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第一章 君を好きになる
オリエンテーションキャンプ二日目②
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バスから降りると海の独特な匂いがしていた。海に来るのは小学生の頃以来だろうか。「泳ぎたい!」と言っていた男達がいたがまだ五月なので海開きはされていないはずだ。それでも今日は海に入りたくなるほど暑かった。先生からの注意事項の説明とこの後の流れの説明が終わるといよいよ海の旅が始まる。ここからは各自の自由行動になる。船の旅が終わった後は近くにある水族館に行くこともできるし、お土産物を売っている大きめのお店がある。
「勝利君!待った?トイレ行ってたんだ、ごめんね」
「大丈夫だよ。それじゃあ乗ろうか」
「うん!」
船の中にはすでにたくさんの人がいた。春奈が「一番高いところから見てみたい!」と言うので階段を登り場所が空いているか見に行くことにした。
「うわぉ、人いっぱいだね」
仕方なく春奈は高台から海を眺めることを諦め、船の先頭あたりで海を眺めることにした。そうこうしているうちに船はサイレンを鳴らし、ゆっくりと動き出した。
「動いたよ!いよいよだねー」
はしゃぎ出す春奈は高校生には見えない。でもそんな一面がある君を俺は可愛いと思っている。幸助が言っていた「お前には春奈が必要」だと。確かに俺には春奈が必要なのかもしれない。この美しさ笑顔に何度も元気をもらい、助けてもらってきた。きっと俺が頭の中で春奈は必要ないと考えていても体は春奈のことを求めているのだろう。船の進むスピードはだんだんと速くなってきた。海風が春奈の長い髪をなびかせる。五月の平均気温にしては例年よりも暑い今日は海風の冷たさが心地よい。
「風ってこんなにも気持ちいいんだね」
「俺も同じことを考えていたよ」
「勝利君ってさ、すごく鈍感だよね」
「そ、そうかな。確かに恋愛経験あんりないし鈍いかも」
風はより一層強くなってきた。春奈の声も海風が邪魔をして聞こえずらい。口は動いているので何か喋っているはずだ。耳をすまして春奈の声を聞いていた。
「私、勝利君のこと………」
「えっ?なんて?聞こえない」
「なんでもないよ!」
何か伝えようとしていたような気がしていたので「ごめん、もう一回言って」と何回もお願いしているのだけど春奈は「本当に何もないから、気にしないで」の一点張りだ。
俺は申し訳なく「ごめん」と謝った。しかし、春奈は返事をしてくれなかった。本気で怒らせてしまったかもしれない。その時だった春奈はいきなり俺にもたれかかってきた。さすがにみんなが見ている前でもたれてきたことに驚いた俺は「そ、それはやばくないか」と春奈の方を見ると少ししんどそうな顔をしていた。
「大丈夫か!」
「ちょっと船酔いしたみたい」
俺は春奈をおんぶして船の中にある椅子まで運ぶことにした。春奈が俺の背中に乗っている時はなるべく変なことを考えないようにしていた。
「重たいとか言ってたら怒るよ?」
「春奈体重何キロだ?軽すぎるぞ」
「デリカシーないなー」
「ごめんごめん」
春奈の体重が軽いかどうかはわからないが、部活で男を背負ってランニングしたりタイヤ引きをしていた俺からすると春奈をおんぶするくらい楽勝だ。しかし、俺の体は現役の時ほど強くはなかった。心臓が弱くなったせいなのか息が少しあがっていた。
「ちょっと待ってろ、水買ってくるから」
俺はカバンから財布を取り出して一番近い自動販売機に向かった。百円を自動販売機に入れ天然水のボタンを押した時、後ろから男の声がした。
「おい、お前」
