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復讐するは我にあり
十七.
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「随分と豪華な背凭れだな?」
ルシフェールは言いながら、ダエーワの後ろ脚をポンと叩いた。するとダエーワはまたフン、と鼻息一つ零して瞼を閉じた。
「さあ、まだもう少しグィードには頑張って見てもらわねばならん」
文字通り、胃がひっくり返る様な経験を初めてして、気力も体力も使い果たして疲れ切ってしまったグィードにそう語りかけると、グィードは健気にも大丈夫ですと掠れた声音で応える。
「続けてください・・・・・・」
「・・・・・・そうか、ならば」
パチン、と指を鳴らすと、姿見は何処かへ向かって走る馬車を映し出した。
それを見たグィードはまた胃がキュッと縮むような感覚に襲われ、身体がびくりと震えた。
「大丈夫だ、この後の事はお前もよく知っているだろう。今から見るのは別の視点だ」
安心させるようにグィードの背を叩く。
静かな住宅街を馬車が走り抜け、向かった先はそこそこ大きな邸であった。門を潜り抜け、途中馬車はガブリエーレから待ち構えていた馬丁へと交代し、彼は御者の姿のまま邸の正面玄関から中へ入って行った。
誰も出迎える事も案内も無しにどんどん奥へと進んでいく。勝手知ったる様子で進んだ先、とある部屋の前でドアをノックした。短い応えの後にガブリエーレはドアを開け、中へと進んで入る。
すると、其処には────。
「アルバーノ・オネスティ・・・・・・ッ!」
矢張り全てはこの男に繋がっていたと言う事か。
『・・・・・・首尾はどうだ』
『貴方に言われた通り、自殺に見せかけて殺した・・・・・・それから、邸に運び込んで説明中にジュリオ侯爵が心臓発作を起こしたみたいだ。容体は・・・・・・申し訳ないが分からない』
確か当時、ガブリエーレが扮した御者と入れ違うようにグィードは邸に戻った。だから、ガブリエーレがジュリオがその後どうなったのか分からないのは当然であった。
多分、発作を起こした時、その場に居続けると危険なので早々に引き上げたのだろう。
アルバーノはそれを聞いて驚いたような顔をしたが、直ぐにその髭面に喜色を浮かべた。
『何だと!?・・・・・・そうか、そうか・・・・・・は、ははっ!こりゃ良い!あの男が死ねば一石二鳥だ、儂に運が回って来たぞっ!』
「・・・・・・」
そんな事あるか、馬鹿め・・・・・・っ!
グィードは鼻で笑った。当主のジュリオが死んでも自分が居る。そうでなくとも、次兄叔父ダヴィデが居る。
バルディーニ三大騎士団のひとつ、銀熊騎士団を率いる団長でありその性格は豪放磊落だが冷静な所もあり、そして誰よりも残忍な男だ。兄であるジュリオを誰よりも尊敬し、敬愛している男がこんな事が起きればただ黙ってはいまい。
『・・・・・・そんな事より、本当に私の願いを聞いてくれるのだろうな?』
ガブリエーレは心配そうにアルバーノを見る。すると、アルバーノはニヤリと見る者に不快感しか与えない様な厭らしい笑みを浮かべ。
『心配するな、お前を貴族の婿養子にしてやる話ならもうちゃんとしている。新興貴族だが、男爵家に話を付けてやったぞ、それで充分だろう』
如何やらガブリエーレは貴族になりたくてアルバーノに協力をしていたらしい。如何いった野望があるのかは分からないが、確かに平民の、騎士爵持ちとは言え下級騎士から貴族になりたいならこう言った口利きが無いと難しいだろう。
そんなくだらない事でこの男に協力したのか、とグィードは失望した。成程、「同情する価値なぞ、彼奴にはありませんよ」ベリアドの言う通りだった。
『それでだな、今から儂の部屋でその事に付いて詳しく話し合おうではないか』
そう言って、アルバーノはガブリエーレの尻を鷲掴みにした。
ああもうそれだけで、この二人の関係性がどんなものなのか良く分かると言うものだ。
「ガブリエーレ殿は男でも女でもその美貌で浮名を流しているのは有名だそうで」
嫌味、っぽくベルゼビュートが言う。成程、確かに整った美しいと言える容貌をしている。
その美貌でオルランドも誑し込んだのだろうが、思いの外使いどころが無いうえに、しつこく付き纏う為扱いに困っている、と言う感じだろうか。
・・・・・・決めた。この男から潰してやろう。
