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序章 家出令嬢は清くたくましく生存中
1話 蜜柑髪の家出少女
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アン・ドレスフィード。
ティルミナ王国西方に位置するリーウの町、その町を治めるローマン・ドレスフィード候の三女である。
美しく才能に溢れた長女・次女とは異なり、三女のアンに目立った特技はなし。平々凡々を体現したような少女だ。
アンは小さい頃から、実の父親であるローマンと相性が悪かった。商売の才能があり、ドレスフィード家に繁栄をもたらしてきたローマンは、目立った才能のないアンの存在を疎ましく感じていた。
アンもそれを感じ取っていたからこそ、事あるごとにローマンに反発した。
そんな日々が10年以上も続いた。
16歳の誕生日を迎えたその日、アンは自らの意志で家を出た。母親は引き留めようとしたが、アンは聞く耳を持たなかった。生きているだけで蔑まれる、そんな人生はもうごめんだと思ったから。
小さなカバンに入るだけの荷物を詰めて、わずかばかりの小遣いを握りしめて、家を飛び出した。繁華街の一角に小さな家を借り、食うに困らないだけの職を得て、そうして2年の月日が経った。
その間、自宅には一度も帰っていない。
***
柔らかな布団の中で、アンは「ふぁぁ……」と大きなあくびをした。雑に閉めたカーテンの隙間から日射しが射し込んでいる。タンスに置かれた置時計を見やれば、時刻は午前11時を回ったところ。
「うーん……あたしにしては早起きだ……」
名残惜しげにベッドから下りたアンは、洗面所へと向かった。
冷たい水でジャバジャバと顔を洗い、ふと洗面台の鏡を見てみれば、そこにはあどけなさを残す少女が映っている。腰まで伸びた蜜柑色の髪に、気の強そうな蜜柑色の瞳。小さな鼻と小さな唇。
人ごみに投げ込まれればいとも簡単に埋もれて消えてしまう。そんなありふれた容姿の少女が、鏡の中に不愛想にたたずんでいた。
洗顔と簡単な朝食を済ませた後は、部屋の中で気ままな時間を過ごした。オリーブツリーの鉢植えに水をやったり、ソファの上に散らばった衣類をたたんだり、読みかけの本を開いてみたり。
アンが暮らす部屋は、お世辞にも広いとはいえないワンルーム。小さな部屋の中にはベッドに衣装ダンス、調理台からダイニングテーブルまで、生活に必要な全ての家具が詰め込まれている。
贅沢など何1つ許されない生活であるが、アンは今の生活が気に入っていた。この部屋にある物は、全てアン自身の力で手に入れた物。親の財力で買い与えられた物ではない。
事あるごとにアンを蔑む父親も、ここにはいない。
のんびりと本を読むうちに、西の空は橙色に染まり始めた。アンはうーんと伸びをした後、本を閉じた。
「さて、そろそろ準備しよっかな」
アンは浴室へと向かった。
服を脱ぎ、頭の先からたっぷりのシャワーを浴びる。ふんふんと呑気に鼻歌など歌いながら。
そのうちに、アンの身体には奇妙な変化が起こり始めた。
華奢な腕足にはむくむくと筋肉が隆起して、ふにゃふにゃの腹部は6つに割れた腹筋へと変わる。ささやかな胸のふくらみは消えてなくなり、代わりに生まれた物は太ももの間で揺れる男の象徴。
シャワーの湯音が途絶えたとき、浴室には、小柄なアンとは似ても似つかない大柄な青年が立っていた。
たくましく鍛え上げられた肉体と、思わずうっとりと見惚れてしまうような顔立ち。濡れた蜜柑色の髪からは、水滴が雨粒のようにしたたり落ちる。
これがアンの唯一の特技、『変貌魔法』と呼ばれるきわめて希少な魔法だ。魔法というものが一般的であるこの世界においても、使える者は滅多にいない。
アンはこの変貌魔法を使って麗しの青年へと姿を変え、夜な夜な繁華街へと赴くのだ。
「さぁて、今夜も乙女たちと夜遊びと参りましょうか」
麗しの青年――アンドレは、濡れた髪をかきあげ悪戯気に笑った。
***
真っ白なシャツに身を包んだアンドレは、日の入りと同時に家を出た。
アンドレ――もといアンの住まいは、王都の繁華街から徒歩で5分ほどの場所にある共同住宅だ。
全戸数は12。設備はしっかりしているが、住宅の出入り口が細い裏路地に面しているため家賃は割安。住人のほとんどが繁華街で働く単身者であるために、住人同士の付き合いがほとんどないというのも魅力の1つだ。