振り返るとそこには翔飛がいた。
「しょ、翔飛君?」
「お前さっきまで何してた?春奈と何してた?」
翔飛は俺を自動販売機に押しつけてきた。ドンと言う大きな音が鳴っていたが周りに人はおらず誰も気がついていなかった。
「一緒に海を見ていただけだよ」
「さっきおんぶしてだろ!それに昨日だって二人でキャンプファイヤーを見ていた。お前ら付き合ってんのか」
「そ、そんなわけねーよ」
「噂聞いたぞ。今日か明日お前が春奈に告白するって言うな」
その噂聞き覚えがある。確か朝食の後に皿洗いをしていた時に翔飛が春奈に告白するって噂を聞いたはずだ。俺の噂もあるってことは周りの人達は俺が春奈のことを好きだと噂していると言うことだ。まあ噂になるのも仕方ないと思う。男女二人がキャンプファイヤーを見たり、海を見ていたりしたら誰でも疑うに決まっている。
「お前、春奈のこと好きか?」
「好きだよ。大好きだ」
自分でも驚くほどサラッと「好き」と言う言葉を使っていた。俺は翔飛に負けたくない、春奈を取られたくないと言う強い気持ちが俺の本音を曝け出したのだろう。
「ライバルってわけか。敵同士だ」
「それは半分合ってるけど、半分間違いだよ」
翔飛は何にも喋っていないが顔が「は?」って感じの顔になっていた。ライバルと言う言葉は野球していた時に死ぬほど聞いた言葉だ。俺にだってライバルと呼べる選手はたくさんいたし、甲子園を目指すと言うことは自分の学校以外は敵になってしまう。さらに言えばチームメイトとのレギュラー争いも含めると自分以外は敵と言うことだ。間違いではない。しかし俺はレギュラーを目指す仲間、甲子園を夢見て努力する仲間、そして野球をしている仲間と考えることも出来ると思っている。ライバルと仲間はきっと紙一重なんだと思う。
「俺たちは仲間だよ。春奈を好きになった仲間だよ」
「なんだよそれ、気持ち悪い。春奈の隣に並べるのは一人だ」
「まあ、負ける気はないけどね」
「俺はお前が嫌いだ」
翔飛に胸ぐらを掴まれながらそう言われた。俺は顔も覚えていないけどビンタしてきた女の子ことを思い出していた。あの時と同じように翔飛の手には何かがある。それはきっと春奈に対する感情だと思う。
「何してるの?二人とも」
声のした方向を見るとそこには元気になった春奈がいた。翔飛はサッと俺の胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「なんでもねぇよな」
翔飛の声は少し震えているような気がした。
俺も空気を読んで「なんでもないよ」と伝えた。
「翔飛君、なんで勝利君の胸ぐらを掴んでたの?」
翔飛は何も答えられずに黙っていた。春奈は翔飛の近くに歩いて行き、顔に一発ビンタをしていた。それには俺も「お、おい!やめろ、早く謝れ」と声を出していた。
「嫌よ、絶対に謝らない」
いつもはあんなにもニコニコしていて可愛いらしい顔が今は眉間に皺を寄せて怒っていた。今まで見たことも無かった。笑顔しか見せない春奈が怒るなんて珍しい。
「もし勝利君に何かあったらどうするの?責任とれんの?」
恐らく春奈は俺の体のことを心配して怒ってくれているのだろう。
「大丈夫だよ春奈。大丈夫だから」
「勝利君に謝って」
少し黙り込んだ後に「ごめん」と謝ってからどこかへ行ってしまった。通りすがりに翔飛が俺の耳もとで「ホテルに着いたら二人で話がしたい」とつぶやいていた。春奈が「大丈夫だった?」と心配そうな顔で近くまで来てくれた。俺は「俺の体はそんなによわくないよ?」と笑いながら言った。「私は真剣に心配してるのー」といつも通りの明るい笑顔を見せてくれた。船の旅はもう終わりに近づいていた。
「ごめん私のせいで楽しめなかったよね?」
