44 / 318
緋糸たぐる御伽姫
44.婚姻の儀
しおりを挟む
結婚式当日、ポトス城内西側にある広場には早朝から多くの民衆が集まっていた。本日13時から王宮のバルコニーにおいて執り行われる王と王妃の婚姻の儀をその目で見るためだ。午前10時の開門とともに白の広場には続々と人が立ち入り、正午を迎える頃には広場内の安全確保のため一時正門が閉ざされるほどであった。目の間で門を閉ざされた民衆は、王妃誕生の瞬間に立ち会えぬ悔しさに熱い涙を流すこととなる。
正門が閉ざされたのと同じ頃、婚姻の儀に向けて身支度を終えたルナは王宮の一室に佇んでいた。王宮の2階、西側に位置するその部屋には8枚のガラスからなる巨大な窓があり、窓の外には鉄柵に囲われたバルコニーが備えられている。国土が平穏となる以前、年に一度王が立ち民への公言を行った場所だ。
そして今日、その場所では記念すべき王と王妃の婚姻の儀が執り行なわれる。この婚姻の儀をもって、王妃候補は正式にドラキス王国の王妃として認められることとなるのだ。
「ルナ様。緊張しておられますか」
カミラの手が手に握られたやかんが、陶磁器の茶器に湯を流しいれた。湯に浮かぶ茶葉は王宮御用達の一品、その香しさは素人の鼻も唸らせる逸品である。しかし今純白のドレスに身を包むルナが唸るのは、漂う紅茶の香りに感銘を覚えたからではまい。窓ガラスの傍に置かれた椅子に座るルナの眼には、職人の手により綺麗に塗り直されたバルコニーと、広場にひしめく民衆の姿が見えた。
「そりゃ緊張するでしょう…。人生でこれほど大勢の前に立たされた経験はありません。論文発表の時は人の前に立ちますけれど、聴衆なんて精々数十人程度ですよ。ああ…餌に釣られて結婚式をするなんて言うんじゃなかった…」
「今更何を仰います。腹を括りなさい。民衆など畑に生えたカボチャだと思えば良いのです」
「たかだかカボチャでも、数千個並べば相当な迫力ですよ…」
カミラがたっぷりと重みのある茶器を持ち上げたのとほぼ同時に、部屋の扉が開いた。入って来る者は、消沈のルナとは異なり随分と楽しげな様子のレイバックと、年若の官吏である。レイバックの服装は金の刺繍の入った燕尾服、これは滅多に見ることない正装中の正装だ。いつもは跳ね回っている緋髪も、精霊族祭の日と同様に品よく整えられている。にやけ顔さえどうにかなれば正しく王に相応しい様相である。
レイバックは窓際に座るルナの姿を見ると、顔に浮かぶ笑みを更に深めた。
「準備は済んでいるな。似合うじゃないか」
「どうも」
「しかし少し露出が多すぎやしないか?見ていて不安になる」
レイバックが指を指すのはドレスをまとうルナの胸元だ。繊細なレース飾りがあしらわれたウェディングドレスは、ルナにしては珍しく胸元が広く開いたデザインだ。鎖骨だけに留まらず肩や背が広く露出している。頼りない胸元を無遠慮に眺め下ろすレイバックの背後では、カミラが2つに増やしたカップに紅茶を注ぎ入れていた。
「心配なさらずとも腰できつく締めておりますから、そう簡単には脱げませんよ。例えドレスのすそを踏んでも、民衆の前でお乳を晒すなどという痴態には至りません」
「そうか?なら良いが…」
流石の自分も幾千の民の前に乳は晒さない。ルナは不満顔である。
レイバックがルナの真横に置かれた椅子に腰を下ろしたので、後ろに控えていた官吏が、それではと声を上げた。
「レイバック王、ルナ王妃。婚姻の儀の進行についてご説明させていただいてもよろしいでしょうか」
「ああ、頼む」
「よろしくお願いします」
2人分の同意の声を受けて、年若の官吏は抱え込んでいた書類を顔の前に翳した。
「まず13時丁度になりましたら、私とカミラ様でガラス戸を大きく開けます。お二人はガラス戸の中央からバルコニーに歩み出てください。私が制止を掛けましたらその場で足を止め、民に向かって一礼を。会釈程度で構いません。礼が終わりましたら鉄柵の手前まで歩み出て、しばし民衆接待の時間です。広場に向けて笑顔でお手をお振りください。民衆の興奮が落ち着きましたら、バルコニーには司祭が歩み出ます。結婚の儀を取り仕切る者でございます。私が回れ右の合図を掛けますので、司祭の立つ方向に身体をお向けください。民に背中を向けることとなりますがお気になさらずに。その後司祭の進行で婚姻の儀が執り行われます。まずは司祭の口上、ドラキス王国の建国より現在までの歴史を交えた長丁場の口上となりますが堪えて耳をお澄ませください。口上の最後に司祭がお二人に『永遠の愛を誓うか』と問います。問いの前に名指しがありますので、名指しをされた方が『誓います』とお答えください。愛の誓いが終わりましたら次は指輪交換です。私が台座に載せた指輪を差し出しますので、指輪を手に取り相手の左手の薬指にお嵌めください。初めはレイバック王がルナ王妃の指に、続いてルナ王妃がレイバック王の指に指輪を嵌めます。間違って御自身の指輪を手に取りませんようお気を付けください。ここまでで何かご質問がありますか?」
「大丈夫だ」
「…すみません。初めからもう一度」
民衆接待や王宮行事に慣れたレイバックは涼しい表情を浮かべるが、対するルナは顔面を蒼白にしていた。そんなに一度に言われても覚えられるわけがない。ルナの心の声を聞き取った年若の官吏は笑い声を零す。
「細かい動作を覚える必要はありませんよ。今詰め込んだところで、人前に立てば緊張で全て吹き飛びます。何も考えず私と司祭の指示に従ってください。指示がない時は自由にされていて構いませんよ。手を振ることに疲れれば談笑で場を繋いでください。お2人が仲睦まじく姿を披露することが、何よりの民衆接待でございます」
「…わかりました」
「では、先に進みますね。指輪交換の後は少しお2人に身体を動かしていただく場面がございます。簡単な動作ですから、どうぞ司祭の指示にそのまま従ってください。全てが終われば司祭がバルコニーを退出し婚姻の儀は終了。お2人は引き続き民衆接待に当たってください。この頃になると白の広場の最前列にいる民衆は退場を促されます。広場の後方にいた民衆がバルコニーの門前へと進み、後方部の正門からは待機を余儀なくされていた人々が入場します。正門の外側にはお2人の姿を一目見ようと民が長蛇の列を作っているとの情報が入っています。全ての人々が捌けるまでに1時間ほどは掛かると予想されますが、ご容赦を。民衆の目に付かぬ場所に飲料と菓子を用意しておきますから、ご自由におつまみください」
「民は正門から退場するんですか?行く人と帰る人が行き合えば相当な混雑ですよね」
「いえ、退場は正門ではなく東門からになります」
