【BL】齢1200の龍王と精を吸わないオタ淫魔

三崎こはく

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荒城の夜半に龍が啼く

閑話:憂う

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 男は住まいの屋上から、広大な緑の森を見据えていた。あの森の向こうには遠く離れた祖国がある。男は時折こうして、一人祖国を思う。

「あの国が心配か」

 男の背後にいたのは白髪の老人であった。男の命を繋いだ老人。
 かつて老人は魔獣に襲われていた男を助け、こう問うた。
―お前は正義か、悪か
 男は答えた。
―俺は悪だ

 悪と答えたにも関わらず、老人は男を見捨てなかった。血と泥にまみれた身体を騎獣の背に抱え上げ、安全な地へと連れ帰った。傷を癒し、男の生い立ちと傷を負った経緯を聞き、老人は男を手元に置くことを決める。自らが監視にあたることを条件に住まいと仕事を与え、男の傷が十分に癒え本来の力を取り戻した時には地位も与えた。男はかつて領土を治めた力をいかんなく発揮し、やがて地位に見合った功績と信頼を得る。
 男の過去に疑いを抱くものがいなくなった後も、老人と男の関係は続く。監視人と、監視対象者。続けよと誰が言ったわけでもない。ただ任を解く地位にいるものが、任を解くことを忘れている。そうした関係がもうずいぶん長い事続いている。
 男は老人を振り返らずに言う。

「俺はあの国を救えなかった」

 老人は穏やかな声で返す。

「誰にもできなかった。お前のせいではない」
「しかし俺にしか成しえないことであった。俺がすべき事を、俺はできなかった」

 男が悲しみに近い感情を露にすることは珍しい。男の両眼ははるか遠くの祖国を見やる。

「俺が救う事のできなかった国が、今度は俺の住む国を荒そうとしているやもしれぬ。そうなることがあれば、国を救えなかった俺の責任だ」

 老人は男の思いを知っている。遥か遠く離れた祖国を憂う男の気持ちを。貴重な時間を割いて祖国の情報を集めんとする男の熱意を。
 老人は男とともに緑の森を望む。遠く離れた混沌の地を思う。
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