう。
此処迄愚かならいっその事清々しいな、とグィードはある意味感心した。
3
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
婚約破棄された俺の農業異世界生活
深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」
冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生!
庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。
そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。
皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。
(ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中)
(第四回fujossy小説大賞エントリー中)
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる