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天国への階段を下りる
四十四.
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「カテリーナ・・・・・・オネスティ」
グィードがその名を呟くが、前の時間軸では確かダリオの婚約者であった令嬢だった。
辛うじて覚えていたが、それだけだ。
ラウラが今日あった茶会での出来事を、夕餉の時に話してくれたのだがその時に思い出したのが先述の事であった。
ダリオの傍らに居たり居なかったりしたな、と言う以外は特に感想が思い浮かばない女性であった。
「まあ・・・確かに地味な令嬢のようですね。ただ、この時間軸の彼女は自分の地味な特性を生かして随分と陰湿な事をしているようですが・・・・・・」
前の時は何も無い大人しい令嬢だったようだ。それで王子妃が務まるのか謎だが、父親で大臣のアルバーノがラウラの時同様にごり押したのだろう。
「それがどうして性格が反転したのだろう・・・・・・?」
「さあ、我々にもその点は分かりません・・・が、少々放って置いても脅威にはなりますまい。もしもの時は私奴が動きましょう」
ベリアドが頼もしい事を言って力強く微笑んだ。
「・・・・・・それよりも、ラウルの奴が動き出しそうだな」
グィードのベッドの上で黒豹を背凭れにしていたルシフェールが呟いた。
「ああ、漸くですか」
直ぐ側で寄り添っていたグィードがルシフェールの方を見た。
「ふん、グィードを訴える材料が揃ったとほくそ笑んでおるわ」
くつくつと喉を鳴らして笑うルシフェールに、グィードも妖艶に微笑んでみせた。
「ふふ、此処まで簡単に引っ掛かってくれると何だか物足りませんね」
「ほう、言う様になったでは無いか」
ルシフェールは嬉しそうにそう言うと、グィードを抱き寄せ、その頭を愛おしげに撫でた。
数日後────。ビスカルディーニ邸。
ラウルが父ジャンパオロに呼び出され、彼の執務室へと向かった。
ノックの後、応えを受けて部屋へと入る。すると執務室にはジャンパオロがひとり、机の前に座っていた。
他に人はおらず、予め人払いをしていたようだ。と、言う事はこれから誰にも聞かせたくない話をすると言う事だ。
「来たな・・・・・・」
ジャンパオロは眉間に皺を寄せ、険しい顔をしていた。とても怒っているのが分かる。
「・・・・・・此れは何だ」
ジャンパオロが言い乍ら机の上に置いたのは一枚の紙切れ。
「あ・・・・・・」
それは、ラウルが裁判所に提出した書類だった。どうして父が其れを、と思ったのも束の間ジャンパオロが口を開いた。
「裁判所から書類の不備で問い合わせが来た。どういうつもりだ? 言った筈だぞ、余計な事はするな、と」
怒りのあまり、書類をぐしゃりと握りつぶしていた。
「待って下さい父上っ! 僕は無意味にこんな事をした訳ではありませんし、ちゃんと証拠を集めたうえでやっているのですっ!」
「・・・・・・・・・・・・」
噓くさい、が。もうこの男を除籍する理由を自ら持って来てくれたと思うしかない。
「分かった、だが本当に裁判をするわけには行かないから特別に話し合いの席を作ってやろう。それで良いな?」
何故、と聞けない空気にラウルはただ黙って頷くしかなかった。
「所で弁護士とかはどうするつもりだ?」
「要りません、僕ひとりで十分です」
そうか、とだけ言うとジャンパオロはラウルを下がらせた。
「弁護士は要らない、ね・・・・・・」
未成年が、親にも相談せず、弁護士も無く赤の他人の痴情の縺れを訴えようなどとよく思ったものだ。
取り敢えず、国王とバルディーニ家とでラウル抜きで先に話し合う必要がある、とジャンパオロは判断した。
こんなつまらない事で家門を潰されては堪らないからだ。執務机の隅に置いていたベルを鳴らし、家令を呼び出すとジャンパオロが何事かを言付ける。すると家令は静かに頷いて、下がって行った。
「・・・・・・全く、彼奴は問題しか起こさない」
