復讐はショコラよりも甘い

璃々丸

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復讐するは我にあり

一.

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 妹が死んだ。
 ラウラ・バルディーニは、学園卒業間際の祝賀パーティーで婚約者でありトレンティノ王国第一王子カルロに聖女ルイスに対して行った数々の嫌がらせ行為等を断罪された後、婚約破棄を告げられた。
 大勢の人間の前でこれ以上に無いくらいの屈辱と恥をかかされ、追い出されたラウラは帰りの馬車────何故かバルディーニ家の物ではない馬車で送り届けられた────の中で自ら舌を噛んで自害したのである。
 死体を送り届けられた父でありバルディーニ家当主、ジュリオ侯爵は屋敷の玄関ホールで愛娘の死体の前で事情を聞かされ、その場で憤死した。
 立て続けに家族を亡くし、ひとり残されたラウラの兄であるグィードは数日後、その手に『闇の書』を手に入れてを実行すべく、その日は屋敷内全ての使用人達に暇を出し、ひとり屋敷に残った。
「出でよっ!悪魔王ルシフェールッッ!!」
 血涙を流しながら、グィードは闇の神であり、悪魔達の王たるルシフェールを召喚した。
 自らの血で描いた禍々しい魔法陣が赤く光り、凄まじい突風と共に目を開けていられないような光の柱が立ち上がると、柱の中から闇の神とは思えぬほどの眩いばかりの麗貌の神が現れた。
 男性とも、女性ともとれるような、そのどちらとも言えぬような中性的な美貌は神々しくもあり、禍々しくもあり。全てを投げ出し、全てを捧げたくなるような魅力を放っていた。
「貴様が、我を呼び出したのか」
 矢張りその声すらも麗しい。しかし怒りにとらわれ、死にゆくグィードには関係ないのか、大量の血を流したせいで最早意識が朦朧としながらもグィードは最後の力を振り絞った。
「・・・・・・そうだっ・・・・・・!」
「これ程までに怒りと憎しみに囚われた者も珍しい・・・・・・面白い・・・・・・良かろう、貴様の願いを聞いてやる。申してみよ」
 ぜいぜいと肩で息をしながら、もう立っていられず半ば地に伏しながらもグィードは必死に声を絞り出した。
「カ、カルロ王子とその仲間達・・・・・・オルランドとラウル・・・・・・そして、聖女ルイスに悍ましくも痛ましい死を・・・・・・ッ!!」
 そう言うと、白く美しい指がグィードの顎を捉えた。グィードの顔を上向かせ、その顔を覗き込むようにして美しき邪神は言い放った。
「その願い、必ず聞き届けよう」
 その言葉を聞いて、安心したグィードの意識は暗転してそのまま深い闇へと落ちて行った。





 高い所から落ちる様な感覚に襲われて、全身をビクリと震わせてグィードは目が覚めた。
「・・・・・・っ!?」
 息を荒く吐きながら、どくどくと激しく波打つ己の心臓の音が耳に響くのを聞きつつ、唖然と天井を見ていた。
 訳が分からない。自分は今、何処に居る?死んだはずでは無かったのか、と混乱しているとふいに横から声を掛けられた。
「目が覚めたか」
「・・・・・・!!」
 ベッドの縁に腰掛け、此方の寝顔を覗き込んでいたのは────。
「ル、ルシフェール・・・・・・ッ!!」
 グィードは掠れた声でその名を呼んでいた。数千年前に世界を滅ぼそうとして愛と光の女神アンヌンツィアータと他の神々に封印され、その存在の痕跡すらも消された闇の神。
 しかし何時の日かこの神による脅威がやってくるとされ、国王を含む一部の関係者にのみその存在と、対策を伝えられていた。バルディーニ家も、関係者としてその存在を知っていた。
 だからこそ、『闇の書』を手に入れる事が出来たのだ。
「此処、は・・・・・・?」
「貴様の屋敷だ」
 やはりそうかとグィードは納得する。しかし、どうして自分はベッドに寝ているのか。
 当然、あの時自分は死んだ筈だと言う疑問が湧いた。あれほどの出血をしていて無事で済む筈が無いのだ。
「うむ、我の力であればかような者、赤子の手をひねるようなもの・・・・・・それでは面白くない。違うか?」
 こちらの思考を読んだような言葉が、ルシフェールの朱を引いたような唇から漏れる。
「だからな、時間を巻き戻してやった。今は貴様が死んだ頃より五年前になる」
 驚いたグィードはよろよろと上体を起こした。
「五年前・・・・・・?」
 それは丁度ラウラとカルロの婚約が決まる一年前になる。そこから一年後にカルロとグィード達が、その次にラウラとルイスがシエナ学園に入学するのである。 
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