「東門?白の街を抜けるということですか?」
「その通りです。正門から入城し東門から退城する。これが婚姻の儀拝覧の順路でございます」
ポトス城は東西に長く引き伸ばされた形状だ。ポトスの街の中心部から数kmに及ぶ長い坂道を上ると、小高い丘の上に佇むポトス城の西門―正門に行き当たる。正門の内側には白の広場と呼ばれる美しい広場が広がり、黙々と広場を歩けばやがて右手に王宮を、左手には聖ジルバード教会を臨む。王宮と聖ジルバード教会の間の小路を通り抜けるとそこは白の街と呼ばれる場所だ。王宮で働く官吏や侍女が住まう小さな街で、白壁に朱塗りの屋根で統一された家屋が整然と立ち並ぶ。白の街を抜けた先にある門が東門だ。
即ち正門からポトス城内に入城した民が東門から退城するとなれば、広大なポトス城の内部を横断することになるのである。
「結構な距離を歩きますよね。民から苦情は出ませんか?」
「ご心配には及びませんよ。白の街には商人が天幕を構えておりますから。およそ30に及ぶ天幕では王妃誕生を記念した記念品が販売されております。色々な商品がありますよ。王と王妃の似顔絵が印刷されたグラスや手拭い、限定ラベルの酒瓶や菓子、今日の日付が印字された宝飾品の類もあったはずです。この機会を逃せば2度と手に入らない代物ばかりですから、皆こぞって買い求めることでしょう。白の街を通り抜けることを苦痛とは感じません」
「似顔絵が印刷された…?」
「実は王宮内の侍女官吏には事前に商品の斡旋がありまして、私も祭事用のハンカチを購入致しました。とても良い品ですよ。ほら」
そう言って年若の官吏は、胸ポケットから取り出した白のハンカチをルナの目の前に広げた。まっさらなハンカチの隅には今日の日付と、レイバックとルナの似顔絵が刺繍されている。かなり簡略化された似顔絵だが特徴を良く捉えている。ルナの口からは感嘆と羞恥の入り混じる悲鳴が漏れた。ルナの隣で腕を組むレイバックの顔には苦渋の色が伺える。
「一応言っておくが俺は止めたんだ。商品に日付や名前を入れるのは構わないが、似顔絵だけはやめてくれと。しかし商品の売り上げで祭事費用の大方を賄う予定であると言われると、止めるに止められなくてだな…」
「祭事費用って普通公費で賄われません?」
「普通はな。しかし今回は突発的な催しだっただろう。これだけ大規模な催しに係る費用を他から回す余裕がなかったんだ。せめて来年度の開催であれば今年度中に予算の申請が可能だったんだが…俺が結婚式の開催を知った時には既に日付まで決まっていたからな。国庫に負担を掛けずに商品の売り上げで祭事費用を賄う目処は立っておりますと、資料の束まで提出されてしまえば否とも言えんだろう」
「…優秀な臣下が多くて何よりです」
そうして雑談を続けるうちに時は過ぎ、気が付けば時計の針は13時を目前にしていた。官吏の合図で席を立ったレイバックとルナは、バルコニーへと続くガラス戸の目前に立つ。磨かれたガラスの向こう側では、ひしめく民衆が2人の登場を今か今かと待っていた。
「ルナ王妃、レイバック王の肘に右手を添えてください。…そう、よろしいですよ。もう少し寄り添いましょうか。ああ、良いですね。とても仲睦まじく見えます。では準備はよろしいでしょうか」
寄り添うレイバックとルナの目前で、カミラと官吏がガラス戸に手を掛けた。
「大丈夫だ」
「良いですよ」
ガラス戸が左右に大きく開かれる。薄いガラスを隔てた向こう側は、快適な部屋の中とは別世界であった。広場を埋め尽くす民衆、噎せ返るような熱気、沸き起こる拍手喝采。己に向けられる好奇の眼差しと歓喜の声に高揚を覚えながら、レイバックとルナはバルコニーへと続く一歩を踏み出した。
***
時は2か月を遡る。それはレイバックが行き付けのカフェの店主であるタキに、自らの結婚式の招待状を手渡した直後の出来事であった。カフェ開店以来の馴染み客であるルイが実は国家の頂に立つレイバック国王その人であった。手渡された招待状で暗にその事実を告げられたタキは、余りの衝撃に白目を剥き卒倒する事態となったのである。
床に散らばる空皿の音を聞き、慌てた者はカフェの店員であるエリスとルベルトだ。店内の別席で下膳作業に当たっていたエリスは積み上げた空皿をそのままにタキの傍に駆け付けた。お玉を手に厨房から顔を出したルベルトも同様だ。店主の突然の失神にエリスとルベルトは狼狽え、空皿に埋もれる巨体を揺り起こすもののタキは一向に目覚めない。しかし幸いにも店内に残っていた客人の一人が医療に知のある者で、「持病の発作などではなく、ただ気を失っているだけ」とのお墨付きを得たタキは、厨房に併設する休憩室へと運搬される次第となったのだ。
それから十数分後、休憩室のソファの上でタキは目覚めた。なぜエプロンを付けたまま休憩室で昼寝をしているのだと疑問を感じ、記憶を辿り、全てを思い出す。律儀に腹の上に載せられていた3通の文を見て、それが記憶違いや都合の良い妄想ではないと実感する。再び訪れる魂を揺さぶるほどの衝撃に、タキは無骨な両手で顔を覆い獣のように咆哮するのであった。
「ちょっとタキさん。うるさいですよ! お客様がいるんだから静かに起きてください」
長々と続くタキの咆哮に駆け付けた者は、菜箸を握ったままのルベルトであった。人間でいえば20歳前後ほどの容姿であるルベルトの額には、左右の生え際に対の角が生えている。頭髪は黒に近い群青。頭部に生える角は鬼族の証だ。青銅色の頭髪はルベルトが青鬼族に属することを意味する。
客人に迷惑だと正に鬼の形相でタキを叱るルベルト。しかし当のタキはルベルトの怒りなど気にも留めない。
「ルベ、ルベ、ルベルト。ルイさんは帰…お帰りになったか?」
「ルイさん? 僕は見ていないですけど、来ていたんですか?」
「そうだ。俺に用があるからとやって来て…結婚式の招待状を渡された」
「え、ルイさん結婚したんですか? それは嬉しい知らせですね。もしかしてタキさんが白目を剥いていたのって、ルイさんの結婚報告を聞いたからですか? 失礼すぎでしょ。ルイさんちょっと頼りないところはあるけどよく見たら男前だし、その気になれば結婚相手くらい見つかりますよ」
「いや俺は別にルイさんが結婚したことに、失神するほどの衝撃を感じたわけではなくて…」
タキは床に散らばっていた文の一通を拾い上げた。咆哮の最中に腹から滑り落ちたのだ。拾い上げた文はルベルトに渡す。さしたる躊躇いもなく文を受け取ったルベルトは、その内容に視線を滑らせ訝しげに眉を寄せた。
「これ、レイバック王とルナ王妃の結婚式の招待状ですよね。え、何で? タキさんこれ、どこで手に入れたんですか?」