それら全てが悪魔のせいだとは思わない男は、息子の異常な行動に溜息を吐くのであった。
グィードがその名を呟くが、前の時間軸では確かダリオの婚約者であった令嬢だった。
辛うじて覚えていたが、それだけだ。
ラウラが今日あった茶会での出来事を、夕餉の時に話してくれたのだがその時に思い出したのが先述の事であった。
ダリオの傍らに居たり居なかったりしたな、と言う以外は特に感想が思い浮かばない女性であった。
「まあ・・・確かに地味な令嬢のようですね。ただ、この時間軸の彼女は自分の地味な特性を生かして随分と陰湿な事をしているようですが・・・・・・」
前の時は何も無い大人しい令嬢だったようだ。それで王子妃が務まるのか謎だが、父親で大臣のアルバーノがラウラの時同様にごり押したのだろう。
「それがどうして性格が反転したのだろう・・・・・・?」
「さあ、我々にもその点は分かりません・・・が、少々放って置いても脅威にはなりますまい。もしもの時は私奴が動きましょう」
ベリアドが頼もしい事を言って力強く微笑んだ。
「・・・・・・それよりも、ラウルの奴が動き出しそうだな」
グィードのベッドの上で黒豹を背凭れにしていたルシフェールが呟いた。
「ああ、漸くですか」
直ぐ側で寄り添っていたグィードがルシフェールの方を見た。
「ふん、グィードを訴える材料が揃ったとほくそ笑んでおるわ」
くつくつと喉を鳴らして笑うルシフェールに、グィードも妖艶に微笑んでみせた。
「ふふ、此処まで簡単に引っ掛かってくれると何だか物足りませんね」
「ほう、言う様になったでは無いか」
ルシフェールは嬉しそうにそう言うと、グィードを抱き寄せ、その頭を愛おしげに撫でた。
数日後────。ビスカルディーニ邸。
ラウルが父ジャンパオロに呼び出され、彼の執務室へと向かった。
ノックの後、応えを受けて部屋へと入る。すると執務室にはジャンパオロがひとり、机の前に座っていた。
他に人はおらず、予め人払いをしていたようだ。と、言う事はこれから誰にも聞かせたくない話をすると言う事だ。
「来たな・・・・・・」
ジャンパオロは眉間に皺を寄せ、険しい顔をしていた。とても怒っているのが分かる。
「・・・・・・此れは何だ」
ジャンパオロが言い乍ら机の上に置いたのは一枚の紙切れ。
「あ・・・・・・」
それは、ラウルが裁判所に提出した書類だった。どうして父が其れを、と思ったのも束の間ジャンパオロが口を開いた。
「裁判所から書類の不備で問い合わせが来た。どういうつもりだ? 言った筈だぞ、余計な事はするな、と」
怒りのあまり、書類をぐしゃりと握りつぶしていた。
「待って下さい父上っ! 僕は無意味にこんな事をした訳ではありませんし、ちゃんと証拠を集めたうえでやっているのですっ!」
「・・・・・・・・・・・・」
噓くさい、が。もうこの男を除籍する理由を自ら持って来てくれたと思うしかない。
「分かった、だが本当に裁判をするわけには行かないから特別に話し合いの席を作ってやろう。それで良いな?」
何故、と聞けない空気にラウルはただ黙って頷くしかなかった。
「所で弁護士とかはどうするつもりだ?」
「要りません、僕ひとりで十分です」
そうか、とだけ言うとジャンパオロはラウルを下がらせた。
「弁護士は要らない、ね・・・・・・」
未成年が、親にも相談せず、弁護士も無く赤の他人の痴情の縺れを訴えようなどとよく思ったものだ。
取り敢えず、国王とバルディーニ家とでラウル抜きで先に話し合う必要がある、とジャンパオロは判断した。
こんなつまらない事で家門を潰されては堪らないからだ。執務机の隅に置いていたベルを鳴らし、家令を呼び出すとジャンパオロが何事かを言付ける。すると家令は静かに頷いて、下がって行った。
「・・・・・・全く、彼奴は問題しか起こさない」
それら全てが悪魔のせいだとは思わない男は、息子の異常な行動に溜息を吐くのであった。
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