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地獄への道は美しく舗装されている
三十六.
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外は昨夜から降り続いた小雨がまだ降り続いていたから、オルランドは合羽を持って部屋を出たが向かった玄関ホールに、母アントニアと次兄のアベラルドが待っていた。
「おはよう、オルランド」
アントニアがそう言うと、オルランドも力強く挨拶を返した。
「おう、ちゃんと言われた通りの格好だな」
アベラルドがそう言ってうん、と納得したように頷いた。当たり前だが、規約違反はご法度である。
父と長兄は、この場にはいなかった。三男はもう既に家を出た身で、四男とは年が近いが次兄以上に折り合いが悪かったせいか、矢張りこの場にはいなかった。
「おい、手にもってるのは何だ?」
「あ、合羽だよ。 走り込みしながら行こうかと思って」
何時もそうしているから、走り込みをしながら身体を温めて行こうと思っていたのだ。
「馬鹿っ、無駄に体力消耗するようなコトすんなよ。 ちゃんと馬車用意してやるから、ちょっと待ってろ」
そう言うと、アベラルドが側に居た自分の侍従に馬車を用意させるように命じた。
「朝ごはんもまだでしょ、これを馬車の中で食べなさい」
アントニアがそう言って紙袋を差し出す。中を見てみたら、薄く切った黒パンにハムとチーズを挟んだものが入っていた。
「ありがとう、母上」
何時もは自分で適当に摘まんでから行くのだが、毎日食べているメニューでも、誰かが作ってくれたのは素直に嬉しかった。
紙袋を持ったオルランドが馬車に乗り込むと、小雨が降る中馬車は王城に向かって走り出す。
オルランドは気付いていない。走り去る馬車を母親が静かに涙を流して見送っていた事に。そして次兄がその肩をただ静かに抱いて、同じく見送っていた。
オルランドは早速袋を開けて、馬車の中でパンを食べながら外を見ていた。今年は長雨だと誰かが言っていた。
早く梅雨明けてくんねえかな、練習する時間減っちまうし。
などと、暢気な事を考えているうちに、王城が見えてきた。決闘場所は、ふたつある鍛錬場のうちの第二鍛錬場であると教えられていた。
立会人は当日まで知らされない事になっている。買収などを防止する為だ。城門を潜り、馬車の乗降場で降りると第二鍛錬場に向かった。朝が早い、と言うだけでなく人が少ないような気がした。
いつもこんなに静かだった、っけ?
そんな事を思いながら、慣れた道を何時もそうするように通り抜け、第二鍛錬場に辿り着く。
第二鍛錬場の端の方に天幕が張られており、其処にあまり見たことが無い騎士らしき男がふたり立っていた。
オルランドが近づくと、どうぞと促されたので軽く会釈して中に入った。
「・・・・・・あっ!」
中にはグィード・バルディーニと、この国の国王であるアポリナーレ・ベンティチェンティ。そして、宰相でラウルの父親のジャンパオロ・ビスカルディーニが居た。
「おお、おはよう」
「おはよう、オルランド君」
目上のふたりから挨拶され、オルランドも流石にきちんとした挨拶を返す。
それから、ちらりとグィードと目が合う。
「おはよう、オルランド君」
騎士見習いだし、国王を目の前にして礼を失するような真似は許されない。グィードが挨拶して来た以上、無視する訳には行かない。
「おお・・・おはよう」
ボソッと返したが、咎められるような事も無く済んだ。
グィードも勿論オルランドと同じく上から下まで白で統一した衣服に身を包んでいたが、オルランドが白いシャツとズボンだけであるのに対して、白いベストも身に着けていた。ただ白いだけで無く、同じ色の細やかで繊細な刺繍が施されたベストであった。そして、腰に佩いていたのは黒塗りの細長い鞘に納まった剣。
オルランドが見た事の無い形をしていたそれは、東洋の小さな島国よりもたらされた”刀”と言う武器であった。
サムライ・ブレードの別名を持ち、断ち切る事に特化した片刃の剣である。
それは勿論グィードの愛用の武器であり、念の為持って来ていたのを、まさかこうして使う日が来ようとは流石に思っていなかったが。
