【BL】齢1200の龍王と精を吸わないオタ淫魔

三崎こはく

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安らかに眠れ、恐ろしくも美しい緋色の龍よ

※後日談:やがて叶う夢

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※注 あまり生々しくはありませんがエロ有、苦手な人は避けて通ってください!






 時はまた少し遡る。レイバックとゼータがリジンの脚を借り、ドラキス王国へと帰り着いたその夜の話だ。
 共同浴場で入浴を済ませたゼータは、王宮の6階に位置する王妃の間へと入室した。毛足の長い緋色の絨毯をよろよろと歩み、整えられたベッドに勢いよく身を投げる。ハクジャからドラキス王国への道中は野宿が基本であった。食事は狩猟と採集が主、身体を洗うのは冷たい川の水だ。いくら野宿慣れしているとはいえ、硬い地面で眠る生活が続けば疲労は溜まる。1か月に及ぶ旅を終えたばかりのゼータの身体は、手足も胴体も鉛のような重たさだ。
 ちなみに本性が獣であるレイバックは、野宿ばかりの長旅にさほど疲弊した様子はない。今事はザトとシルフィーに両腕を引かれ、白の街で開かれている「国王帰還祭」に参加しているはずだ。半年間にも及ぶ国家の主の不在。一度は斃れたと思われたレイバックが帰還した今日は、ゼータが王妃となった日以上の特別な夜。侍女が官吏が兵士が十二種族長の面々が、集い、歌い、笑い、酒を酌み交わす。昨日までの憂いなど忘れ、宴は朝まで続く。

「宴に参加したい気持ちは山々ですけれど…私は先に休ませていただきます…」

 ゼータはぼそぼそと小さな声で呟くと、ふわふわの布団に亀のように潜り込む。4か月間も王宮を空けていたというのに、カミラが毎日のように掃除をしてくれていた王妃の間。床には埃一つ落ちておらず、布団はたっぷりのお日様を浴びてふかふかだ。今この瞬間も、カミラは宴に参加せずに王宮内を駆け回っているはずだ。例えば長いこと使われていなかったレイバックとゼータの食器を磨いたり、例えば衣装庫の掃除をしたりと、やるべきことは山のようにある。再会当初こそ「今日くらいはお仕事をせずに、宴に参加したら良いじゃないですか」と説得を試みたゼータである。しかし磨き粉を手に生き生きとした表情のカミラを相手に、説得の言葉など無意味。ゼータの身の回りの世話をすることを生きがいとするカミラにとっては、皆と酒を酌み交わすよりも、食器を磨く方が余程充実した時間なのだ。

 では、お休みなさい。ゼータがベッドの枕元にある灯りのスイッチに手を伸ばした、そのときだ。ばん、と大きな音を立てて王妃の間の扉が開く。布団から右手だけを伸ばしたゼータが扉の方を見れば、開け放たれた扉の向こう側にはレイバックが立っていた。ぜぇはぁと肩で息をするレイバックは、ゼータと揃いの藍色の寝間着を身にまとっている。緋色の髪は濡れたままであるから、どうやら入浴直後のようだ。

「あれ、レイ。どうしたんですか。国王帰還祭に参加していたのでは?」
「少しだけ顔を出してきた。皆には本当に迷惑を掛けたし、一言挨拶はせねばならないと思って」
「挨拶だけして、すぐに王宮に戻って来たんですか?」
「そうだ」
「何で?私に、何か用事がありました?」

 ゼータは下半身を布団にもぐりこませたまま、首を傾げる。国王帰還祭はレイバックのための宴。王宮の誰もがレイバックの帰還を待ち望んでいた。みなの期待に応えるのならば、レイバックは早々に会場を抜け出すべきではない。ゼータが旅の疲労を理由に、宴への参列を辞退するのとは訳が違うのだ。
 どうしても今日中に済まさねばならない大事な用事があっただろうか。ゼータの問いにレイバックは答えない。肩で息をしながら部屋の中へ歩み入ると、ゼータの寝るベッドへさも当然のように潜り込む。そしてゼータの身体を抱きすくめると、平たい胸元にぐりぐりと鼻先を擦りつけるのだ。

「やっと2人きりになれた」

 そう言うレイバックの声音は、母に縋る幼子のよう。ああ、そうか。宴を切り上げ入浴を済ませ、大慌てで王妃の間を訪れたのはこうして2人きりで時を過ごしたかったからか。ゼータはひんやりと濡れた緋髪を指先で梳く。

「道中はリジンが一緒でしたもんね。今日の日中は忙しすぎて、2人きりになる暇なんて1秒たりともありませんでしたし」
「そうだろう。だから今日は絶対に一緒に寝ると決めていたんだ。宴の参列者には申し訳ない気持ちもあるが、これ以上ゼータと触れ合えずしては俺は干からびてしまう」
「そんな大袈裟な」

 ゼータはくすくすと笑う。ゼータとレイバックがこうして閉ざされた空間で2人きりになるのは、実に半年ぶりのことだ。精霊の里で一夜の宿を乞うたときは同室に婆様が寝ていたし、ハクジャに戻った後はリジンの私宅に間借りする生活だ。ドラキス王国への道中はリジンとの3人旅で、夜は野宿が基本。旧バルトリア王国国土内に入った後は数日宿を取ったが、選んだ部屋は3人部屋ばかりであった。愛する者が同じ空間にいるというのに、許されるのは他愛のない会話と無難な接触だけ。レイバックが「干からびる」という気持ちも分からないではない。
 レイバックに半ば押し潰された状態のまま、ゼータは手のひらに魔法を発動する。手のひらの周囲に温風が巻き起こり、レイバックの濡れた緋髪を乾かしていく。精霊の里で散髪を済ませ、旅の間にまた少し伸びてしまった鮮やかな緋髪。乾くにつれて四方を向いて跳ね回る。

「ほら、乾きましたよ。今日はここで寝るんですよね。灯りを落としたいから、少しだけ腕を緩めてもらえます?」

 ゼータはすっかり乾いた緋髪から手のひらを離し、レイバックの腕の中で身動ぎをする。先ほど手を触れかけた灯りのスイッチは、ベッドの枕元に位置している。いくら隻腕であるとはいえレイバックの体躯はゼータよりも遥かに強靭だ。抱き枕のように押し潰されたままでは、灯りを落とすことは困難である。

「あー…すまん」
「ん?」
「本当に一緒に寝るだけのつもりだったんだ。疚しい思いなど一切持ち合わせていなかった…つい10秒ほど前までは」

 ゼータの胸元に鼻先を埋めたまま、レイバックは申し訳なさそうに眉尻を下げる。情けない面持ちとは対照的に、ゼータを抱きすくめる右腕には徐々に力がこもる。それと同時に、段々と硬さを帯びる男の象徴。内太腿に押し付けられる硬い感触に、ゼータは思わず「ふっふ」と笑い声を零す。

「別に謝らなくても良いですよ、雄に気持ちは私にもよく分かります。こうして触れ合うのは半年ぶりのことですしね」
「そうか?しかしゼータは疲れているだろう。今まさに寝入る直前であった人物を、夜遊びに突き合わせるのは気が引ける。今日はしっかりと休んで、続きは明日――」

 レイバックがそこで言葉を切ったのは、ゼータが唇を塞いだからだ。色気など何もない、ただ唇がぶつかるだけのキス。最後にそうして唇を合わせたのは今日からもう半年も前のこと。永遠とも思えるときの中で毎夜のように不安に押し潰されて、正しいキスの仕方など忘れてしまった。
 けれどもそのたどたどしいキスがOKの合図。

 ***

 灯りを落とした部屋の中に、微かな衣擦れの音が響く。衣服を脱ぐ間も惜しんで求めあうものだから、2人はまだともに揃いの寝間着を身に着けたまま。レイバックの右手はゼータの寝間着の中に入り込んで、肉付きの薄い身体を熱心に撫でる。脇腹に、鎖骨に、腰回りに、太腿に。熱を持った手のひらに触れられるたび、全身にぞくぞくとした快感が走る。

「もっと触れたい。片腕では足りない」

 レイバックは心底悔しそうに呟く。いつも情事の折にはゼータの身体のあちこちを撫で回すレイバックの左腕、今その場所には中身のない藍色の袖が揺れているだけだ。
 利き腕のない不自由さに焦れるように、レイバックはゼータの首筋に口付ける。日に焼けた肌にいくつもの吸い跡を残し、くっきりと浮き出た鎖骨に舌先を這わせ、控えめな胸の突起にちゅうと吸い付く。およそ半年ぶりに感じる甘美な刺激に、ゼータの唇からは「はぁ」と甘い吐息が零れる。

 そこから先はもう欲望の赴くままだ。揃いの寝間着はいつの間にか脱ぎ捨てられて、ベッドの脇に絡まるようにして落ちている。毛布と肌掛け布団はベッドの足元に蹴り寄せられて、枕はあらぬ方面に吹き飛んだまま。そのめちゃめちゃなベッドの上で、レイバックとゼータもまた秩序なく絡まり合う。互いの身体に吸い跡を残し、唾液が零れるほどにキスをして、陰茎を擦り合わせて快楽を求める。それでも足りないとレイバックの指先はゼータの後孔に差し込まれて、くちゅくちゅといやらしい音を立てて胎内を掻き回す。本来快楽とは無縁であるはずのその場所は、半年経っても蜜の味を忘れてはいない。絶え間なく与えられる快楽に、ゼータは瞳を潤ませて懇願する。

「レイ…指はもう十分ですから」
「そうか?しかし半年ぶりの行為なのだし、できる限り入念に慣らした方が…」
「あまり入念にされると持ちません。お願いですから、速やかに先に進んでください」

 ドラキス王国への帰路は野宿が基本。夜に1人きりになる瞬間など存在しなかったのだから、当然自慰行為に励む時間も存在しない。そうしてただでさえ性欲を溜め込んだ身体に、およそ半年ぶりとなる愛する者との目合い。皮膚も粘膜もいつも以上に敏感で、触れられるたびに抗いがたい快感がほとばしる。このまま愛撫を続けられれば、絶頂まで長くは持たない。
 ゼータの懇願を、レイバックは素直に受け取ったようである。すっかり柔らかくなった後孔から2本の指が引き抜かれ、代わりに硬く勃ち上がった陰茎が宛がわれる。それで胎内を掻き回される悦楽は知っている。きっとすぐに理性など溶けて、まともな思考は叶わなくなってしまう。

「できるだけゆっくり挿れる。痛みがあればすぐに言ってくれ」

 耳元でレイバックの声。唇に一瞬温もりを感じた後、胎内にずぶずぶと熱が押し入ってくる。熱い、熱い、熱い。腹の内側から溶けてしまいそうだ。

「ああ、はぁっ…」
「痛むか?」

 思わず零れた掠れ声には、レイバックの不安そうな声が返ってくる。すぐに答えを返さなくてはと思うけれど、喉が震えて中々言葉が出てこない。何度も何度も声の塊を飲み込んで、それからようやく最低限の答えを口にする。

「痛みは…ない、けど」
「けど?」
「幸せすぎて、死にそう」

 息も絶え絶えにそう伝えれば、レイバックは緋色の目を何度も瞬かせた。まさかゼータの口からそんな甘い言葉が聞けるだなんて。驚きに満ちた瞳は、やがて幸福の色に染まる。

「俺も幸せだ」

 レイバックはゼータの胸元にぴたりと身体をつけて、快楽に震える身体を抱き締める。

 もう2度と会えることはないのだと思っていた。希望の光は道半ばで途絶え、溺れるほど深い深緑の中で立ち止まる様を何度も想像した。愛する者の骸を見つけられずに、たった一人土の地面にうずくまり、そのまま息絶える夢を何度も見た。それはとても恐ろしい最期。死にゆくことが恐ろしいのではない。愛する者と引き離されたまま、一言の別れも伝えられないまま生を終えることが怖いのだ。命尽きる前に、伝えたい言葉は山のようにある。溢れんばかりの愛情を、感謝を、届けぬまま死することは何と恐ろしい。

「夢がね、できたんです」
「ん、夢?」
「伝説の中で、緋色のドラゴンは人間の娘との間に子を儲けました。ドラゴンと人間の繁殖が可能なら、私とレイとの間にも子どもが出来るかなって」
「それは、どうだろうな。所詮は伝説だ。あまり期待はしない方が」
「良いんですよ。ただの夢です。叶わなくたって文句は言いません。でももしかしたらそんな夢のような夢が、叶う日が来るのかもしれないなって」
「――そうだな。叶う日が来るのかもしれない」

 レイバックは愛情に満ちた手つきでゼータの頭を一撫ですると、ゆらゆらと腰を前後に揺らし始めた。まだ深い部分への挿入はせずに、入口付近での緩やかな挿抜を繰り返す。陰茎の凹凸で入口部分を擦られるたび、ゼータは指先を震わせて喘ぎ悶える。甘い声に誘われて、繋がりは徐々に深い場所へと。

「レイ、愛しています」
「俺も愛している」

 愛し愛され、夜は更ける。
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