【BL】はるおみ先輩はトコトン押しに弱い!

三崎こはく

文字の大きさ
上 下
8 / 18

8.押しに押されて押し倒されて

しおりを挟む
 夕食を終え客室へと戻れば、畳の上には布団が2組敷かれていた。客室を空けているうちに旅館の仲居が敷いてくれたのだ。
 今夜は律希と2人その布団で寝るのだと思えば、不思議な気持ちに包まれる。まさか職場の同僚と温泉旅行をする日が来ようとは。

 俺は部屋の隅に置いていた紙袋から酒瓶を2本取り出すと、ちゃぶ台の上に置いた。温泉街自慢の大吟醸。旅館での酒盛りを見越して、土産物店で買った物だ。
 
「律希。酒、飲むでしょ?」
「俺も一緒に飲んでいいんですか?」
「1人で酒盛りしたって楽しくないじゃん。無理強いはしないけど、付き合ってくれたら嬉しいよ」
「そういう事なら少しだけ頂きます」
 
 それから先はテレビをつけることもせず、途中で布団に潜り込むこともなく、他愛のない話題を肴に酒を呑んだ。旅先で呑む酒は美味い。障子窓の隙間から入りこむ夜風も、かぐわしい畳の香りも、さらりとした浴衣の肌触りも、何もかもが最高だ。
 
 知らず知らずのうちに酒は進み、1本目の酒瓶が空になる頃には、俺はすっかり酩酊状態であった。ふわふわと幸せ心地で律希の肩を抱き寄せる。
 
「うぇっへっへ。律希、楽しんでる~?」
「楽しんでますよ。楽しんでるんで面倒くさい絡みは止めてください」
「そんなこと言って、さっきから全然空けてないじゃん。乾杯でもする? 乾杯っていうのは文字通り盃を乾かすことでぇ」
「うわ、本当に面倒くさい。ちょっと俺から離れてください」
 
 律希は迷惑そうに俺の腕を振り解いた。普段は誰に対しても丁寧な口調の律希であるが、飲み会の最中は辛口だ。とりわけ酔っぱらってウザ絡みする俺に対しては。

 俺はヒヨコのように唇を尖らせ、フカフカの布団に倒れ込んだ。
 
「何だよぉ。俺と律希の仲なんだから、肩くらい抱いたっていいじゃん」
 
 旅館の布団は今までに寝たどんな布団よりも柔らかく、俺は幸せな気持ちになった。そのままゴロゴロと布団を満喫する俺の耳に、遠慮がちな律希の声が届く。
 
「……春臣さんは、俺と一緒に酒を飲むの嫌じゃないんですか」
「ん、何で?」
「俺、以前泥酔状態の春臣さんを抱いたんですよ。また同じことが起こったら、とは考えないんですか?」
「あの時は俺が変な雰囲気にしたんでしょ? 今日の俺はそんなことしないもん」
「もん、っていい歳した大人がアンタ」
 
 律希のツッコミは聞かなかったことにして、俺は言葉を続けた。
 
「それに律希はさ、痛いこととか酷いことはしないじゃん。あの夜もなんだかんだ優しくしてくれたんでしょ? 身体に痕も残ってなかったしさぁ。尻もムズムズしただけで、痛んだり出血したりはしてなかったし」
「そりゃ……春臣さんを抱くのに酷いことなんてしませんよ」
「でしょ? だから俺、律希のことが怖いだとか、一緒にいるのが嫌だとか、そんなことは思わないよ。他の誰かとしちゃうくらいなら律希でよかった、なんて考えてるくらい」
 
 というのはお世辞でもなんでもない俺の素直な気持ちだ。
 
 あの夜の出来事は互いに不運な事故であるが、相手が律希であったことがせめてもの救い。例えば相手が壮太であったなら、俺はこんなにも冷静ではいられなかったんじゃないかと思う。

 律希も壮太も可愛い後輩であることに違いはないのだけれど、信頼度と友好度が違うというのだろうか。俺は律希のことを人として相当好いているし、心も許している。
 あの夜、俺が変な雰囲気を作ってしまったのは多分その辺りの事情で――
 
「それはつまり、優しくするならもう一度してもいいってこと?」
「……ほぁ?」
 
 律希の言葉をすぐに理解することができず、俺は布団の上で小首をかしげた。
 次の瞬間、律希が俺の上に倒れ込んできた。大柄な律希に押し潰されて、俺は「ぐぇっ」と蛙のような悲鳴をあげる。
 
