27 / 83
地獄への道は美しく舗装されている
二十五.
しおりを挟む
「・・・・・・そうですか、ありがとうございます。ベルゼビュート卿」
自らに与えられた執務室で仕事をしていたグィードが、戻ってきたベルゼビュートから報告を受けてそう言った。
「ふむ・・・・・・殿下も卿の術に嵌まりましたか。やっぱり・・・・・・」
「ええ、聖女の加護が薄いように感じました」
矢張り思っていた通りだと、グィードは考えた。
前の時間軸の映像を見た時に感じたのが、常に行動を共にしていたとは言え聖女の加護が魔女如きの魅了でどうこうなる程、そんなやわな加護である筈が無い。
現に、彼の弟のダリオはあの瘴気漂う学園の中でも何ともなかったのだ。
そうなると、カルロは何らかの理由で聖女の加護が薄いのだと考えざる得ない。それが何故なのかは、現時点では分からない。まあ、それ等を知るのはおいおいでも良いだろう、と追及するのは一旦保留する事にした。
「では・・・・・・」
言いかけるが、ノックが会話を中断させた。仕方なくノックに応えると、従者が入って来た。
「グィード様、旦那様からお電話でございます」
「父上から?分かった、直ぐ行く」
最近普及しだした電話は、今は大きな公共施設と貴族でもごく一部の邸にしか電話線が引かれていない。
勿論、バルディーニ家はトレンティノ王国と自領の両方に電話を持っていた。しかし、日付から考えてジュリオは自領から電話しているとは考えにくい。多分、何処かの駅から電話を掛けてきているのだろう。
ジュリオの執務室に入り、電話機の傍らに置かれていた受話器を取る。
「もしもし?」
『もしもし、グィードか?』
「はい、父上」
矢張り、ジュリオの背後から汽笛や人込みのざわめきが聞こえてくる。
『今、ファーロントの駅だ。何もなければ後、二三日で其方に着く』
「分かりました」
と、お互い軽く近況報告をしながら会話しているとまたノックの音。応えると、入ってきたのはラウラだった。
「お父様からお電話でしょ、お兄様、変わって下さいな」
仕方なく変わってやると、ラウラは受話器を受け取り話始めた。
「もしもしお父様?ええ、ラウラですわ。うふふ、ええ元気です」
鈴を転がすような可愛らしい声音で、ラウラは受け答えする。
「お父様、実はつい先ほどダリオ第二王子殿下からお茶会の招待状を頂きましたの。それで、ドレスを新調しても?」
と聞いていた。ジュリオがラウラのおねだりを無下にする訳も無く、快く受けているであろう事はラウラの表情で分かる。
「ありがとうございます、お父様。じゃあ、お兄様に返しますわね」
そう言うと要件は済んだとばかりにグィードに受話器を返してきた。現金な娘である。
だが、其処が可愛いのだ。
「もしもし、父上?」
『何だグィードか』
「何だは無いでしょう」
苦笑いしながらグィードは言った。
『む、そろそろ汽車が出るようだ、戻らんといかん。すまんなグィード、戻るまで頼んだぞ』
「はい、父上。お任せください。それと、道中お気を付けて」
ジュリオがああ、と答えた後、ガチャリと通話が切れた。
「・・・・・・」
グィードはふう、と溜息を吐いた後、受話器を電話機の上に戻した。
此処迄は、予定通りだ。取り敢えず、事を起こすのは明日以降で十分である。
タネを蒔き、水と肥料も与えてそろそろ悪心が芽吹くころだ。
「さて、どうやって潰してやろうかな」
ふふ、と目を細めて妖艶に笑う。すると、ひとりきりであった為、足元をぬるりと黒い獣が現れてすり寄る。
グィードは頭を撫で、耳の後ろを掻いてやるとダエーワは目を閉じ、グルグルと喉を鳴らして甘えてきた。
「先ずはそうだなあ・・・・・・ガブリエーレ・アルボルゲッティ、彼に消えてもらいましょうか」
ねえ?と、ダエーワの顔を覗き込みながら半ば独り言のように呟いていた。
自らに与えられた執務室で仕事をしていたグィードが、戻ってきたベルゼビュートから報告を受けてそう言った。
「ふむ・・・・・・殿下も卿の術に嵌まりましたか。やっぱり・・・・・・」
「ええ、聖女の加護が薄いように感じました」