グィードはその瞳の色よりも冴え冴えと冷え切ったような視線で、鏡の向こうに居る男を見つめていた。
ルシフェールは言いながら、ダエーワの後ろ脚をポンと叩いた。するとダエーワはまたフン、と鼻息一つ零して瞼を閉じた。
「さあ、まだもう少しグィードには頑張って見てもらわねばならん」
文字通り、胃がひっくり返る様な経験を初めてして、気力も体力も使い果たして疲れ切ってしまったグィードにそう語りかけると、グィードは健気にも大丈夫ですと掠れた声音で応える。
「続けてください・・・・・・」
「・・・・・・そうか、ならば」
パチン、と指を鳴らすと、姿見は何処かへ向かって走る馬車を映し出した。
それを見たグィードはまた胃がキュッと縮むような感覚に襲われ、身体がびくりと震えた。
「大丈夫だ、この後の事はお前もよく知っているだろう。今から見るのは別の視点だ」
安心させるようにグィードの背を叩く。
静かな住宅街を馬車が走り抜け、向かった先はそこそこ大きな邸であった。門を潜り抜け、途中馬車はガブリエーレから待ち構えていた馬丁へと交代し、彼は御者の姿のまま邸の正面玄関から中へ入って行った。
誰も出迎える事も案内も無しにどんどん奥へと進んでいく。勝手知ったる様子で進んだ先、とある部屋の前でドアをノックした。短い応えの後にガブリエーレはドアを開け、中へと進んで入る。
すると、其処には────。
「アルバーノ・オネスティ・・・・・・ッ!」
矢張り全てはこの男に繋がっていたと言う事か。
『・・・・・・首尾はどうだ』
『貴方に言われた通り、自殺に見せかけて殺した・・・・・・それから、邸に運び込んで説明中にジュリオ侯爵が心臓発作を起こしたみたいだ。容体は・・・・・・申し訳ないが分からない』
確か当時、ガブリエーレが扮した御者と入れ違うようにグィードは邸に戻った。だから、ガブリエーレがジュリオがその後どうなったのか分からないのは当然であった。
多分、発作を起こした時、その場に居続けると危険なので早々に引き上げたのだろう。
アルバーノはそれを聞いて驚いたような顔をしたが、直ぐにその髭面に喜色を浮かべた。
『何だと!?・・・・・・そうか、そうか・・・・・・は、ははっ!こりゃ良い!あの男が死ねば一石二鳥だ、儂に運が回って来たぞっ!』
「・・・・・・」
そんな事あるか、馬鹿め・・・・・・っ!
グィードは鼻で笑った。当主のジュリオが死んでも自分が居る。そうでなくとも、次兄叔父ダヴィデが居る。
バルディーニ三大騎士団のひとつ、銀熊騎士団を率いる団長でありその性格は豪放磊落だが冷静な所もあり、そして誰よりも残忍な男だ。兄であるジュリオを誰よりも尊敬し、敬愛している男がこんな事が起きればただ黙ってはいまい。
『・・・・・・そんな事より、本当に私の願いを聞いてくれるのだろうな?』
ガブリエーレは心配そうにアルバーノを見る。すると、アルバーノはニヤリと見る者に不快感しか与えない様な厭らしい笑みを浮かべ。
『心配するな、お前を貴族の婿養子にしてやる話ならもうちゃんとしている。新興貴族だが、男爵家に話を付けてやったぞ、それで充分だろう』
如何やらガブリエーレは貴族になりたくてアルバーノに協力をしていたらしい。如何いった野望があるのかは分からないが、確かに平民の、騎士爵持ちとは言え下級騎士から貴族になりたいならこう言った口利きが無いと難しいだろう。
そんなくだらない事でこの男に協力したのか、とグィードは失望した。成程、「同情する価値なぞ、彼奴にはありませんよ」ベリアドの言う通りだった。
『それでだな、今から儂の部屋でその事に付いて詳しく話し合おうではないか』
そう言って、アルバーノはガブリエーレの尻を鷲掴みにした。
ああもうそれだけで、この二人の関係性がどんなものなのか良く分かると言うものだ。
「ガブリエーレ殿は男でも女でもその美貌で浮名を流しているのは有名だそうで」
嫌味、っぽくベルゼビュートが言う。成程、確かに整った美しいと言える容貌をしている。
その美貌でオルランドも誑し込んだのだろうが、思いの外使いどころが無いうえに、しつこく付き纏う為扱いに困っている、と言う感じだろうか。
・・・・・・決めた。この男から潰してやろう。
グィードはその瞳の色よりも冴え冴えと冷え切ったような視線で、鏡の向こうに居る男を見つめていた。
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