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復讐するは我にあり
六.
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食堂に辿り着き、中に入ると父ジュリオも少しして現れた。
「おはようございます、父上」
「おはようございます、お父様」
兄妹がそれぞれ挨拶するとジュリオも柔らかな声音でうむ、おはよう、と返してきた。
ジュリオの髪は輝かんばかりの銀髪で、肩より少し長いくらいだ。それをまとめて、一括りにしている。そして瞳は酷薄な印象を与える、真冬の湖畔を思わせるアイスブルーだった。
辺境伯、と言う立場であり、武人の家系なせいかグィードも背が高いが、ジュリオはもっと背が高い。威風堂々、と言う言葉を体現したような人であった。
三人で朝食を取ると、その後ラウラに玄関ホール迄見送られてジュリオとグィードは馬車に乗り込んだ。
父とふたりきり、特に話題も無く無言の時間が続いた。手持ち無沙汰になって窓の外を見やると流れる景色、ミモザの黄色、雪柳の白。そして紫色の木蓮。バルディーニ邸周辺の館の庭先でも、命の息吹を感じさせる色とりどりの花々が咲き乱れていた。
頃は三月。まだ肌寒い頃だが春がもうすぐそこ迄来ているのだと感じる事が出来る景色に、グィードの頬は綻ぶ。
バルディーニ邸も、勿論季節の花々で溢れる美しい庭を持っている。しかし、それ以上に目を引くのが館を覆いつくさんばかりに咲く藤の花だ。
本来の藤は四月から五月にかけて咲く花だが、バルディーニ邸では一年中咲き乱れており『藤ノ木邸』或いは『藤の花の館』等と呼ばれ、ちょっとした散歩コースにもなっていた。
藤の花は、バルディーニ領の本来の彼らの住まう城にも勿論咲いており、此方は観光コースに組み込まれるくらい見事な咲きっぷりだと言う。
一年中咲く不思議な藤の花はグィード、ラウラの母親エッラが愛した花であった。愛する妻の為、ジュリオが決して枯れる事のないようにと魔法使いに頼んだのだ。
その為か、此処で愛の告白をすると永遠に愛が枯れない、それが転じて永遠に結ばれる、と言うジンクスも流れているとかいないとか・・・・・・。
馬車は街中を走り抜け、トレンティノ王城が近づいて来た。
いよいよだ・・・・・・。
グィードは緊張で無意識のうちに顔が強張る。
「えらく緊張しているじゃないか?」
ジュリオがふ、と笑った。
「そりゃあ、緊張くらいしますよ」
グィードが少しばつの悪そうな顔をすると、ジュリオの笑みが益々深くなる。ついにはくすくす笑い出す父に、グィードは眩しそうに目を細めた。
自分の事は勿論だが、亡くした愛妻のエッラに日に日に似てくるラウラを、溺愛していると言っても過言ではない父ジュリオ。そのせいでラウラが死んだ日、彼もその後を追うように死んだ。
文字通り、胸を引き裂かれるようにして亡くなった。二度と、あんな思いをしたくないしさせたくない。
だから、先ずは主要な大臣たちとの挨拶の後、王子達とそれぞれ顔合わせする事はもう既に知っているから、第一王子カルロより、第二王子のダリオと懇意になる事を優先する事にした。
カルロは自分の仲間と認めたものに対する言動は鵜吞みにする傾向があるが、その点、ダリオは公平である。
それに気づけなくて、後々苦労する羽目になったが今はもう分かっている。オルランド、ラウル、カルロ。彼らの性格はもう掌握した。
そう簡単には殺さない。存分に苦しんでから死んでもらわないとな、と考える。
先ずは誰を罠に嵌めてやろうか。凶悪な笑みを浮かべそうになるのを、辛うじて堪えながら馬車の窓から城を見上げた。
城門を潜り、馬車からふたりは降りた。先ずはアポリナーレ・ベンディチェンティ国王に挨拶をせねばならない。
それから、大臣などの主要な者達と顔を合わせる事になる。実はその中で、気になっている人物がいる。
ラウラとカルロを婚約させたアルバーノ・オネスティだ。この男の事も、注意しないといけない。確かアルバーノには娘がいた。確か、ラウラと同じ年だ。前の生の時は、娘────カテリーナはダリオと婚約していた。
確か王妃とは彼の妻が遠縁だった筈だ。彼の今の役職は、舅から引き継いだものだったと記憶している。
ある意味、この男が諸悪の根源のようなものだ。一体何を思ってこんな事をしてくれたのか、知る必要がある。
「おはようございます、父上」
「おはようございます、お父様」
兄妹がそれぞれ挨拶するとジュリオも柔らかな声音でうむ、おはよう、と返してきた。
ジュリオの髪は輝かんばかりの銀髪で、肩より少し長いくらいだ。それをまとめて、一括りにしている。そして瞳は酷薄な印象を与える、真冬の湖畔を思わせるアイスブルーだった。
辺境伯、と言う立場であり、武人の家系なせいかグィードも背が高いが、ジュリオはもっと背が高い。威風堂々、と言う言葉を体現したような人であった。
三人で朝食を取ると、その後ラウラに玄関ホール迄見送られてジュリオとグィードは馬車に乗り込んだ。
父とふたりきり、特に話題も無く無言の時間が続いた。手持ち無沙汰になって窓の外を見やると流れる景色、ミモザの黄色、雪柳の白。そして紫色の木蓮。バルディーニ邸周辺の館の庭先でも、命の息吹を感じさせる色とりどりの花々が咲き乱れていた。
頃は三月。まだ肌寒い頃だが春がもうすぐそこ迄来ているのだと感じる事が出来る景色に、グィードの頬は綻ぶ。
バルディーニ邸も、勿論季節の花々で溢れる美しい庭を持っている。しかし、それ以上に目を引くのが館を覆いつくさんばかりに咲く藤の花だ。
本来の藤は四月から五月にかけて咲く花だが、バルディーニ邸では一年中咲き乱れており『藤ノ木邸』或いは『藤の花の館』等と呼ばれ、ちょっとした散歩コースにもなっていた。
藤の花は、バルディーニ領の本来の彼らの住まう城にも勿論咲いており、此方は観光コースに組み込まれるくらい見事な咲きっぷりだと言う。
一年中咲く不思議な藤の花はグィード、ラウラの母親エッラが愛した花であった。愛する妻の為、ジュリオが決して枯れる事のないようにと魔法使いに頼んだのだ。
その為か、此処で愛の告白をすると永遠に愛が枯れない、それが転じて永遠に結ばれる、と言うジンクスも流れているとかいないとか・・・・・・。
馬車は街中を走り抜け、トレンティノ王城が近づいて来た。
いよいよだ・・・・・・。
グィードは緊張で無意識のうちに顔が強張る。
「えらく緊張しているじゃないか?」
ジュリオがふ、と笑った。
「そりゃあ、緊張くらいしますよ」
グィードが少しばつの悪そうな顔をすると、ジュリオの笑みが益々深くなる。ついにはくすくす笑い出す父に、グィードは眩しそうに目を細めた。
自分の事は勿論だが、亡くした愛妻のエッラに日に日に似てくるラウラを、溺愛していると言っても過言ではない父ジュリオ。そのせいでラウラが死んだ日、彼もその後を追うように死んだ。
文字通り、胸を引き裂かれるようにして亡くなった。二度と、あんな思いをしたくないしさせたくない。
だから、先ずは主要な大臣たちとの挨拶の後、王子達とそれぞれ顔合わせする事はもう既に知っているから、第一王子カルロより、第二王子のダリオと懇意になる事を優先する事にした。
カルロは自分の仲間と認めたものに対する言動は鵜吞みにする傾向があるが、その点、ダリオは公平である。
それに気づけなくて、後々苦労する羽目になったが今はもう分かっている。オルランド、ラウル、カルロ。彼らの性格はもう掌握した。
そう簡単には殺さない。存分に苦しんでから死んでもらわないとな、と考える。
先ずは誰を罠に嵌めてやろうか。凶悪な笑みを浮かべそうになるのを、辛うじて堪えながら馬車の窓から城を見上げた。
城門を潜り、馬車からふたりは降りた。先ずはアポリナーレ・ベンディチェンティ国王に挨拶をせねばならない。
それから、大臣などの主要な者達と顔を合わせる事になる。実はその中で、気になっている人物がいる。
ラウラとカルロを婚約させたアルバーノ・オネスティだ。この男の事も、注意しないといけない。確かアルバーノには娘がいた。確か、ラウラと同じ年だ。前の生の時は、娘────カテリーナはダリオと婚約していた。
確か王妃とは彼の妻が遠縁だった筈だ。彼の今の役職は、舅から引き継いだものだったと記憶している。
ある意味、この男が諸悪の根源のようなものだ。一体何を思ってこんな事をしてくれたのか、知る必要がある。
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