矢張り思っていた通りだと、グィードは考えた。
前の時間軸の映像を見た時に感じたのが、常に行動を共にしていたとは言え聖女の加護が魔女如きの魅了でどうこうなる程、そんなやわな加護である筈が無い。
現に、彼の弟のダリオはあの瘴気漂う学園の中でも何ともなかったのだ。
そうなると、カルロは何らかの理由で聖女の加護が薄いのだと考えざる得ない。それが何故なのかは、現時点では分からない。まあ、それ等を知るのはおいおいでも良いだろう、と追及するのは一旦保留する事にした。
「では・・・・・・」
言いかけるが、ノックが会話を中断させた。仕方なくノックに応えると、従者が入って来た。
「グィード様、旦那様からお電話でございます」
「父上から?分かった、直ぐ行く」
最近普及しだした電話は、今は大きな公共施設と貴族でもごく一部の邸にしか電話線が引かれていない。
勿論、バルディーニ家はトレンティノ王国と自領の両方に電話を持っていた。しかし、日付から考えてジュリオは自領から電話しているとは考えにくい。多分、何処かの駅から電話を掛けてきているのだろう。
ジュリオの執務室に入り、電話機の傍らに置かれていた受話器を取る。
「もしもし?」
『もしもし、グィードか?』
「はい、父上」
矢張り、ジュリオの背後から汽笛や人込みのざわめきが聞こえてくる。
『今、ファーロントの駅だ。何もなければ後、二三日で其方に着く』
「分かりました」
と、お互い軽く近況報告をしながら会話しているとまたノックの音。応えると、入ってきたのはラウラだった。
「お父様からお電話でしょ、お兄様、変わって下さいな」
仕方なく変わってやると、ラウラは受話器を受け取り話始めた。
「もしもしお父様?ええ、ラウラですわ。うふふ、ええ元気です」
鈴を転がすような可愛らしい声音で、ラウラは受け答えする。
「お父様、実はつい先ほどダリオ第二王子殿下からお茶会の招待状を頂きましたの。それで、ドレスを新調しても?」
と聞いていた。ジュリオがラウラのおねだりを無下にする訳も無く、快く受けているであろう事はラウラの表情で分かる。
「ありがとうございます、お父様。じゃあ、お兄様に返しますわね」
そう言うと要件は済んだとばかりにグィードに受話器を返してきた。現金な娘である。
だが、其処が可愛いのだ。
「もしもし、父上?」
『何だグィードか』
「何だは無いでしょう」
苦笑いしながらグィードは言った。
『む、そろそろ汽車が出るようだ、戻らんといかん。すまんなグィード、戻るまで頼んだぞ』
「はい、父上。お任せください。それと、道中お気を付けて」
ジュリオがああ、と答えた後、ガチャリと通話が切れた。
「・・・・・・」
グィードはふう、と溜息を吐いた後、受話器を電話機の上に戻した。
此処迄は、予定通りだ。取り敢えず、事を起こすのは明日以降で十分である。
タネを蒔き、水と肥料も与えてそろそろ悪心が芽吹くころだ。
「さて、どうやって潰してやろうかな」
ふふ、と目を細めて妖艶に笑う。すると、ひとりきりであった為、足元をぬるりと黒い獣が現れてすり寄る。
グィードは頭を撫で、耳の後ろを掻いてやるとダエーワは目を閉じ、グルグルと喉を鳴らして甘えてきた。
「先ずはそうだなあ・・・・・・ガブリエーレ・アルボルゲッティ、彼に消えてもらいましょうか」
ねえ?と、ダエーワの顔を覗き込みながら半ば独り言のように呟いていた。
12
お気に入りに追加
150
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。


騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

ある国の皇太子と侯爵家令息の秘め事
きよひ
BL
皇太子×侯爵家令息。
幼い頃、仲良く遊び友情を確かめ合った二人。
成長して貴族の子女が通う学園で再会し、体の関係を持つようになった。
そんな二人のある日の秘め事。
前後編、4000字ほどで完結。
Rシーンは後編。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる