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緋糸たぐる御伽姫
42.指輪探し-2
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目の前に置かれた料理を掻き込んだレイバックとゼータは、大満足で息を吐いた。場所は宝飾店から2本通りを挟んだ場所にある小さな大衆料理店。正午を回ったばかりの今、店内は昼食を求める客でごった返している。給仕が早く価格が手ごろなこの店は、仕事の合間の食事にと立ち寄る者が多いのだ。
ゼータはテーブルの間を駆け回る店員の姿を眺めながら、氷の入った飲料をすすった。ゼータにしては珍しく、頼んだ飲料は果実水である。慣れぬ店に疲れた今、紅茶よりも酸味のある飲み物が欲しかったのだ。
「今のところ、どの指輪が第一候補だ?」
ゼータの対面席に腰かけるレイバックが聞いた。テーブル上で組まれた腕の前には、空になった料理の皿と冷たいコーヒーが置かれている。レイバックにしては珍しくコーヒーにはミルクと砂糖が入れられている。慣れない店巡りに疲れているのは2人一緒だ。
「どれですかねぇ…いまいち決め手に欠けるんですよね」
ゼータの返答に、レイバックはやはりか、と頷く。現在候補にあがった指輪は3つ。どれも似たようなデザインで、これといった特徴があるわけではない。
「あと一つ懸念事項があるんです。私、女性体になると指のサイズが若干変わるんですよ」
「ああ。そういえばそうか」
「忘れずに指を付け替えないと、落として失くします」
「そうなると指輪にする意味もないか。別の物にするか?」
ゼータは唸る。元々「取り外しを前提とした宝飾品は絶対に失くす」との意で指輪を選んだのだ。女性体となる機会はさほど多いわけではないのだが、変身のたびに合う指に付け替えねばならないのはやはり面倒だ。付け替え忘れて落とすことがあれば、小さな銀の輪を見つけることは困難だろう。しかしすでに指輪探しには半日の時を費やしている。また別の宝飾品を探し一から出直しというのも億劫だ。
「懸念事項で言えば俺もある。指輪を付けるのが利き手なんだよな」
言いながらレイバックは自身の左手のひらを眺めた。そう、彼は左利きなのだ。指輪を試着した左手でペンを持ったレイバックは、確かに怪訝な表情を浮かべていた。
「利き手に異物があるというのは気になります?」
「物を選べばさほど気にはならないだろうが、剣を持つだろう。指輪が痛まないかと不安でな」
「なるほど…」
剣技を嗜まぬゼータにはいまいち想像のできぬことであるが、確かに金属を付けた手で金属を触るというのもいい気持ちはしないだろう。丈夫な金属とはいえ、触れ合えば多少の傷はつくものだ。
どうしたものかと氷の浮いたグラスを揺らしていたゼータは、ふとある事に思い至る。
「竜体になったときには、身に着けているものはどうなるんですか?」
ドラゴンの血を引くレイバックは、その身をドラゴンへと変貌させることができる。レイバックだけではなく、魔族には身体を別の形へと変える者は多い。例えば獣人族や幻獣族の中には、四足獣へと姿を変える者もいる。精霊族や妖精族には、擬態や変身を特技とする種族もいるのだ。人型のときに身に着けていた衣類や宝飾品は、変身した折にはどうなるのだろうという純粋な興味である。
「人型のときに身に着けていた物は竜体に影響しない。人型の表皮と共に体内に格納されるんだ。逆もしかりだな」
「へぇ…?」
「身体が裏返る、という感覚だ。体内にある竜の表皮が表に出てくるときには、人型の表皮と衣類は全て竜の体内にくるみこまれる。腰に下げている剣ですら格納されるから、宝飾品の類も同様だろう」
「それは便利ですね」
「変身を特技とする兵士に話を聞いたことがあるが、皆同じ感覚を抱いていたな。裏返る、くるまれる、という感じだ。だがまれに違う感覚を抱く者もいる」