「本当だよ、全然楽しくなかった」
春奈は「ごめん」と悲しそうな顔した。わざと楽しくないと言ったのに俺は少し胸が痛くなっていた。
「だからこの後も付き合ってくれるよな?」
「もちろんだよ!海に行こう!いや、水族館も良いなあ」
表情が一瞬にして明るくなった。本当に春奈の笑った顔は可愛い。もう俺はとっくに春奈の虜になっていた。
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「大丈夫だよ。それじゃあ乗ろうか」
「うん!」
船の中にはすでにたくさんの人がいた。春奈が「一番高いところから見てみたい!」と言うので階段を登り場所が空いているか見に行くことにした。
「うわぉ、人いっぱいだね」
仕方なく春奈は高台から海を眺めることを諦め、船の先頭あたりで海を眺めることにした。そうこうしているうちに船はサイレンを鳴らし、ゆっくりと動き出した。
「動いたよ!いよいよだねー」
はしゃぎ出す春奈は高校生には見えない。でもそんな一面がある君を俺は可愛いと思っている。幸助が言っていた「お前には春奈が必要」だと。確かに俺には春奈が必要なのかもしれない。この美しさ笑顔に何度も元気をもらい、助けてもらってきた。きっと俺が頭の中で春奈は必要ないと考えていても体は春奈のことを求めているのだろう。船の進むスピードはだんだんと速くなってきた。海風が春奈の長い髪をなびかせる。五月の平均気温にしては例年よりも暑い今日は海風の冷たさが心地よい。
「風ってこんなにも気持ちいいんだね」
「俺も同じことを考えていたよ」
「勝利君ってさ、すごく鈍感だよね」
「そ、そうかな。確かに恋愛経験あんりないし鈍いかも」
風はより一層強くなってきた。春奈の声も海風が邪魔をして聞こえずらい。口は動いているので何か喋っているはずだ。耳をすまして春奈の声を聞いていた。
「私、勝利君のこと………」
「えっ?なんて?聞こえない」
「なんでもないよ!」
何か伝えようとしていたような気がしていたので「ごめん、もう一回言って」と何回もお願いしているのだけど春奈は「本当に何もないから、気にしないで」の一点張りだ。
俺は申し訳なく「ごめん」と謝った。しかし、春奈は返事をしてくれなかった。本気で怒らせてしまったかもしれない。その時だった春奈はいきなり俺にもたれかかってきた。さすがにみんなが見ている前でもたれてきたことに驚いた俺は「そ、それはやばくないか」と春奈の方を見ると少ししんどそうな顔をしていた。
「大丈夫か!」
「ちょっと船酔いしたみたい」
俺は春奈をおんぶして船の中にある椅子まで運ぶことにした。春奈が俺の背中に乗っている時はなるべく変なことを考えないようにしていた。
「重たいとか言ってたら怒るよ?」
「春奈体重何キロだ?軽すぎるぞ」
「デリカシーないなー」
「ごめんごめん」
春奈の体重が軽いかどうかはわからないが、部活で男を背負ってランニングしたりタイヤ引きをしていた俺からすると春奈をおんぶするくらい楽勝だ。しかし、俺の体は現役の時ほど強くはなかった。心臓が弱くなったせいなのか息が少しあがっていた。
「ちょっと待ってろ、水買ってくるから」
俺はカバンから財布を取り出して一番近い自動販売機に向かった。百円を自動販売機に入れ天然水のボタンを押した時、後ろから男の声がした。
「おい、お前」
振り返るとそこには翔飛がいた。
「しょ、翔飛君?」
「お前さっきまで何してた?春奈と何してた?」
翔飛は俺を自動販売機に押しつけてきた。ドンと言う大きな音が鳴っていたが周りに人はおらず誰も気がついていなかった。
「一緒に海を見ていただけだよ」
「さっきおんぶしてだろ!それに昨日だって二人でキャンプファイヤーを見ていた。お前ら付き合ってんのか」
