【BL】齢1200の龍王と精を吸わないオタ淫魔

三崎こはく

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はないちもんめ

至高の按摩-1

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本章、次章エロ有です。対象話にはタイトルに※を付しますので、苦手な方はご注意ください。
本作残話50話程度!以後頑張って毎日更新を心がけますので、どうぞ最後までお付き合いください。
***



 週に一度の公休日。陽が高く昇った頃、メリオンはクリスの私室に向かっていた。小脇に抱えているのは数冊の古ぼけた書物。「手持ちの魔法書を貸してほしい」と、以前クリスから要望を受けたのだ。初めこそ「人間の身で魔法書などどうするのだ」と不思議に思ったメリオンであるが、魔族と共に暮らすのであれば魔法について知っていて困ることはない。クリスの要望を素直に受け入れ、私室の書棚から数冊の書物を引っ張り出してきたところである。
 魔法書ならば聖ジルバード教会の図書室にも腐るほど並べられているが、魔法に疎いクリスが、あの大量の書物から適切な魔法書を探し出すのは至難の業だ。また魔法と言えば、真っ先に思いつくのは件の魔法好きの王妃である。しかし「ゼータの持つ書物は内容が偏りすぎていてぴんと来ない」というのはクリス本人の言葉である。

 メリオンが扉を開けると、部屋の主であるクリスはすでに読書の真っ最中であった。他の床から30㎝ほど嵩上げされた「小上がり」。方角で言えば部屋の北西隅に位置するその場所は、四隅を無垢材の柱により囲われている。大人4人が寝れば手狭となる広さのそこは、まるで秘密基地のような場所だ。
 クリスはその小上がりの隅で、1冊の書物を真剣に読み耽っている。メリオンの入室にも気が付いていない。

「おい、クリス。頼まれていた魔法書だ」

 部屋に響くメリオンの声に、クリスははっと顔を上げた。クリスが立ち上がるよりも早く、メリオンは小上がりに歩み寄る。板張りの床よりも柔らかく、しかし絨毯よりは硬い敷物の上に、持ってきた書物を積み上げる。

「貴重な本だから汚すなよ。返すのはいつでも良い」
「あ、はい。ありがとうございます」

 必要最低限の会話を済ませ、メリオンはその場を立ち去ろうとする。読書を一区切りにしたクリスが、メリオンを呼び止める。

「メリオンさん。この後、少し時間あります?」
「作れないことはない」
「それなら実験台になってください」
「…御免だ」

 実験の内容すら問い正さずに、メリオンは再び歩み出す。クリスは慌てて読み耽っていた書物を閉じ、その表紙をメリオンに向けて掲げる。

「待って待って。変な実験じゃないですってば。これですよ」

 メリオンが持参した魔法書と等しく、その書物もかなり古ぼけていた。表紙が取れているため、傍目には何の書物なのかがわからない。しかし真面目な内容ならばとりあえず話だけは聞いてやるかと、メリオンは小上がりの隅に腰を下ろした。

「何の実験だ。まさか人間の分際で魔法でも使う気か?」

 クリスが差し出した書物を、メリオンは右手を伸ばして受け取った。2㎝ほどの厚みがあるその書物は、表紙だけではなく背表紙も取れ、糸綴じで辛うじて繋がっているという状態だ。一番先に目に付く中表紙には、黒の筆文字でこう書かれている。
―至高の按摩

「…按摩師にでも転職するのか」
「しませんよ。趣味の範囲です」

 初めの数ページをぱらぱらと捲ったメリオンは、その後興味がないとばかりに書物を閉じた。クリスの腹元に書物を押し付け、ついでに激励の言葉を投げ掛ける。

「日々精進し、至高の按摩師を目指すが良い。じゃあな」

 爽快と立ち去ろうとするメリオンの手首を、クリスの手のひらが掴む。前触れなく身体に触れられる不快感に、メリオンの二の腕にはぞわりと鳥肌が立つ。

「しつこいな。按摩の実験台ならゼータにでも頼めばいいだろう」

 メリオンは眉を顰め、クリスの接触を振り払う。
 もう大分前の事ではあるが、クリスがゼータに按摩を施している姿をメリオンはその目で見ている。あれはバルトリア王国訪問に先立つダンスの練習後の出来事であった。不慣れなダンスへの緊張感と、メリオンに張り倒される恐怖心から極度に凝り固まったゼータの身体を、クリスは甲斐甲斐しく揉み解していたのである。柔らかな笑みを浮かべ王妃の尻を揉みしだくクリスの姿に、当時のメリオンは苦言を呈した。しかし当のゼータはかなり心地良さそうであった。揉み解されることを望む人間がいるのなら、そいつに施してやるのが一番良い。

「按摩は身体に触るじゃないですか。ゼータの口から僕に揉まれたとレイ…バック王に漏れるのはまずいかなって」

 当時散々尻を揉んでいた奴が何を言う、と不満を覚えるメリオンである。しかし当時のゼータは疲労から半分夢の中であった。意識のはっきりしている時に王妃の身体に触れるというのは、確かに王の心象は良くないだろう。

「ならそこらにいる侍女に適当に声を掛けろ。お前の面なら大抵は嫌と言わん」
「個人的に声を掛けて部屋に連れ込んだとなると、その後が面倒じゃないですか。好意があると誤解されても困りますし」
「…男の官吏にすればいいだろうが」
「按摩の実験台を頼むほど仲の良い官吏はいないです」

 十二種族長は昼夜王宮内にいるとはいえ、下級官吏と頻繁に顔を合わすわけではない。主な仕事は決裁業務で、執務室に籠っていることが多いのだ。急ぎの書類であれば関連部署の官吏が直接十二種族長の執務室を訪れることもあるが、急ぎの書類を抱えた相手と雑談に興じる時間などない。それでも150年間王宮内にいるメリオンには、多少打ち解けた関係を築く官吏もいる。しかしそうであったとしても。公休日に呼び出して個人的な頼みごとをできる仲かと言われると厳しいところである。

「…ザトは」
「ザトさんはすでに実験済みです。彼の身体は凝り固まりすぎていて、人肌を揉んでいるのか岩肌を揉んでいるのかわかりませんでした。もう少しレベルを上げてから再戦します」

 他に按摩の実験台になってくれそうな奇特な人物を思い付かずに、メリオンは言葉に詰まる。クリスはい敷物の空いた場所を、手のひらで何度か叩く。黙ってここに横になれ、の合図だ。

「少しくらい良いでしょう。メリオンさん、気持ちいいこと大好きじゃないですか」
「張り倒すぞ」

 確かにゼータから「ポトス城屈指の淫猥物」と呼ばれるメリオンは、気持ち良いこと――言い換えれば性行為が3度の飯より好きだ。クリスの言葉に一字一句間違いはないが、人を小馬鹿にするような態度はいただけない。
 無礼なクリスに鉄槌を下すべく、メリオンは拳を振り上げる。しかし結局その拳でクリスの頬を打つことはせずに、溜息交じりに拳を下ろした。物欲が薄く、物事へのこだわりが少ないクリスは、稀にとことん融通の利かない男に変貌する。そのことを、かつてクリスの教育係を請け負っていたメリオンは嫌というほど知っている。
この先しつこく絡まれるくらいなら、一度相手をしてやった方が被害は少ない。メリオンは溜息を一つ。

「…一度きりだ」
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