「…どんな?」
研究職の血が騒ぎ、ゼータはレイバックに顔を近づける。変身という有り触れた特技を研究対象としている者は、ゼータの所属する魔法研究所にはいない。しかし有り触れた特技であるからこそ、真面目に研究すれば人々の興味を引く論文になることは間違いないだろう。研究オタクというゼータの本質を理解しているレイバックは、ご機嫌で話を続ける。
「ちなみにゼータは、女性体になるときはどんな感覚だ?」
「…別に特別な感じはしないですよ。ただ身体が変わるだけです。体組織が組み変わると言えばいいんでしょうか」
「実はその感覚は稀なんだ。王宮の兵士の中に変身を特技とする者は20人ほどいるが、ゼータと同じ感覚を抱く者は2人だけだった」
「その感覚の違いは、変身に何か影響を及ぼすんですか?」
「先ほどの衣服の話で言えば、身体が組み変わると答えた2人の兵士は変身後も衣服を着たままだ。だから彼らは装備には気を使っているな。ある程度衣服に伸縮性を持たせ、変身後も着ていられるようにしている」
「不便なだけという意味ですか?」
自身の感覚が稀と言われ顔を輝かせていたゼータであるが、その表情は途端に曇る。変身のたびに衣服が体内に格納されるのであれば、ゼータは日々着る衣服に気を遣う必要がない。ダグと対峙したときも、男の姿で女物のドレスをまとっているという締まらなさを苦慮せずとも良かったはずだ。
日々魔法の講義を行う立場であるゼータに対して講義を行っているという事実が面白いのか、レイバックは相変わらずの笑顔だ。
「2人の兵士で語るなら便利な点も多い。変身を途中で止めることができるし、身体の一部を獣に変化させることも可能なんだ。あとは変身後も人語を離せるな」
「へぇ…」
「逆に俺のように裏返る、と答えた兵士は獣体になると人語は話せない。裏、表以外の中途半端な姿になることもできない。衣類を格納できるという利はあるが、俺は変身を自在に操れる方が羨ましい。完全な竜体にならずに済むのであれば、もう少しドラゴンの技の使い道もあるだろうに」
確かに、とゼータも思う。強大な力を持つレイバックであるが、その力を遺憾なく発揮できる機会はないに等しい。ドラゴンの身体で暴れまわれば敵は一瞬で塵と化してしまうし、街は瓦礫の山だ。彼の言う通り変身を自在に操ることができるのならば、人型の身体にドラゴンの羽を生やす事も可能になる。ドラゴンの固い表皮で人の身体を守ることだってできるだろう。夢のような話である。
「練習次第でどうにかなるものでもないんでしょうか」
「人型のまま羽だけ生やせないかと挑戦してみたことはあるが…全く駄目だった。生まれ持った性質だからな。変えることは難しいのではないかと思う」
ゼータは黙り込む。真面目な顔で考え込んだ後に、グラスに残った果実水を飲み干し、席を立つ。
「帰ります」
「…ん?」
「変身の練習をします。あまり汎用性のない特技だと思っていましたが、可能性を見出しました。衣類を格納することは不可能でも、練習次第で多少の自由は利くようになるかもしれません。例えば女性体になったときでも、足元だけ男性のままにできれば靴の持ち運びをしなくて済みます。顔のパーツをうまく調整できれば変装にも役立ちます。忙しくなりますよ。ということですので私はこれで」
「待て待て待て」
爽快と立ち去ろうとするゼータの手首を、レイバックが掴んだ。
「今日の目的を忘れるな」
「…何でしたっけ」
「指輪だ、指輪」
「ああ…」
面倒なことを思い出したと溜息を吐いたゼータは、大人しく席に戻った。空のグラスを避け、テーブルの上で頬杖をつく。ゼータの手を離したレイバックも気だるそうな頬杖だ。
「どこまで話しましたっけ」
「ゼータは指のサイズが変わる、俺は剣を扱うから、指輪はいかがなものかという所までだ」
「何も進んでいない」
2人は顔を見合わせ深い溜息をついた。興味のない宝飾品を探すことが、こんなに苦痛だとは思わなかった。くじ引きでもなんでも良いから早々に物を決めて王宮に帰りたいところではあるが、それなりの金額を支払う以上適当というわけにもいかない。愛着の湧かぬ物を身に着け続けるというのも辛いだろう。しかし現在候補に挙がる3つの指輪を一つに絞る明確な基準もなし。だからといって指輪以外の宝飾品を改めて探す元気もない。納期の事を考えれば、宝飾品探しの日程を先延ばしにするのも賢い選択とは言い難い。
目の前の問題をどう片づけるべきかと頭を悩ませながらも、ゼータの思考は先ほどレイバックに聞いた興味深い話題に及ぶ。魔族の変身の汎用性を研究対象とするならば、サンプルの確保は容易だ。王宮の兵士だけで20名ほどのサンプルの確保ができ、さらに魔法研究所にも変身を特技とする魔族はいる。変身の程度に差はあれど、5人のサンプルは確保できるだろう。さらに王宮の官吏も対象にすれば、さらにサンプルの人数を増やすことができる。研究協力を依頼できそうな官吏の人数を頭の中で指折り数えるゼータだが、ふとその脳裏に一人の研究員の姿が浮かんだ。ゼータと比較的仲の良い獣人族の女性。彼女は宝飾品の類を好み、常日頃何かしらの宝飾品を身に着けている。そして昼食時の雑談に、彼女の身に着ける宝飾品の話題になったことがある。
「…ポトスの街のどこかに、魔族が好んで利用する宝飾店があるとか」
グラスの側面の水滴をつつく手遊びを繰り返していたレイバックは、ゼータの言葉にその手の動きを止めた。
「過去に研究員が話していたのを聞きました。興味がない話題だったので細かい内容は全く覚えていないんですけど、店の名前は結構特徴的で…。ここまで出かかっているんですが」
ゼータは腕を組み、黙り込んだ。ゼータの思考を待つレイバックは、水滴をつつく手遊びを再開する。レイバックの手によりつつかれた水滴が全てグラスの側面から流れ落ちた頃に、ゼータは満面の笑みと共にある店の名前を口にする。それは確かに一度聞けば、記憶のどこかに引っ掛かりそうな珍しい名前の店であった。
目的地を得た2人は、足取り軽やかに飲食店を出た。
ゼータはテーブルの間を駆け回る店員の姿を眺めながら、氷の入った飲料をすすった。ゼータにしては珍しく、頼んだ飲料は果実水である。慣れぬ店に疲れた今、紅茶よりも酸味のある飲み物が欲しかったのだ。
「今のところ、どの指輪が第一候補だ?」
ゼータの対面席に腰かけるレイバックが聞いた。テーブル上で組まれた腕の前には、空になった料理の皿と冷たいコーヒーが置かれている。レイバックにしては珍しくコーヒーにはミルクと砂糖が入れられている。慣れない店巡りに疲れているのは2人一緒だ。
「どれですかねぇ…いまいち決め手に欠けるんですよね」
ゼータの返答に、レイバックはやはりか、と頷く。現在候補にあがった指輪は3つ。どれも似たようなデザインで、これといった特徴があるわけではない。
「あと一つ懸念事項があるんです。私、女性体になると指のサイズが若干変わるんですよ」
「ああ。そういえばそうか」
「忘れずに指を付け替えないと、落として失くします」
「そうなると指輪にする意味もないか。別の物にするか?」
ゼータは唸る。元々「取り外しを前提とした宝飾品は絶対に失くす」との意で指輪を選んだのだ。女性体となる機会はさほど多いわけではないのだが、変身のたびに合う指に付け替えねばならないのはやはり面倒だ。付け替え忘れて落とすことがあれば、小さな銀の輪を見つけることは困難だろう。しかしすでに指輪探しには半日の時を費やしている。また別の宝飾品を探し一から出直しというのも億劫だ。
「懸念事項で言えば俺もある。指輪を付けるのが利き手なんだよな」
言いながらレイバックは自身の左手のひらを眺めた。そう、彼は左利きなのだ。指輪を試着した左手でペンを持ったレイバックは、確かに怪訝な表情を浮かべていた。