「だから、ルイさんに貰ったんだ。少し前に結婚したからぜひ結婚式に参列してくれと言って」
「…どういう事?」
「だからつまり…ルイさんはレイバック王だったんだ…」
沈黙。ルベルトは招待状を見下ろしたままじっと考え込み、タキはそんなルベルトを眺めながら直に彼の口から吐き出されるであろう咆哮を待った。しかしタキの予想に反し、ルベルトの口から飛び出すものは建物を揺るがす咆哮ではなく、冷静な言葉である。
「いやいやルイさんはルイさんでしょ。あの人がレイバック王? まさか。王様が週に一回こんなちっぽけなカフェまで遥々やって来るの? タキさんよく考えてくださいよ。ルイさん衣服は庶民丸出しだし髪は跳ねているし、注文はいつもうちで一番安いコーヒーか紅茶。そんな人が王様なわけがないでしょう。確かに緋色の髪ですけどね。赤鬼族だって赤銅色の髪だし、ポトスの街中にも赤っぽい髪の人は結構いますよ」
「しかし…現にルイさんは、結婚式に参加してくれといってこの文を渡してきたんだぞ」
「僕思うんですけれど、タキさん2つの話を混同しているんじゃないですか?」
「2つの話?」
「そうそう。一つはルイさんが最近結婚したという話。もう一つはタキさんに、レイバック王とルナ王妃の結婚式に参列してほしいという話ですよ。ルイさん王宮で働いているんでしょ? 披露宴会場に空席が出来そうだから、適当に客人集めでもしているんじゃないですか」
「いや、ルイさんは確かに自分の結婚式に参列してくれと…」
タキは頭を振る。自身に満ち溢れたルベルトの言葉を聞いていると、それが真実であるかのような気落ちが徐々に強くなる。確かにルイははっきりと自分がレイバック王であると言ったわけではない。王宮の兵士であるというタキの言葉を否定したこともない。
葉菜の欠片が絡みついた髭に指先を絡め、必死に思案するタキを前に、ルベルトは呑気と続けた。
「何にせよ。せっかく招待状貰ったんだから皆で行きましょうよ。僕、元々婚姻の儀は見に行こうと思っていたんですよ。又とない機会だし。行ったついで美味しいご飯が食べられるなら儲け物じゃないですか。
「そう…だな。俺もカフェを休業して参列すると言ってしまったし…」
「よし決まり。じゃあ僕厨房に戻るんで、タキさんも落ち着いたら来てくださいね。さっき何組か客が入ったから、そろそろ注文が入る頃だと思いますよ」
二つ折りの文をエプロンのポケットへとしまい込み、ルベルトは厨房へと戻っていった。休憩室に残されたタキは考える。そうだ、全て自分の都合の良い勘違いであった。あの威厳とは程遠いルイがまさか国の頂に座るレイバック王であるはずがない。ルベルトの言う通り、ルイは結婚披露宴の人数合わせとしてタキら3人を呼び寄せただけであろう。なぜ庶民であるタキらを格式高き王と王妃の結婚披露宴に、と問われるといささか疑問は残るがそれについては深く考えまい。
顎髭に付いた葉菜の欠片をくずかごへと入れ、タキは部屋の扉へと向かう。たった3人しかいないカフェの従業員、一人が抜ければ業務は著しく滞る。自身の文とエリスの分の文、2通の文をポケットにしまい入れたタキの脳内にいつもと変わらず呑気なルイの声が響く。
―俺がレイバック王?そんな馬鹿な話があるか。タキさんの勘違いだ。
そして今日。タキとルベルト、エリスの3人は連れ立ってポトス城を訪れていた。目的はもちろんレイバック王とルナ王妃の婚姻の儀の拝見、そしてその後に行われる両名の結婚披露宴に参列するためだ。ひしめく民衆に飲み込まれるようにして立つ3人の目線の先には、鉄柵に覆われたバルコニーがある。城を基調とした王宮の2階部分に位置するバルコニーには2人の人物が立っていた。幾千の民から向けられる拍手喝采を一身に受け、にこやかに手を振る人物の一方はタキらの知らぬ顔。しかしもう一方の人物は何度瞬きを繰り返して見ても、タキらをこの場に呼び寄せた店の常連ルイその人であった。
「…ルイさんですねぇ」
「ルイさんだな…」
タキとルベルトは半ば放心状態で呟いた。なぜ王様が身分を隠して毎週街に降りていたのだ。カフェに立ち寄るのは構わないがなぜタキのカフェに白羽の矢が立ったのだ。問いただしたいことは山ほどあるが、耳が痛くなるような歓声の中ではいくら声を張り上げたところで届きそうにない。
「まさか本当に王様だったとは…。やっちまったな。ルイさんは考えるより先に身体が動きそうなタイプだなんて無礼な口を聞いてしまった。千余年国を治めた賢王相手に」
「そのくらい可愛いもんですよ。僕なんて、『ルイさん今日の鶏冠も絶好調ですね!』ですよ。挨拶代わりに。鶏冠じゃなくて鬣だったか…」
「ルベルト。今日が俺とお前の命日かもしれん。披露宴という名の処刑台で俺達は首を刎ねられるんだ。罪名は王様侮辱罪。今の内に辞世の句を用意しておこう」
「タキさん…僕達短い人生でしたね」
「全くだ…」
「2人とも大袈裟だねぇ。ルイさんはそんな物騒なことしないって」
ひしと抱き合うタキとルベルトに、エリスが安穏と投げ掛けた。歓声の中抱き合う男2人は、傍から見れば王と王妃の誕生に感極まってしまった感情豊かな2人組に見えないこともない。屈強なタキの腕に抱き潰されそうになりながら、ルベルトはにこにこと笑うエリスを見た。
「エリスさん。何でそんなに平然としているんですか。まさか気が付いていました? ルイさんがレイバック王だって」
「そうかなぁって思う瞬間はあったよ。ほら、私は茶や菓子の給仕に行くじゃない。ルイさんとゼータさんがそれっぽい会話をしている瞬間は多かったんだよねぇ。あと私、こう見えてももう700年生きているからね。実は昔レイバック王のお姿を拝見した事があるんだよ。近くでまじまじと見たわけじゃないから顔はよく覚えていないけど、あんな鮮やかな緋色の髪は中々いないよねぇ」
「そうですか…」
瞬間、騒然としていた広場が突然静まり返った。タキらが何事かとバルコニーを見上げれば、先程までは王と王妃の姿しか無かったその場所にもう一人の人物が登場している。裾が長くゆったりとした白色の衣装を纏う者は老齢の司祭だ。王と王妃は民衆に背を向け老齢の男性に向き直っている。いよいよ婚礼の儀が始まるのだ。
「時は1026年の時を遡る。当時この地に安寧はなく、暴虐の限りを尽くす愚王が土地を治めていた。名をアダルフィン王という。彼は自らの欲望を満たすため愚かにも奴隷制を採用し―」
老齢の司祭の言葉は静まり返った広場の内によく響く。幾千の民は身動ぎせず皆司祭の声に耳を傾け、衣と衣の擦れ合う音も聞こえない。司祭の口上はドラキス王国の建国に始まり、国土が平穏となるまでの長い道のりをつらつらと語った。一通りレイバックの功績を褒め称えた後に司祭は一度口を閉じ、声の調子を変えて再び話し出す。
「汝ルナはこの時を持ってレイバックの生涯の共となる。果てなき路を共に歩き、苦難を乗り越え、幸を分け合い、死が二人を分かつ時まで傍に在ることを。そして果てても尚絶えぬ永劫の愛を。婚姻の契約の元に誓うか?」
「誓います」
「汝レイバック。ルナと共に果てなき路を歩き、苦難を乗り越え、幸を分け合い、死が二人を分かつ時まで傍に在ることを。そして果てても尚絶えぬ永劫の愛を。婚姻の契約の元に誓うか?」
「誓う」
「宜しい。幾千の民が2人の契約の証人となる。では契約成立の証となる指輪の交換を」
司祭の声で、レイバックとルナは向かい合う。バルコニーからさほど距離の離れていない場所に佇むタキの眼には、凛と立つレイバックの顔がよく見えた。差し出された指輪をそれをルナの指に嵌める間も、ルナから指輪を嵌められる間も、レイバックの顔はまるでタキの知らぬ者の顔だ。カフェで見る気の抜けた顔とは違う。そこに立つ者は紛れもなく大国を治める誇り高き王である。
馴染みの常連が遥か遠くに行ってしまったようだと、タキは感傷に浸る。
「最後に誓いの口付けを。口付けを持って契約成立を宣言しよう」
「…口付け?」
司祭の言葉に聞き返した者は他の誰でもない、レイバックだ。小さな発声であるにも関わらず、その声は沈黙の場に異様に大きく響いた。「聞いていない」レイバックの口元が続けて動く。
にわかに広場は騒がしくなった。問題発生か、伝達不足か、広場の人々が囁く中、タキはじっとバルコニーに立つレイバックの姿を見つめていた。レイバックの視線は今バルコニーの奥にあるガラス戸に向かっている。そのガラス戸の向こう側には老婆がいた。ガラスに顔面を貼り付け化物の様相となった老婆が、レイバックとルナを凝視している。老婆の顔に浮かぶのは気持ちが悪いほどの笑みだ。広場にいるどれほどの者がその老婆の存在に気が付いたかはわからないが、タキの眼はしっかりと舞台裏に立つその人物を見据えていた。
―ルイさん、やられたな。
タキは一人笑みを零した。レイバックとルナは婚姻の儀の最後にある誓いの口付けの存在を知らされていなかったのだ。その理由は大方想像がつく。近親者だけの結婚式ならまだしも、幾千に及ぶ観衆の前での口付けというのは並々ならぬ勇気を必要とする。タキがレイバックと同じ立場ならば間違いなく「誓いの口付けは儀式から外してくれ」と言うだろう。しかし司祭が高らかに宣言してしまった今、民衆の前での口付けから逃れることはできない。
騒めく民衆の視線をひしひしと受けて、やがてレイバックは観念したようにルナに向き直った。やや乱暴な動作で両手がルナの肩に添えられる。タキからは表情を見ることのできぬルナの肩が大きく跳ねた。観念しろ、レイバックの口元が動く。
バルコニーに立つ2人の唇が重なった瞬間に、広場には大歓声が沸き起こった。司祭は誓いの口付けを持って婚姻の契約成立を宣言すると言った。即ち今この瞬間を持って、ドラキス王国には正当な妃が誕生したこととなる。広場は歓声と拍手で満たされ、人々が手を取り合って歓喜する中、タキはやはり一心にバルコニーを見上げていた。無事婚姻の儀を終えた今、普通に考えればレイバックとルナは笑顔で民衆接待にあたる時間である。しかしバルコニーに立つ2人は誓いの口付けを終えた体勢から微動だにしない。レイバックの両手はルナに肩に添えられたままで、互いに不自然に顔を背け合っている。
一国の王と王妃とは思えぬ微笑ましい光景に、満面の笑みとなったタキは大歓声に交じり祝いの言葉を叫ぶ。おめでとう。タキの横ではルベルトとエリスが、同じように笑顔で祝辞を述べていた。すっかり王の仮面が剥げ店の常連ルイさんとなってしまったレイバックの顔を眺めながら、タキは思う。
人前での口付けが恥ずかしい気持ちはわかるが、なぜそこまで照れるのか。愛し合い結婚した者同士、まさかあれが記念すべき初口づけというわけでもあるまいに。
いまだ俯いたままのレイバックとルナの後ろでは、ガラス戸に顔面を張り付けた老婆が満面の笑みで万歳をしていた。
婚姻の儀が終了したことで、白の広場には動きがあった。「聖ジルバード教会方面へお進みください」王宮前に立つ兵士が口々に叫び、広場の人々は指示に従って歩き出す。ポトス城からの退城は東門から、と民の間には事前に告知がされている。白の街に土産を売る天幕が構えられていることもだ。祝いの土産に何を買おうかと浮足立つ人々が聖ジルバード教会方面に向かう中、タキら3人は王宮の入り口を目指した。
何度も人とぶつかり辿り着いた王宮の入り口には、両脇に槍を持つ兵士が立っている。鎧に覆われ表情の読めぬ兵士の一人に、3人はそろそろと近づいてゆく。
「レイバック王の知り合いのタキという者だ。披露宴に参列することになっているんだが…」
「タキ様御一行でございますね。レイバック王より話は聞いております。どうぞお通りください」
意外にもすんなりと、王宮の扉は開かれた。重厚な扉の内側には数人の侍女がたむろしており、その内の一名がタキらに向かい走り寄ってくる。タキ様御一行だ、と兵士が侍女に告げる。
「タキ様、ルベルト様、エリス様、お待ちして申しておりました。控室を用意しておりますので、披露宴開宴までの間しばしお寛ぎください。ささ、こちらへどうぞ」
侍女に通された部屋は豪華絢爛の内装であった。タキら3人のために宛てがわれた控室はあまり広くはない。しかし置かれているソファや調度品の値段は庶民には想像もつかぬ代物だ。窓際のテーブルの上には、軽食と自由に淹れることのできる茶とコーヒーが置かれている。本棚には暇を潰すことのできる書物の類も並べられていた。
「開宴のお時間になりましたらお迎えに上がります。どうぞご自由にお過ごしください」
侍女は退出し、絢爛の控室には庶民3人が残された。しばらくは茫然と部屋の内装に見入っていた彼らであるが、その内に思い思いの時を過ごし始めた。エリスは部屋の窓からごった返す人波を観察し、ルベルトは本棚から抜き出した一冊の本を読み始めた。タキは白く磨かれたカップにコーヒーを注ぎ淹れ、一段落。
しばしの、休憩。
正門が閉ざされたのと同じ頃、婚姻の儀に向けて身支度を終えたルナは王宮の一室に佇んでいた。王宮の2階、西側に位置するその部屋には8枚のガラスからなる巨大な窓があり、窓の外には鉄柵に囲われたバルコニーが備えられている。国土が平穏となる以前、年に一度王が立ち民への公言を行った場所だ。