人気のない裏路地を歩み抜ければ賑やかな通りに出た。通りの左右にはれんが造りの建物が建ち並び、開け放たれた窓からはたくさんの人の話し声が聞こえてくる。
肉を焼く炭火の煙が排気口から流れ出し、太陽の残光を残す空へと立ち昇っていく。
ここがティルミナ王国王都の繋華街。数百に及ぶ酒場が立ち並ぶ、王国の夜を象徴する通りだ。
アンドレは繁華街のメイン通りをのんびりと歩き、やがて1軒の酒場へと立ち入った。開店直後の今、酒場の中にまだ客人の姿はない。
カウンター台へと歩み寄り、そこにいる女性店主に挨拶をした。
「シェリーさん、こんばんは。今夜はこの酒場でお仕事をさせてもらってもいいかな?」
シェリーと呼ばれた女性店主はアンドレを見て、それからニッカリと笑った。高く結わえられたポニーテールが快活な印象を与える女性だ。
「ああ、どうぞどうぞ。アンドレが酒場にいてくれれば、いつもの3倍は客が入るからね。今のうちにつまみを作り足しておこうかな」
途端に上機嫌となった女性店主は、つまみを作るために厨房へと消えていった。
アンドレの仕事は『もてなし役』だ。繁華街にある酒場に滞在し、そこを訪れる女性客をもてなすことで、酒場から一定額の見返りをもらっている。
人形のように整った顔立ちに優しい口調、紳士的な立ちふるまいのアンドレは、『繁華街の貴公子』と呼ばれ女性たちから絶大な人気を誇っていた。
中にはアンドレと会うためだけに繁華街を訪れる女性客も多いのだから、アンドレのいる酒場には自然と客が集まる。酒場の店主にとってみれば、見返りを払ってでも店に滞在してもらいたい存在だということだ。
シェリーが予想したとおり、間もなく酒場には続々と人が入りはじめた。その多くがアンドレと話をしたいがために繁華街を訪れた乙女たち。酒場の窓からアンドレの姿を見かけ、いそいそと酒場の戸口をくぐったのだ。
そのうちの1人がアンドレに話しかけた。
「アンドレ様、ごきげんよう。私のこと、覚えていらっしゃる?」
ハープの音色のように美しい声だ。アンドレが振り返れば、そこには水色のドレスを着た女性が立っていた。
アンドレは女性に向かって微笑みかけた。
「オリヴィア様、お久しぶりですね。酒場にいらっしゃるということは、ご両親はお出かけですか?」
アンドレの言葉に、オリヴィアと呼ばれた女性は満足そうにうなずいた。
「ええ、そう。父と母はそろって貴族仲間の夜会にお呼ばれしているわ。だからメイドに小金を渡して、こっそり部屋を抜け出してきたの」
「オリヴィア様は悪い子ですねぇ。確か結婚を目前にした婚約者がいるのでは? こんな夜分に自宅を抜け出して、酒場で男と会っているだなんて、婚約者様が知れば卒倒ものですよ」
「卒倒されたって構わないわ。しょせん親が決めた愛のない結婚だもの。それよりもアンドレ様は、悪い子がお嫌い?」
試すようなオリヴィアの口調に、アンドレはいたずらな微笑みを返した。
「いいえ、悪い子は大好きですよ。美しく品行方正なだけのご令嬢なんて、話をしていてもつまらないしね。じゃあ今夜は僕と、とことん悪いことをしちゃいましょうか」
アンドレはオリヴィアの右手をすくいあげ、その手の甲にキスをした。遠巻きに彼らの会話に聞き耳を立てていた女性たちの間から、「きゃあ」と歓喜の悲鳴があがった。
ティルミナ王国では貴族制が採用されており、王国各地の領土を貴族の家々がおさめている。
恋愛や職業選択において自由が許される庶民とは異なり、貴族の生活は厳格な規律に縛られている。
その最たる例が結婚だ。貴族の子息子女ともなれば、自由な恋愛結婚は許されず、親が決めた相手と政略結婚をすることが普通だ。そこに結婚する当人たちの意志は介入しない。家の繁栄を目的とした、愛のない結婚だ。
日々を厳格な規律にしばられ、自由な恋愛すら許されない貴族の乙女たちは、ひとときの自由を求めて繁華街を訪れる。そこで出会った『繁華街の貴公子アンドレ』から甘く背徳的なささやきを受けて、束の間の解放感にひたり、そしてまた規律にしばられた日常へと帰っていくのだ。
オリヴィアとの雑談を終えたあとも、アンドレの元には引っ切りなしに女性客がやってきた。
アンドレは彼女たちの手の甲にキスを落とし、耳元で甘い言葉をささやき、ときには額や頬へのキスまでお手の物。
酒場を切り盛りするシェリーも、周囲の席で酒を飲む庶民の男性たちも、誰もアンドレの行いを責めはしない。それがアンドレの仕事であることを知っているからだ。