「利き手に異物があるというのは気になります?」
「物を選べばさほど気にはならないだろうが、剣を持つだろう。指輪が痛まないかと不安でな」
「なるほど…」
剣技を嗜まぬゼータにはいまいち想像のできぬことであるが、確かに金属を付けた手で金属を触るというのもいい気持ちはしないだろう。丈夫な金属とはいえ、触れ合えば多少の傷はつくものだ。
どうしたものかと氷の浮いたグラスを揺らしていたゼータは、ふとある事に思い至る。
「竜体になったときには、身に着けているものはどうなるんですか?」
ドラゴンの血を引くレイバックは、その身をドラゴンへと変貌させることができる。レイバックだけではなく、魔族には身体を別の形へと変える者は多い。例えば獣人族や幻獣族の中には、四足獣へと姿を変える者もいる。精霊族や妖精族には、擬態や変身を特技とする種族もいるのだ。人型のときに身に着けていた衣類や宝飾品は、変身した折にはどうなるのだろうという純粋な興味である。
「人型のときに身に着けていた物は竜体に影響しない。人型の表皮と共に体内に格納されるんだ。逆もしかりだな」
「へぇ…?」
「身体が裏返る、という感覚だ。体内にある竜の表皮が表に出てくるときには、人型の表皮と衣類は全て竜の体内にくるみこまれる。腰に下げている剣ですら格納されるから、宝飾品の類も同様だろう」
「それは便利ですね」
「変身を特技とする兵士に話を聞いたことがあるが、皆同じ感覚を抱いていたな。裏返る、くるまれる、という感じだ。だがまれに違う感覚を抱く者もいる」
「…どんな?」
研究職の血が騒ぎ、ゼータはレイバックに顔を近づける。変身という有り触れた特技を研究対象としている者は、ゼータの所属する魔法研究所にはいない。しかし有り触れた特技であるからこそ、真面目に研究すれば人々の興味を引く論文になることは間違いないだろう。研究オタクというゼータの本質を理解しているレイバックは、ご機嫌で話を続ける。
「ちなみにゼータは、女性体になるときはどんな感覚だ?」
「…別に特別な感じはしないですよ。ただ身体が変わるだけです。体組織が組み変わると言えばいいんでしょうか」
「実はその感覚は稀なんだ。王宮の兵士の中に変身を特技とする者は20人ほどいるが、ゼータと同じ感覚を抱く者は2人だけだった」
「その感覚の違いは、変身に何か影響を及ぼすんですか?」
「先ほどの衣服の話で言えば、身体が組み変わると答えた2人の兵士は変身後も衣服を着たままだ。だから彼らは装備には気を使っているな。ある程度衣服に伸縮性を持たせ、変身後も着ていられるようにしている」
「不便なだけという意味ですか?」
自身の感覚が稀と言われ顔を輝かせていたゼータであるが、その表情は途端に曇る。変身のたびに衣服が体内に格納されるのであれば、ゼータは日々着る衣服に気を遣う必要がない。ダグと対峙したときも、男の姿で女物のドレスをまとっているという締まらなさを苦慮せずとも良かったはずだ。
日々魔法の講義を行う立場であるゼータに対して講義を行っているという事実が面白いのか、レイバックは相変わらずの笑顔だ。
「2人の兵士で語るなら便利な点も多い。変身を途中で止めることができるし、身体の一部を獣に変化させることも可能なんだ。あとは変身後も人語を離せるな」
「へぇ…」
「逆に俺のように裏返る、と答えた兵士は獣体になると人語は話せない。裏、表以外の中途半端な姿になることもできない。衣類を格納できるという利はあるが、俺は変身を自在に操れる方が羨ましい。完全な竜体にならずに済むのであれば、もう少しドラゴンの技の使い道もあるだろうに」