「ああー……春臣さんの匂いがする。無理無理無理、こんなの我慢しろっていう方が無理」
 
 俺の肩先に顔をうずめ、律希は早口で言う。俺の目に律希の顔は見えない。首筋にあたる吐息が熱い。吐きかけられた場所から溶けてしまいそう。
 
 律希の右手が浴衣の内側に入りこんできた。太ももを撫でられれば快感が背筋を這う。アルコールに浸かった脳味噌でも、その先に何が待ち受けているかはすぐに想像できた。
 
「まままま待って律希! 俺、また変な雰囲気作っちゃった……?」

 俺は大慌てで律希の肩を押し返すが、律希は俺の太ももを撫でる手を止めない。
 
「作っちゃいました」
「ちょ、ちょっと落ち着こう。そっちでお茶でも飲んでさ……」
「本気で止めてほしいと思うのなら、本気で抵抗してください。俺、春臣さんが嫌がることはしたくないんですよ」
 
 律希はささやきが耳朶に触れる。媚薬のように理性を溶かす。
 律希の熱い手に触れられることも、甘く掠れた声を聞くことも不快ではない。それどころか心地いいとすら感じてしまう。
 
「嫌……ではない……けど」
 
 消え入るような声で答えることが、俺にとって精一杯のYES。
 
 *
 
「はぁっ、うう……」
 
 体内を掻き回される異物感に、俺は上半身を仰け反らせて喘ぐ。律希の指は俺の体内で生き物のように動き回る。腹の奥に溜まる甘い疼き、生々しい水音、顔から火が出るほど恥ずかしい。
 
 間もなくすると指は引き抜かれ、代わりにもっと大きなモノが後孔に触れた。
 
「春臣さん、力を抜いて。大丈夫、いきなり奥まで挿れたりはしませんから」
「当たり前だろ……そんな大きいの根元まで突っ込まれたら失神するわ……」
「大きいですか? 普通じゃないですか?」
「いや普通じゃねぇって。凶器レベルだわ」
 
 俺のツッコミには言葉を返さずに、律希は俺の太ももに手を添えた。
 
 ゆっくりと体内を押し開かれる。痛みはない。けれどもそこは本来暴かれてはならない場所。内臓を押し上げられる圧迫感、異物感、背徳感。様々な感情が混じり合い、涙の粒となって零れ落ちる。
 
 律希は涙の粒を舐めとるように、俺のまなじりにキスをした。
 
「春臣さん、俺と付き合ってください」

 俺は思わず聞き返した。
 
「……何、て?」
「春臣さんを悲しませるようなこと、絶対にしませんから。デートの予定は全部俺が立てるし、店員相手にへこへこしてても文句なんて言いません。男同士だったら結婚も出産も考えなくていいから、ずっと春臣さんの望む距離感でいられますよ」
 
 話す間にも、律希は俺の顔中にキスの雨を降らせる。最後には唇に触れるだけのキスをして、それからゆらゆらと腰を揺らし始めた。
 
「律希、まだ動くなっ……」
 
 俺は律希の二の腕に爪を立てる。ゆっくりとした動きであっても、内臓を揺さぶられれば苦しくて仕方がない。苦しくて苦しくて、そして気持ちいい。心臓がドクドクと脈打ち視界が揺れる。
 
 こんなことになるのなら酒など飲むんじゃなかった。また何もかも忘れてしまうじゃないか。
 
「春臣さん。お願い、俺と付き合って」
 
 溺れるような行為の最中に、律希は何度もそう懇願した。快楽とアルコールに理性を溶かされた俺に、その願いを断ることなどできるはずもない。
 
 こうして俺と律希は恋人同士となった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

素直じゃない人

うりぼう
BL
平社員×会長の孫 社会人同士 年下攻め ある日突然異動を命じられた昭仁。 異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。 厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。 しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。 そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり…… というMLものです。 えろは少なめ。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

眠るライオン起こすことなかれ

鶴機 亀輔
BL
アンチ王道たちが痛い目(?)に合います。 ケンカ両成敗! 平凡風紀副委員長×天然生徒会補佐 前提の天然総受け

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

処理中です...