そして今日、その場所では記念すべき王と王妃の婚姻の儀が執り行なわれる。この婚姻の儀をもって、王妃候補は正式にドラキス王国の王妃として認められることとなるのだ。
「ルナ様。緊張しておられますか」
カミラの手が手に握られたやかんが、陶磁器の茶器に湯を流しいれた。湯に浮かぶ茶葉は王宮御用達の一品、その香しさは素人の鼻も唸らせる逸品である。しかし今純白のドレスに身を包むルナが唸るのは、漂う紅茶の香りに感銘を覚えたからではまい。窓ガラスの傍に置かれた椅子に座るルナの眼には、職人の手により綺麗に塗り直されたバルコニーと、広場にひしめく民衆の姿が見えた。
「そりゃ緊張するでしょう…。人生でこれほど大勢の前に立たされた経験はありません。論文発表の時は人の前に立ちますけれど、聴衆なんて精々数十人程度ですよ。ああ…餌に釣られて結婚式をするなんて言うんじゃなかった…」
「今更何を仰います。腹を括りなさい。民衆など畑に生えたカボチャだと思えば良いのです」
「たかだかカボチャでも、数千個並べば相当な迫力ですよ…」
カミラがたっぷりと重みのある茶器を持ち上げたのとほぼ同時に、部屋の扉が開いた。入って来る者は、消沈のルナとは異なり随分と楽しげな様子のレイバックと、年若の官吏である。レイバックの服装は金の刺繍の入った燕尾服、これは滅多に見ることない正装中の正装だ。いつもは跳ね回っている緋髪も、精霊族祭の日と同様に品よく整えられている。にやけ顔さえどうにかなれば正しく王に相応しい様相である。
レイバックは窓際に座るルナの姿を見ると、顔に浮かぶ笑みを更に深めた。
「準備は済んでいるな。似合うじゃないか」
「どうも」
「しかし少し露出が多すぎやしないか?見ていて不安になる」
レイバックが指を指すのはドレスをまとうルナの胸元だ。繊細なレース飾りがあしらわれたウェディングドレスは、ルナにしては珍しく胸元が広く開いたデザインだ。鎖骨だけに留まらず肩や背が広く露出している。頼りない胸元を無遠慮に眺め下ろすレイバックの背後では、カミラが2つに増やしたカップに紅茶を注ぎ入れていた。
「心配なさらずとも腰できつく締めておりますから、そう簡単には脱げませんよ。例えドレスのすそを踏んでも、民衆の前でお乳を晒すなどという痴態には至りません」
「そうか?なら良いが…」
流石の自分も幾千の民の前に乳は晒さない。ルナは不満顔である。
レイバックがルナの真横に置かれた椅子に腰を下ろしたので、後ろに控えていた官吏が、それではと声を上げた。
「レイバック王、ルナ王妃。婚姻の儀の進行についてご説明させていただいてもよろしいでしょうか」
「ああ、頼む」
「よろしくお願いします」
2人分の同意の声を受けて、年若の官吏は抱え込んでいた書類を顔の前に翳した。
「まず13時丁度になりましたら、私とカミラ様でガラス戸を大きく開けます。お二人はガラス戸の中央からバルコニーに歩み出てください。私が制止を掛けましたらその場で足を止め、民に向かって一礼を。会釈程度で構いません。礼が終わりましたら鉄柵の手前まで歩み出て、しばし民衆接待の時間です。広場に向けて笑顔でお手をお振りください。民衆の興奮が落ち着きましたら、バルコニーには司祭が歩み出ます。結婚の儀を取り仕切る者でございます。私が回れ右の合図を掛けますので、司祭の立つ方向に身体をお向けください。民に背中を向けることとなりますがお気になさらずに。その後司祭の進行で婚姻の儀が執り行われます。まずは司祭の口上、ドラキス王国の建国より現在までの歴史を交えた長丁場の口上となりますが堪えて耳をお澄ませください。口上の最後に司祭がお二人に『永遠の愛を誓うか』と問います。問いの前に名指しがありますので、名指しをされた方が『誓います』とお答えください。愛の誓いが終わりましたら次は指輪交換です。私が台座に載せた指輪を差し出しますので、指輪を手に取り相手の左手の薬指にお嵌めください。初めはレイバック王がルナ王妃の指に、続いてルナ王妃がレイバック王の指に指輪を嵌めます。間違って御自身の指輪を手に取りませんようお気を付けください。ここまでで何かご質問がありますか?」
「大丈夫だ」
「…すみません。初めからもう一度」
民衆接待や王宮行事に慣れたレイバックは涼しい表情を浮かべるが、対するルナは顔面を蒼白にしていた。そんなに一度に言われても覚えられるわけがない。ルナの心の声を聞き取った年若の官吏は笑い声を零す。
「細かい動作を覚える必要はありませんよ。今詰め込んだところで、人前に立てば緊張で全て吹き飛びます。何も考えず私と司祭の指示に従ってください。指示がない時は自由にされていて構いませんよ。手を振ることに疲れれば談笑で場を繋いでください。お2人が仲睦まじく姿を披露することが、何よりの民衆接待でございます」
「…わかりました」
「では、先に進みますね。指輪交換の後は少しお2人に身体を動かしていただく場面がございます。簡単な動作ですから、どうぞ司祭の指示にそのまま従ってください。全てが終われば司祭がバルコニーを退出し婚姻の儀は終了。お2人は引き続き民衆接待に当たってください。この頃になると白の広場の最前列にいる民衆は退場を促されます。広場の後方にいた民衆がバルコニーの門前へと進み、後方部の正門からは待機を余儀なくされていた人々が入場します。正門の外側にはお2人の姿を一目見ようと民が長蛇の列を作っているとの情報が入っています。全ての人々が捌けるまでに1時間ほどは掛かると予想されますが、ご容赦を。民衆の目に付かぬ場所に飲料と菓子を用意しておきますから、ご自由におつまみください」
「民は正門から退場するんですか?行く人と帰る人が行き合えば相当な混雑ですよね」
「いえ、退場は正門ではなく東門からになります」
「東門?白の街を抜けるということですか?」
「その通りです。正門から入城し東門から退城する。これが婚姻の儀拝覧の順路でございます」
ポトス城は東西に長く引き伸ばされた形状だ。ポトスの街の中心部から数kmに及ぶ長い坂道を上ると、小高い丘の上に佇むポトス城の西門―正門に行き当たる。正門の内側には白の広場と呼ばれる美しい広場が広がり、黙々と広場を歩けばやがて右手に王宮を、左手には聖ジルバード教会を臨む。王宮と聖ジルバード教会の間の小路を通り抜けるとそこは白の街と呼ばれる場所だ。王宮で働く官吏や侍女が住まう小さな街で、白壁に朱塗りの屋根で統一された家屋が整然と立ち並ぶ。白の街を抜けた先にある門が東門だ。
即ち正門からポトス城内に入城した民が東門から退城するとなれば、広大なポトス城の内部を横断することになるのである。
「結構な距離を歩きますよね。民から苦情は出ませんか?」
「ご心配には及びませんよ。白の街には商人が天幕を構えておりますから。およそ30に及ぶ天幕では王妃誕生を記念した記念品が販売されております。色々な商品がありますよ。王と王妃の似顔絵が印刷されたグラスや手拭い、限定ラベルの酒瓶や菓子、今日の日付が印字された宝飾品の類もあったはずです。この機会を逃せば2度と手に入らない代物ばかりですから、皆こぞって買い求めることでしょう。白の街を通り抜けることを苦痛とは感じません」
「似顔絵が印刷された…?」
「実は王宮内の侍女官吏には事前に商品の斡旋がありまして、私も祭事用のハンカチを購入致しました。とても良い品ですよ。ほら」
そう言って年若の官吏は、胸ポケットから取り出した白のハンカチをルナの目の前に広げた。まっさらなハンカチの隅には今日の日付と、レイバックとルナの似顔絵が刺繍されている。かなり簡略化された似顔絵だが特徴を良く捉えている。ルナの口からは感嘆と羞恥の入り混じる悲鳴が漏れた。ルナの隣で腕を組むレイバックの顔には苦渋の色が伺える。
「一応言っておくが俺は止めたんだ。商品に日付や名前を入れるのは構わないが、似顔絵だけはやめてくれと。しかし商品の売り上げで祭事費用の大方を賄う予定であると言われると、止めるに止められなくてだな…」
「祭事費用って普通公費で賄われません?」
「普通はな。しかし今回は突発的な催しだっただろう。これだけ大規模な催しに係る費用を他から回す余裕がなかったんだ。せめて来年度の開催であれば今年度中に予算の申請が可能だったんだが…俺が結婚式の開催を知った時には既に日付まで決まっていたからな。国庫に負担を掛けずに商品の売り上げで祭事費用を賄う目処は立っておりますと、資料の束まで提出されてしまえば否とも言えんだろう」
「…優秀な臣下が多くて何よりです」
そうして雑談を続けるうちに時は過ぎ、気が付けば時計の針は13時を目前にしていた。官吏の合図で席を立ったレイバックとルナは、バルコニーへと続くガラス戸の目前に立つ。磨かれたガラスの向こう側では、ひしめく民衆が2人の登場を今か今かと待っていた。
「ルナ王妃、レイバック王の肘に右手を添えてください。…そう、よろしいですよ。もう少し寄り添いましょうか。ああ、良いですね。とても仲睦まじく見えます。では準備はよろしいでしょうか」
寄り添うレイバックとルナの目前で、カミラと官吏がガラス戸に手を掛けた。
「大丈夫だ」
「良いですよ」
ガラス戸が左右に大きく開かれる。薄いガラスを隔てた向こう側は、快適な部屋の中とは別世界であった。広場を埋め尽くす民衆、噎せ返るような熱気、沸き起こる拍手喝采。己に向けられる好奇の眼差しと歓喜の声に高揚を覚えながら、レイバックとルナはバルコニーへと続く一歩を踏み出した。
***
時は2か月を遡る。それはレイバックが行き付けのカフェの店主であるタキに、自らの結婚式の招待状を手渡した直後の出来事であった。カフェ開店以来の馴染み客であるルイが実は国家の頂に立つレイバック国王その人であった。手渡された招待状で暗にその事実を告げられたタキは、余りの衝撃に白目を剥き卒倒する事態となったのである。
床に散らばる空皿の音を聞き、慌てた者はカフェの店員であるエリスとルベルトだ。店内の別席で下膳作業に当たっていたエリスは積み上げた空皿をそのままにタキの傍に駆け付けた。お玉を手に厨房から顔を出したルベルトも同様だ。店主の突然の失神にエリスとルベルトは狼狽え、空皿に埋もれる巨体を揺り起こすもののタキは一向に目覚めない。しかし幸いにも店内に残っていた客人の一人が医療に知のある者で、「持病の発作などではなく、ただ気を失っているだけ」とのお墨付きを得たタキは、厨房に併設する休憩室へと運搬される次第となったのだ。
それから十数分後、休憩室のソファの上でタキは目覚めた。なぜエプロンを付けたまま休憩室で昼寝をしているのだと疑問を感じ、記憶を辿り、全てを思い出す。律儀に腹の上に載せられていた3通の文を見て、それが記憶違いや都合の良い妄想ではないと実感する。再び訪れる魂を揺さぶるほどの衝撃に、タキは無骨な両手で顔を覆い獣のように咆哮するのであった。
「ちょっとタキさん。うるさいですよ! お客様がいるんだから静かに起きてください」
長々と続くタキの咆哮に駆け付けた者は、菜箸を握ったままのルベルトであった。人間でいえば20歳前後ほどの容姿であるルベルトの額には、左右の生え際に対の角が生えている。頭髪は黒に近い群青。頭部に生える角は鬼族の証だ。青銅色の頭髪はルベルトが青鬼族に属することを意味する。
客人に迷惑だと正に鬼の形相でタキを叱るルベルト。しかし当のタキはルベルトの怒りなど気にも留めない。
「ルベ、ルベ、ルベルト。ルイさんは帰…お帰りになったか?」
「ルイさん? 僕は見ていないですけど、来ていたんですか?」
「そうだ。俺に用があるからとやって来て…結婚式の招待状を渡された」
「え、ルイさん結婚したんですか? それは嬉しい知らせですね。もしかしてタキさんが白目を剥いていたのって、ルイさんの結婚報告を聞いたからですか? 失礼すぎでしょ。ルイさんちょっと頼りないところはあるけどよく見たら男前だし、その気になれば結婚相手くらい見つかりますよ」
「いや俺は別にルイさんが結婚したことに、失神するほどの衝撃を感じたわけではなくて…」
タキは床に散らばっていた文の一通を拾い上げた。咆哮の最中に腹から滑り落ちたのだ。拾い上げた文はルベルトに渡す。さしたる躊躇いもなく文を受け取ったルベルトは、その内容に視線を滑らせ訝しげに眉を寄せた。
「これ、レイバック王とルナ王妃の結婚式の招待状ですよね。え、何で? タキさんこれ、どこで手に入れたんですか?」
「だから、ルイさんに貰ったんだ。少し前に結婚したからぜひ結婚式に参列してくれと言って」
「…どういう事?」
「だからつまり…ルイさんはレイバック王だったんだ…」
沈黙。ルベルトは招待状を見下ろしたままじっと考え込み、タキはそんなルベルトを眺めながら直に彼の口から吐き出されるであろう咆哮を待った。しかしタキの予想に反し、ルベルトの口から飛び出すものは建物を揺るがす咆哮ではなく、冷静な言葉である。
「いやいやルイさんはルイさんでしょ。あの人がレイバック王? まさか。王様が週に一回こんなちっぽけなカフェまで遥々やって来るの? タキさんよく考えてくださいよ。ルイさん衣服は庶民丸出しだし髪は跳ねているし、注文はいつもうちで一番安いコーヒーか紅茶。そんな人が王様なわけがないでしょう。確かに緋色の髪ですけどね。赤鬼族だって赤銅色の髪だし、ポトスの街中にも赤っぽい髪の人は結構いますよ」