確かに、とゼータも思う。強大な力を持つレイバックであるが、その力を遺憾なく発揮できる機会はないに等しい。ドラゴンの身体で暴れまわれば敵は一瞬で塵と化してしまうし、街は瓦礫の山だ。彼の言う通り変身を自在に操ることができるのならば、人型の身体にドラゴンの羽を生やす事も可能になる。ドラゴンの固い表皮で人の身体を守ることだってできるだろう。夢のような話である。
「練習次第でどうにかなるものでもないんでしょうか」
「人型のまま羽だけ生やせないかと挑戦してみたことはあるが…全く駄目だった。生まれ持った性質だからな。変えることは難しいのではないかと思う」
ゼータは黙り込む。真面目な顔で考え込んだ後に、グラスに残った果実水を飲み干し、席を立つ。
「帰ります」
「…ん?」
「変身の練習をします。あまり汎用性のない特技だと思っていましたが、可能性を見出しました。衣類を格納することは不可能でも、練習次第で多少の自由は利くようになるかもしれません。例えば女性体になったときでも、足元だけ男性のままにできれば靴の持ち運びをしなくて済みます。顔のパーツをうまく調整できれば変装にも役立ちます。忙しくなりますよ。ということですので私はこれで」
「待て待て待て」
爽快と立ち去ろうとするゼータの手首を、レイバックが掴んだ。
「今日の目的を忘れるな」
「…何でしたっけ」
「指輪だ、指輪」
「ああ…」
面倒なことを思い出したと溜息を吐いたゼータは、大人しく席に戻った。空のグラスを避け、テーブルの上で頬杖をつく。ゼータの手を離したレイバックも気だるそうな頬杖だ。
「どこまで話しましたっけ」
「ゼータは指のサイズが変わる、俺は剣を扱うから、指輪はいかがなものかという所までだ」
「何も進んでいない」
2人は顔を見合わせ深い溜息をついた。興味のない宝飾品を探すことが、こんなに苦痛だとは思わなかった。くじ引きでもなんでも良いから早々に物を決めて王宮に帰りたいところではあるが、それなりの金額を支払う以上適当というわけにもいかない。愛着の湧かぬ物を身に着け続けるというのも辛いだろう。しかし現在候補に挙がる3つの指輪を一つに絞る明確な基準もなし。だからといって指輪以外の宝飾品を改めて探す元気もない。納期の事を考えれば、宝飾品探しの日程を先延ばしにするのも賢い選択とは言い難い。
目の前の問題をどう片づけるべきかと頭を悩ませながらも、ゼータの思考は先ほどレイバックに聞いた興味深い話題に及ぶ。魔族の変身の汎用性を研究対象とするならば、サンプルの確保は容易だ。王宮の兵士だけで20名ほどのサンプルの確保ができ、さらに魔法研究所にも変身を特技とする魔族はいる。変身の程度に差はあれど、5人のサンプルは確保できるだろう。さらに王宮の官吏も対象にすれば、さらにサンプルの人数を増やすことができる。研究協力を依頼できそうな官吏の人数を頭の中で指折り数えるゼータだが、ふとその脳裏に一人の研究員の姿が浮かんだ。ゼータと比較的仲の良い獣人族の女性。彼女は宝飾品の類を好み、常日頃何かしらの宝飾品を身に着けている。そして昼食時の雑談に、彼女の身に着ける宝飾品の話題になったことがある。
「…ポトスの街のどこかに、魔族が好んで利用する宝飾店があるとか」
グラスの側面の水滴をつつく手遊びを繰り返していたレイバックは、ゼータの言葉にその手の動きを止めた。
「過去に研究員が話していたのを聞きました。興味がない話題だったので細かい内容は全く覚えていないんですけど、店の名前は結構特徴的で…。ここまで出かかっているんですが」
ゼータは腕を組み、黙り込んだ。ゼータの思考を待つレイバックは、水滴をつつく手遊びを再開する。レイバックの手によりつつかれた水滴が全てグラスの側面から流れ落ちた頃に、ゼータは満面の笑みと共にある店の名前を口にする。それは確かに一度聞けば、記憶のどこかに引っ掛かりそうな珍しい名前の店であった。
目的地を得た2人は、足取り軽やかに飲食店を出た。
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