そうして夜も更けた頃、大繁盛の酒場にまた1人の客人がやってきた。
ティルミナ王国西方に位置するリーウの町、その町を治めるローマン・ドレスフィード候の三女である。
美しく才能に溢れた長女・次女とは異なり、三女のアンに目立った特技はなし。平々凡々を体現したような少女だ。
アンは小さい頃から、実の父親であるローマンと相性が悪かった。商売の才能があり、ドレスフィード家に繁栄をもたらしてきたローマンは、目立った才能のないアンの存在を疎ましく感じていた。
アンもそれを感じ取っていたからこそ、事あるごとにローマンに反発した。
そんな日々が10年以上も続いた。
16歳の誕生日を迎えたその日、アンは自らの意志で家を出た。母親は引き留めようとしたが、アンは聞く耳を持たなかった。生きているだけで蔑まれる、そんな人生はもうごめんだと思ったから。
小さなカバンに入るだけの荷物を詰めて、わずかばかりの小遣いを握りしめて、家を飛び出した。繁華街の一角に小さな家を借り、食うに困らないだけの職を得て、そうして2年の月日が経った。
その間、自宅には一度も帰っていない。
***
柔らかな布団の中で、アンは「ふぁぁ……」と大きなあくびをした。雑に閉めたカーテンの隙間から日射しが射し込んでいる。タンスに置かれた置時計を見やれば、時刻は午前11時を回ったところ。
「うーん……あたしにしては早起きだ……」
名残惜しげにベッドから下りたアンは、洗面所へと向かった。
冷たい水でジャバジャバと顔を洗い、ふと洗面台の鏡を見てみれば、そこにはあどけなさを残す少女が映っている。腰まで伸びた蜜柑色の髪に、気の強そうな蜜柑色の瞳。小さな鼻と小さな唇。
人ごみに投げ込まれればいとも簡単に埋もれて消えてしまう。そんなありふれた容姿の少女が、鏡の中に不愛想にたたずんでいた。
洗顔と簡単な朝食を済ませた後は、部屋の中で気ままな時間を過ごした。オリーブツリーの鉢植えに水をやったり、ソファの上に散らばった衣類をたたんだり、読みかけの本を開いてみたり。
アンが暮らす部屋は、お世辞にも広いとはいえないワンルーム。小さな部屋の中にはベッドに衣装ダンス、調理台からダイニングテーブルまで、生活に必要な全ての家具が詰め込まれている。
贅沢など何1つ許されない生活であるが、アンは今の生活が気に入っていた。この部屋にある物は、全てアン自身の力で手に入れた物。親の財力で買い与えられた物ではない。
事あるごとにアンを蔑む父親も、ここにはいない。
のんびりと本を読むうちに、西の空は橙色に染まり始めた。アンはうーんと伸びをした後、本を閉じた。
「さて、そろそろ準備しよっかな」
アンは浴室へと向かった。
服を脱ぎ、頭の先からたっぷりのシャワーを浴びる。ふんふんと呑気に鼻歌など歌いながら。
そのうちに、アンの身体には奇妙な変化が起こり始めた。
華奢な腕足にはむくむくと筋肉が隆起して、ふにゃふにゃの腹部は6つに割れた腹筋へと変わる。ささやかな胸のふくらみは消えてなくなり、代わりに生まれた物は太ももの間で揺れる男の象徴。
シャワーの湯音が途絶えたとき、浴室には、小柄なアンとは似ても似つかない大柄な青年が立っていた。
たくましく鍛え上げられた肉体と、思わずうっとりと見惚れてしまうような顔立ち。濡れた蜜柑色の髪からは、水滴が雨粒のようにしたたり落ちる。
これがアンの唯一の特技、『変貌魔法』と呼ばれるきわめて希少な魔法だ。魔法というものが一般的であるこの世界においても、使える者は滅多にいない。
アンはこの変貌魔法を使って麗しの青年へと姿を変え、夜な夜な繁華街へと赴くのだ。
「さぁて、今夜も乙女たちと夜遊びと参りましょうか」
麗しの青年――アンドレは、濡れた髪をかきあげ悪戯気に笑った。
***
真っ白なシャツに身を包んだアンドレは、日の入りと同時に家を出た。
アンドレ――もといアンの住まいは、王都の繁華街から徒歩で5分ほどの場所にある共同住宅だ。
全戸数は12。設備はしっかりしているが、住宅の出入り口が細い裏路地に面しているため家賃は割安。住人のほとんどが繁華街で働く単身者であるために、住人同士の付き合いがほとんどないというのも魅力の1つだ。
人気のない裏路地を歩み抜ければ賑やかな通りに出た。通りの左右にはれんが造りの建物が建ち並び、開け放たれた窓からはたくさんの人の話し声が聞こえてくる。