「しかし…現にルイさんは、結婚式に参加してくれといってこの文を渡してきたんだぞ」
「僕思うんですけれど、タキさん2つの話を混同しているんじゃないですか?」
「2つの話?」
「そうそう。一つはルイさんが最近結婚したという話。もう一つはタキさんに、レイバック王とルナ王妃の結婚式に参列してほしいという話ですよ。ルイさん王宮で働いているんでしょ? 披露宴会場に空席が出来そうだから、適当に客人集めでもしているんじゃないですか」
「いや、ルイさんは確かに自分の結婚式に参列してくれと…」
タキは頭を振る。自身に満ち溢れたルベルトの言葉を聞いていると、それが真実であるかのような気落ちが徐々に強くなる。確かにルイははっきりと自分がレイバック王であると言ったわけではない。王宮の兵士であるというタキの言葉を否定したこともない。
葉菜の欠片が絡みついた髭に指先を絡め、必死に思案するタキを前に、ルベルトは呑気と続けた。
「何にせよ。せっかく招待状貰ったんだから皆で行きましょうよ。僕、元々婚姻の儀は見に行こうと思っていたんですよ。又とない機会だし。行ったついで美味しいご飯が食べられるなら儲け物じゃないですか。
「そう…だな。俺もカフェを休業して参列すると言ってしまったし…」
「よし決まり。じゃあ僕厨房に戻るんで、タキさんも落ち着いたら来てくださいね。さっき何組か客が入ったから、そろそろ注文が入る頃だと思いますよ」
二つ折りの文をエプロンのポケットへとしまい込み、ルベルトは厨房へと戻っていった。休憩室に残されたタキは考える。そうだ、全て自分の都合の良い勘違いであった。あの威厳とは程遠いルイがまさか国の頂に座るレイバック王であるはずがない。ルベルトの言う通り、ルイは結婚披露宴の人数合わせとしてタキら3人を呼び寄せただけであろう。なぜ庶民であるタキらを格式高き王と王妃の結婚披露宴に、と問われるといささか疑問は残るがそれについては深く考えまい。
顎髭に付いた葉菜の欠片をくずかごへと入れ、タキは部屋の扉へと向かう。たった3人しかいないカフェの従業員、一人が抜ければ業務は著しく滞る。自身の文とエリスの分の文、2通の文をポケットにしまい入れたタキの脳内にいつもと変わらず呑気なルイの声が響く。
―俺がレイバック王?そんな馬鹿な話があるか。タキさんの勘違いだ。
そして今日。タキとルベルト、エリスの3人は連れ立ってポトス城を訪れていた。目的はもちろんレイバック王とルナ王妃の婚姻の儀の拝見、そしてその後に行われる両名の結婚披露宴に参列するためだ。ひしめく民衆に飲み込まれるようにして立つ3人の目線の先には、鉄柵に覆われたバルコニーがある。城を基調とした王宮の2階部分に位置するバルコニーには2人の人物が立っていた。幾千の民から向けられる拍手喝采を一身に受け、にこやかに手を振る人物の一方はタキらの知らぬ顔。しかしもう一方の人物は何度瞬きを繰り返して見ても、タキらをこの場に呼び寄せた店の常連ルイその人であった。
「…ルイさんですねぇ」
「ルイさんだな…」
タキとルベルトは半ば放心状態で呟いた。なぜ王様が身分を隠して毎週街に降りていたのだ。カフェに立ち寄るのは構わないがなぜタキのカフェに白羽の矢が立ったのだ。問いただしたいことは山ほどあるが、耳が痛くなるような歓声の中ではいくら声を張り上げたところで届きそうにない。
「まさか本当に王様だったとは…。やっちまったな。ルイさんは考えるより先に身体が動きそうなタイプだなんて無礼な口を聞いてしまった。千余年国を治めた賢王相手に」
「そのくらい可愛いもんですよ。僕なんて、『ルイさん今日の鶏冠も絶好調ですね!』ですよ。挨拶代わりに。鶏冠じゃなくて鬣だったか…」
「ルベルト。今日が俺とお前の命日かもしれん。披露宴という名の処刑台で俺達は首を刎ねられるんだ。罪名は王様侮辱罪。今の内に辞世の句を用意しておこう」
「タキさん…僕達短い人生でしたね」
「全くだ…」
「2人とも大袈裟だねぇ。ルイさんはそんな物騒なことしないって」
ひしと抱き合うタキとルベルトに、エリスが安穏と投げ掛けた。歓声の中抱き合う男2人は、傍から見れば王と王妃の誕生に感極まってしまった感情豊かな2人組に見えないこともない。屈強なタキの腕に抱き潰されそうになりながら、ルベルトはにこにこと笑うエリスを見た。
「エリスさん。何でそんなに平然としているんですか。まさか気が付いていました? ルイさんがレイバック王だって」
「そうかなぁって思う瞬間はあったよ。ほら、私は茶や菓子の給仕に行くじゃない。ルイさんとゼータさんがそれっぽい会話をしている瞬間は多かったんだよねぇ。あと私、こう見えてももう700年生きているからね。実は昔レイバック王のお姿を拝見した事があるんだよ。近くでまじまじと見たわけじゃないから顔はよく覚えていないけど、あんな鮮やかな緋色の髪は中々いないよねぇ」
「そうですか…」
瞬間、騒然としていた広場が突然静まり返った。タキらが何事かとバルコニーを見上げれば、先程までは王と王妃の姿しか無かったその場所にもう一人の人物が登場している。裾が長くゆったりとした白色の衣装を纏う者は老齢の司祭だ。王と王妃は民衆に背を向け老齢の男性に向き直っている。いよいよ婚礼の儀が始まるのだ。
「時は1026年の時を遡る。当時この地に安寧はなく、暴虐の限りを尽くす愚王が土地を治めていた。名をアダルフィン王という。彼は自らの欲望を満たすため愚かにも奴隷制を採用し―」
老齢の司祭の言葉は静まり返った広場の内によく響く。幾千の民は身動ぎせず皆司祭の声に耳を傾け、衣と衣の擦れ合う音も聞こえない。司祭の口上はドラキス王国の建国に始まり、国土が平穏となるまでの長い道のりをつらつらと語った。一通りレイバックの功績を褒め称えた後に司祭は一度口を閉じ、声の調子を変えて再び話し出す。
「汝ルナはこの時を持ってレイバックの生涯の共となる。果てなき路を共に歩き、苦難を乗り越え、幸を分け合い、死が二人を分かつ時まで傍に在ることを。そして果てても尚絶えぬ永劫の愛を。婚姻の契約の元に誓うか?」
「誓います」
「汝レイバック。ルナと共に果てなき路を歩き、苦難を乗り越え、幸を分け合い、死が二人を分かつ時まで傍に在ることを。そして果てても尚絶えぬ永劫の愛を。婚姻の契約の元に誓うか?」
「誓う」
「宜しい。幾千の民が2人の契約の証人となる。では契約成立の証となる指輪の交換を」