「さて、ふたり共揃ったので・・・では、ルールの説明をする」
ジャンパオロが良く通る声でそう言った。
「おはよう、オルランド」
アントニアがそう言うと、オルランドも力強く挨拶を返した。
「おう、ちゃんと言われた通りの格好だな」
アベラルドがそう言ってうん、と納得したように頷いた。当たり前だが、規約違反はご法度である。
父と長兄は、この場にはいなかった。三男はもう既に家を出た身で、四男とは年が近いが次兄以上に折り合いが悪かったせいか、矢張りこの場にはいなかった。
「おい、手にもってるのは何だ?」
「あ、合羽だよ。 走り込みしながら行こうかと思って」
何時もそうしているから、走り込みをしながら身体を温めて行こうと思っていたのだ。
「馬鹿っ、無駄に体力消耗するようなコトすんなよ。 ちゃんと馬車用意してやるから、ちょっと待ってろ」
そう言うと、アベラルドが側に居た自分の侍従に馬車を用意させるように命じた。
「朝ごはんもまだでしょ、これを馬車の中で食べなさい」
アントニアがそう言って紙袋を差し出す。中を見てみたら、薄く切った黒パンにハムとチーズを挟んだものが入っていた。
「ありがとう、母上」
何時もは自分で適当に摘まんでから行くのだが、毎日食べているメニューでも、誰かが作ってくれたのは素直に嬉しかった。
紙袋を持ったオルランドが馬車に乗り込むと、小雨が降る中馬車は王城に向かって走り出す。
オルランドは気付いていない。走り去る馬車を母親が静かに涙を流して見送っていた事に。そして次兄がその肩をただ静かに抱いて、同じく見送っていた。
オルランドは早速袋を開けて、馬車の中でパンを食べながら外を見ていた。今年は長雨だと誰かが言っていた。
早く梅雨明けてくんねえかな、練習する時間減っちまうし。
などと、暢気な事を考えているうちに、王城が見えてきた。決闘場所は、ふたつある鍛錬場のうちの第二鍛錬場であると教えられていた。
立会人は当日まで知らされない事になっている。買収などを防止する為だ。城門を潜り、馬車の乗降場で降りると第二鍛錬場に向かった。朝が早い、と言うだけでなく人が少ないような気がした。
いつもこんなに静かだった、っけ?
そんな事を思いながら、慣れた道を何時もそうするように通り抜け、第二鍛錬場に辿り着く。
第二鍛錬場の端の方に天幕が張られており、其処にあまり見たことが無い騎士らしき男がふたり立っていた。
オルランドが近づくと、どうぞと促されたので軽く会釈して中に入った。
「・・・・・・あっ!」
中にはグィード・バルディーニと、この国の国王であるアポリナーレ・ベンティチェンティ。そして、宰相でラウルの父親のジャンパオロ・ビスカルディーニが居た。
「おお、おはよう」
「おはよう、オルランド君」
目上のふたりから挨拶され、オルランドも流石にきちんとした挨拶を返す。
それから、ちらりとグィードと目が合う。
「おはよう、オルランド君」
騎士見習いだし、国王を目の前にして礼を失するような真似は許されない。グィードが挨拶して来た以上、無視する訳には行かない。
「おお・・・おはよう」
ボソッと返したが、咎められるような事も無く済んだ。
グィードも勿論オルランドと同じく上から下まで白で統一した衣服に身を包んでいたが、オルランドが白いシャツとズボンだけであるのに対して、白いベストも身に着けていた。ただ白いだけで無く、同じ色の細やかで繊細な刺繍が施されたベストであった。そして、腰に佩いていたのは黒塗りの細長い鞘に納まった剣。
オルランドが見た事の無い形をしていたそれは、東洋の小さな島国よりもたらされた”刀”と言う武器であった。
サムライ・ブレードの別名を持ち、断ち切る事に特化した片刃の剣である。
それは勿論グィードの愛用の武器であり、念の為持って来ていたのを、まさかこうして使う日が来ようとは流石に思っていなかったが。
「さて、ふたり共揃ったので・・・では、ルールの説明をする」
ジャンパオロが良く通る声でそう言った。
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