肉を焼く炭火の煙が排気口から流れ出し、太陽の残光を残す空へと立ち昇っていく。
ここがティルミナ王国王都の繋華街。数百に及ぶ酒場が立ち並ぶ、王国の夜を象徴する通りだ。
アンドレは繁華街のメイン通りをのんびりと歩き、やがて1軒の酒場へと立ち入った。開店直後の今、酒場の中にまだ客人の姿はない。
カウンター台へと歩み寄り、そこにいる女性店主に挨拶をした。
「シェリーさん、こんばんは。今夜はこの酒場でお仕事をさせてもらってもいいかな?」
シェリーと呼ばれた女性店主はアンドレを見て、それからニッカリと笑った。高く結わえられたポニーテールが快活な印象を与える女性だ。
「ああ、どうぞどうぞ。アンドレが酒場にいてくれれば、いつもの3倍は客が入るからね。今のうちにつまみを作り足しておこうかな」
途端に上機嫌となった女性店主は、つまみを作るために厨房へと消えていった。
アンドレの仕事は『もてなし役』だ。繁華街にある酒場に滞在し、そこを訪れる女性客をもてなすことで、酒場から一定額の見返りをもらっている。
人形のように整った顔立ちに優しい口調、紳士的な立ちふるまいのアンドレは、『繁華街の貴公子』と呼ばれ女性たちから絶大な人気を誇っていた。
中にはアンドレと会うためだけに繁華街を訪れる女性客も多いのだから、アンドレのいる酒場には自然と客が集まる。酒場の店主にとってみれば、見返りを払ってでも店に滞在してもらいたい存在だということだ。
シェリーが予想したとおり、間もなく酒場には続々と人が入りはじめた。その多くがアンドレと話をしたいがために繁華街を訪れた乙女たち。酒場の窓からアンドレの姿を見かけ、いそいそと酒場の戸口をくぐったのだ。
そのうちの1人がアンドレに話しかけた。
「アンドレ様、ごきげんよう。私のこと、覚えていらっしゃる?」
ハープの音色のように美しい声だ。アンドレが振り返れば、そこには水色のドレスを着た女性が立っていた。
アンドレは女性に向かって微笑みかけた。
「オリヴィア様、お久しぶりですね。酒場にいらっしゃるということは、ご両親はお出かけですか?」
アンドレの言葉に、オリヴィアと呼ばれた女性は満足そうにうなずいた。
「ええ、そう。父と母はそろって貴族仲間の夜会にお呼ばれしているわ。だからメイドに小金を渡して、こっそり部屋を抜け出してきたの」
「オリヴィア様は悪い子ですねぇ。確か結婚を目前にした婚約者がいるのでは? こんな夜分に自宅を抜け出して、酒場で男と会っているだなんて、婚約者様が知れば卒倒ものですよ」
「卒倒されたって構わないわ。しょせん親が決めた愛のない結婚だもの。それよりもアンドレ様は、悪い子がお嫌い?」
試すようなオリヴィアの口調に、アンドレはいたずらな微笑みを返した。
「いいえ、悪い子は大好きですよ。美しく品行方正なだけのご令嬢なんて、話をしていてもつまらないしね。じゃあ今夜は僕と、とことん悪いことをしちゃいましょうか」
アンドレはオリヴィアの右手をすくいあげ、その手の甲にキスをした。遠巻きに彼らの会話に聞き耳を立てていた女性たちの間から、「きゃあ」と歓喜の悲鳴があがった。
ティルミナ王国では貴族制が採用されており、王国各地の領土を貴族の家々がおさめている。
恋愛や職業選択において自由が許される庶民とは異なり、貴族の生活は厳格な規律に縛られている。
その最たる例が結婚だ。貴族の子息子女ともなれば、自由な恋愛結婚は許されず、親が決めた相手と政略結婚をすることが普通だ。そこに結婚する当人たちの意志は介入しない。家の繁栄を目的とした、愛のない結婚だ。
日々を厳格な規律にしばられ、自由な恋愛すら許されない貴族の乙女たちは、ひとときの自由を求めて繁華街を訪れる。そこで出会った『繁華街の貴公子アンドレ』から甘く背徳的なささやきを受けて、束の間の解放感にひたり、そしてまた規律にしばられた日常へと帰っていくのだ。
オリヴィアとの雑談を終えたあとも、アンドレの元には引っ切りなしに女性客がやってきた。
アンドレは彼女たちの手の甲にキスを落とし、耳元で甘い言葉をささやき、ときには額や頬へのキスまでお手の物。
酒場を切り盛りするシェリーも、周囲の席で酒を飲む庶民の男性たちも、誰もアンドレの行いを責めはしない。それがアンドレの仕事であることを知っているからだ。
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