「そ、そんなわけねーよ」
「噂聞いたぞ。今日か明日お前が春奈に告白するって言うな」
その噂聞き覚えがある。確か朝食の後に皿洗いをしていた時に翔飛が春奈に告白するって噂を聞いたはずだ。俺の噂もあるってことは周りの人達は俺が春奈のことを好きだと噂していると言うことだ。まあ噂になるのも仕方ないと思う。男女二人がキャンプファイヤーを見たり、海を見ていたりしたら誰でも疑うに決まっている。
「お前、春奈のこと好きか?」
「好きだよ。大好きだ」
自分でも驚くほどサラッと「好き」と言う言葉を使っていた。俺は翔飛に負けたくない、春奈を取られたくないと言う強い気持ちが俺の本音を曝け出したのだろう。
「ライバルってわけか。敵同士だ」
「それは半分合ってるけど、半分間違いだよ」
翔飛は何にも喋っていないが顔が「は?」って感じの顔になっていた。ライバルと言う言葉は野球していた時に死ぬほど聞いた言葉だ。俺にだってライバルと呼べる選手はたくさんいたし、甲子園を目指すと言うことは自分の学校以外は敵になってしまう。さらに言えばチームメイトとのレギュラー争いも含めると自分以外は敵と言うことだ。間違いではない。しかし俺はレギュラーを目指す仲間、甲子園を夢見て努力する仲間、そして野球をしている仲間と考えることも出来ると思っている。ライバルと仲間はきっと紙一重なんだと思う。
「俺たちは仲間だよ。春奈を好きになった仲間だよ」
「なんだよそれ、気持ち悪い。春奈の隣に並べるのは一人だ」
「まあ、負ける気はないけどね」
「俺はお前が嫌いだ」
翔飛に胸ぐらを掴まれながらそう言われた。俺は顔も覚えていないけどビンタしてきた女の子ことを思い出していた。あの時と同じように翔飛の手には何かがある。それはきっと春奈に対する感情だと思う。
「何してるの?二人とも」
声のした方向を見るとそこには元気になった春奈がいた。翔飛はサッと俺の胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「なんでもねぇよな」
翔飛の声は少し震えているような気がした。
俺も空気を読んで「なんでもないよ」と伝えた。
「翔飛君、なんで勝利君の胸ぐらを掴んでたの?」
翔飛は何も答えられずに黙っていた。春奈は翔飛の近くに歩いて行き、顔に一発ビンタをしていた。それには俺も「お、おい!やめろ、早く謝れ」と声を出していた。
「嫌よ、絶対に謝らない」
いつもはあんなにもニコニコしていて可愛いらしい顔が今は眉間に皺を寄せて怒っていた。今まで見たことも無かった。笑顔しか見せない春奈が怒るなんて珍しい。
「もし勝利君に何かあったらどうするの?責任とれんの?」
恐らく春奈は俺の体のことを心配して怒ってくれているのだろう。
「大丈夫だよ春奈。大丈夫だから」
「勝利君に謝って」
少し黙り込んだ後に「ごめん」と謝ってからどこかへ行ってしまった。通りすがりに翔飛が俺の耳もとで「ホテルに着いたら二人で話がしたい」とつぶやいていた。春奈が「大丈夫だった?」と心配そうな顔で近くまで来てくれた。俺は「俺の体はそんなによわくないよ?」と笑いながら言った。「私は真剣に心配してるのー」といつも通りの明るい笑顔を見せてくれた。船の旅はもう終わりに近づいていた。
「ごめん私のせいで楽しめなかったよね?」
「本当だよ、全然楽しくなかった」
春奈は「ごめん」と悲しそうな顔した。わざと楽しくないと言ったのに俺は少し胸が痛くなっていた。
「だからこの後も付き合ってくれるよな?」
「もちろんだよ!海に行こう!いや、水族館も良いなあ」
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