司祭の声で、レイバックとルナは向かい合う。バルコニーからさほど距離の離れていない場所に佇むタキの眼には、凛と立つレイバックの顔がよく見えた。差し出された指輪をそれをルナの指に嵌める間も、ルナから指輪を嵌められる間も、レイバックの顔はまるでタキの知らぬ者の顔だ。カフェで見る気の抜けた顔とは違う。そこに立つ者は紛れもなく大国を治める誇り高き王である。
馴染みの常連が遥か遠くに行ってしまったようだと、タキは感傷に浸る。
「最後に誓いの口付けを。口付けを持って契約成立を宣言しよう」
「…口付け?」
司祭の言葉に聞き返した者は他の誰でもない、レイバックだ。小さな発声であるにも関わらず、その声は沈黙の場に異様に大きく響いた。「聞いていない」レイバックの口元が続けて動く。
にわかに広場は騒がしくなった。問題発生か、伝達不足か、広場の人々が囁く中、タキはじっとバルコニーに立つレイバックの姿を見つめていた。レイバックの視線は今バルコニーの奥にあるガラス戸に向かっている。そのガラス戸の向こう側には老婆がいた。ガラスに顔面を貼り付け化物の様相となった老婆が、レイバックとルナを凝視している。老婆の顔に浮かぶのは気持ちが悪いほどの笑みだ。広場にいるどれほどの者がその老婆の存在に気が付いたかはわからないが、タキの眼はしっかりと舞台裏に立つその人物を見据えていた。
―ルイさん、やられたな。
タキは一人笑みを零した。レイバックとルナは婚姻の儀の最後にある誓いの口付けの存在を知らされていなかったのだ。その理由は大方想像がつく。近親者だけの結婚式ならまだしも、幾千に及ぶ観衆の前での口付けというのは並々ならぬ勇気を必要とする。タキがレイバックと同じ立場ならば間違いなく「誓いの口付けは儀式から外してくれ」と言うだろう。しかし司祭が高らかに宣言してしまった今、民衆の前での口付けから逃れることはできない。
騒めく民衆の視線をひしひしと受けて、やがてレイバックは観念したようにルナに向き直った。やや乱暴な動作で両手がルナの肩に添えられる。タキからは表情を見ることのできぬルナの肩が大きく跳ねた。観念しろ、レイバックの口元が動く。
バルコニーに立つ2人の唇が重なった瞬間に、広場には大歓声が沸き起こった。司祭は誓いの口付けを持って婚姻の契約成立を宣言すると言った。即ち今この瞬間を持って、ドラキス王国には正当な妃が誕生したこととなる。広場は歓声と拍手で満たされ、人々が手を取り合って歓喜する中、タキはやはり一心にバルコニーを見上げていた。無事婚姻の儀を終えた今、普通に考えればレイバックとルナは笑顔で民衆接待にあたる時間である。しかしバルコニーに立つ2人は誓いの口付けを終えた体勢から微動だにしない。レイバックの両手はルナに肩に添えられたままで、互いに不自然に顔を背け合っている。
一国の王と王妃とは思えぬ微笑ましい光景に、満面の笑みとなったタキは大歓声に交じり祝いの言葉を叫ぶ。おめでとう。タキの横ではルベルトとエリスが、同じように笑顔で祝辞を述べていた。すっかり王の仮面が剥げ店の常連ルイさんとなってしまったレイバックの顔を眺めながら、タキは思う。
人前での口付けが恥ずかしい気持ちはわかるが、なぜそこまで照れるのか。愛し合い結婚した者同士、まさかあれが記念すべき初口づけというわけでもあるまいに。
いまだ俯いたままのレイバックとルナの後ろでは、ガラス戸に顔面を張り付けた老婆が満面の笑みで万歳をしていた。
婚姻の儀が終了したことで、白の広場には動きがあった。「聖ジルバード教会方面へお進みください」王宮前に立つ兵士が口々に叫び、広場の人々は指示に従って歩き出す。ポトス城からの退城は東門から、と民の間には事前に告知がされている。白の街に土産を売る天幕が構えられていることもだ。祝いの土産に何を買おうかと浮足立つ人々が聖ジルバード教会方面に向かう中、タキら3人は王宮の入り口を目指した。
何度も人とぶつかり辿り着いた王宮の入り口には、両脇に槍を持つ兵士が立っている。鎧に覆われ表情の読めぬ兵士の一人に、3人はそろそろと近づいてゆく。
「レイバック王の知り合いのタキという者だ。披露宴に参列することになっているんだが…」
「タキ様御一行でございますね。レイバック王より話は聞いております。どうぞお通りください」
意外にもすんなりと、王宮の扉は開かれた。重厚な扉の内側には数人の侍女がたむろしており、その内の一名がタキらに向かい走り寄ってくる。タキ様御一行だ、と兵士が侍女に告げる。
「タキ様、ルベルト様、エリス様、お待ちして申しておりました。控室を用意しておりますので、披露宴開宴までの間しばしお寛ぎください。ささ、こちらへどうぞ」
侍女に通された部屋は豪華絢爛の内装であった。タキら3人のために宛てがわれた控室はあまり広くはない。しかし置かれているソファや調度品の値段は庶民には想像もつかぬ代物だ。窓際のテーブルの上には、軽食と自由に淹れることのできる茶とコーヒーが置かれている。本棚には暇を潰すことのできる書物の類も並べられていた。
「開宴のお時間になりましたらお迎えに上がります。どうぞご自由にお過ごしください」
侍女は退出し、絢爛の控室には庶民3人が残された。しばらくは茫然と部屋の内装に見入っていた彼らであるが、その内に思い思いの時を過ごし始めた。エリスは部屋の窓からごった返す人波を観察し、ルベルトは本棚から抜き出した一冊の本を読み始めた。タキは白く磨かれたカップにコーヒーを注ぎ淹れ、一段落。
しばしの、休憩。
20
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。


侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

【完結】オーロラ魔法士と第3王子
N2O
BL
全16話
※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。
※2023.11.18 文章を整えました。
辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。
「なんで、僕?」
一人狼第3王子×黒髪美人魔法士
設定はふんわりです。
小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。
嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。
感想聞かせていただけると大変嬉しいです。
表紙絵
⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる