【BL】齢1200の龍王と精を吸わないオタ淫魔

三崎こはく

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安らかに眠れ、恐ろしくも美しい緋色の龍よ

緋色の龍が落ちる

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 報告。

 ドラキス王国王宮軍、旧バルトリア王国国境付近の偵察に向かう。目的は道の整備状況の確認、そして蔓延る凶暴な魔獣の盗伐。飛行獣の襲来に備え、空での戦闘に長ける王が偵察に同行。
 往路は順調。偵察の報告。旧バルトリア王国へと続く道はいまだ整備途中だが、数年のうちに馬車での往来が可能となる見込み。そして魔獣の盗伐。人を襲う好戦的な魔獣の盗伐数は55。空飛ぶ魔獣の襲来はなく、王は人の姿を保ったまま盗伐に参加。成果は上々。

 旧バルトリア王国国土内にある小さな集落で道を折り返し、王宮軍は復路につく。まさにドラキス王国へと国境を超えようというとき、魔獣の襲来に合う。恐れていた飛行獣の襲来。最悪なことはその魔獣は、神獣と恐れられるドラゴンである。巨大な体躯を持つ成獣のドラゴン。色は緑褐色。王宮軍はすぐさま戦闘には移らない。ドラゴンは無意味に他種を襲わない。身を潜めれば危を脱することは可能。しかし目論見は外れる。緑褐色のドラゴンは非常に好戦的。雄叫びを上げ王宮軍を噛み殺さんと牙を剥く。
 やむなく交戦。しかし殺意の籠る神獣の攻撃には太刀打ちできず。多数の負傷者が出る。兵を守るため、王がドラゴンに姿を変え応戦。負傷者の横たわる地を離れ、空での戦いとなる。戦いは熾烈を極め、やがてもつれ合う2頭のドラゴンは兵の頭上を離れる。咆哮は遠ざかる。2頭のドラゴンが飛び去る先は旧バルトリア王国国土の果て。目視では正確な行く末は不明。飛び去ったのか落ちたのか、それすらもわからず。王の生死は、不明-

 ポトス城王宮の議会の間。淡々と読み上げられる報告書の内容を、椅子に腰かけた12人は無言のまま聞いた。報告を終えたザトが席についても、11人の種族長と王妃であるゼータは無言を貫いていた。

「3日前の出来事だ。兵の中に負傷者がいたため、王宮に帰り着くのが遅くなったそうだ。報告が早かったところで、どうにもできなかった事態ではあるが…」

 ザトは報告書を畳み、胸のポケットにしまい込んだ。いつもは緋髪の王が座るはずのザトの隣席は、今は空席となっている。

「我々の力が及ばす、王の手を煩わせました。誠に申し訳ない…」

 椅子に腰かけたまま深々と頭を下げた者は、竜族長であるツキノワだ。同時に巨人族長であるギーガンも頭を下げる。十二種族の任と兵士の任を兼任する2人は、今しがた報告のあった偵察に同行していた。両名ともがドラゴンの攻撃を受け、身体のあちこちに包帯を巻いている。

「ドラゴンが相手ではどうしようもあるまい。過ぎた事は仕方がない。問題なのは、今後どうするかだ」

 ザトの言葉に、場は再び静まり返る。
 王の行方は不明、そしてその生死も不明。死が確認されてない以上、王の帰還を信じ政務を続ける事は皆承知の上だ。しかし最終決裁を行う者がいなければ当然仕事は滞る。その期間が長くなれば、民の生活にも影響を及ぼしかねない。ザトは粛々と言葉を続ける。

「幸いにも王が王宮を空ける事は今までにもあった。その期間は魔獣討伐用務にかかる1か月が最長。それほどの期間ならば、王がいなくても国を治める事はできる」
「ザト殿が王の代理となることはしないという意味ですか?」

 尋ねた者は妖精族長のシルフィーだ。ザトが代理王として立つならば、王と同様の決定権が彼に与えられる。政務が滞ることはない。しかし王の帰還を信じ、王の不在時と同様の対応を取るとなれば、最終決定権者は不在のままなのだ。重要な政策の施行にこそ王の承認が必要なのだから、当然時間が経つにつれあらゆる場所で政務が滞ることとなる。
 シルフィーの問いにはザトが答える。

「王の帰還の可能性は十分にある。もし傷を負っていたにしても、癒えれば飛行での帰還は可能だ。まずは通常の討伐用務にかかる王不在として、王の承認が必要な施策は保留。ただし俺が承認しても問題ないと判断した案件は、その都度柔軟に承認を行う。意見はあるか」
「…王の帰還を信じる期間は」

 小声で述べたのは、幻獣族長のアマルディーナ。長い沈黙の後に、ザトの声が響く。

「…2か月だ。2か月待っても王が戻らなければ、再度召集を掛ける。代理王を立て滞る業務を解消するか、王は斃れたと判断し次期国王を立てるのか、それは2か月後の状況に合わせて判断する。ひとまずは王の帰還を信じよう」

 皆が頷き、いくつかの議論の後場は解散した。誰もが王の帰還を信じている。凶暴なドラゴンとの交戦で、程度はわからぬものの傷を負っていることは確かだ。しかし強大な魔力を持つ者ほど傷の治りは早い。王ほどの者であれば、多少の切り傷や噛み傷ならば1週間と立たずに癒えるだろう。そして幸いにも彼には羽がある。腕がなくても、足がなくても、羽を生やせば帰還は可能。国に帰り付く事さえできれば、傷を癒す術の持ち主はいる。
 王は帰る。皆がそう信じていた。

 そして2か月が経つ。王はいまだ帰らない。
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