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緋糸たぐる御伽姫
11.お遊びの剣-1
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東門を出てしばらくは林道を進んだ。地面は舗装こそされていないが、固く踏み均されていて歩くのに不自由はしない。日頃多くの兵士が、訓練場を目指してこの道を通るためだ。周りの木々も程良く間引かれており、風の通る心地よい道であった。
林道を抜けると兵士の訓練場が見えてきた。訓練場とは言っても、ある物は運動場のような広い芝の広場だけ。あとは幾つかの物置小屋だ。
広場では70名ほどの兵士が訓練に勤しんでいた。剣を打ちあう者がおり、素手で組合いをする者がいる。兵士のいる芝の広場に近づく内に、使節団員は彼らの特徴的な風貌に気が付いたようであった。ごくりと誰かが生唾を飲む音がする。
「凄い。魔族だ」
ぽつりと零した者は、ルナの横を歩いていたクリスであった。兵士の輪からは数十mの距離を置き、皆が自然と足を止める。剣のぶつかる鈍い音と組み合う兵士の怒号。広場に響く和やかとは言い難い音を聴きながら、使節団員は目の前の光景に呆気に取られていた。剣を打ち合う兵士の表皮には竜を思わせる鱗が生え、今しがた別の兵士を投げ飛ばした巨体の兵士は身の丈が3m以上もある。体中に獣のような体毛を生やした者、鋭い爪を振り翳す者、人の頭上を遥かに超える跳躍を見せる者。人間に近しい容姿を持った王宮の官吏や侍女とは違い、訓練場にいる兵士は正に魔族の風貌だ。驚きと恐怖に顔を引きつらせる使節団員の傍を、灰色の狼が風のように駆け抜ける。
「もう少し近づきましょうか。大丈夫。見た目は恐ろしくとも中身は人間と変わりません」
使節団員は互いに顔を見合わせ、シモンに続いて歩き出す。歩く内に兵士の輪の中に見知った頭を見つけ、ルナはおやと首を傾げる。
「レイバック様…」
ルナの呟きで皆が視線を集めた先では、レイバックが嬉々とした顔で剣を振るっていた。鎧を纏う兵士の中で、一人だけ白のシャツという軽装である。やがて真剣での打ち合いを一区切りにしたレイバックは、近づいてくる使節団員に気が付いたようであった。
「よ。遅かったな」
剣胼胝のできた手のひらが掲げられる。皆が言葉に詰まる中、困惑の問いを絞り出す者はシモンだ。
「…王は何をしておいでですか」
「仕事が空いたから使節団員の接待に来たんだ。訓練場は俺の庭だからな」
「左様でございますか…」
そう言って額の汗を拭うレイバックの姿は精悍な軍人のようだ。予想だにせぬ最高権力者の登場に、どうしたものかと狼狽えるシモン。対する兵士らは至って平常状態である。剣を特技とするレイバックが、こうして唐突に訓練場を訪れるのは日々よくある出来事なのだ。「いやぁ、レイバック王は相変わらずお強い」などと言っている者もいる。
使節団員の元に一人の兵士が歩いてきた。3mはあろうかという巨体に特注の鎧をまとい、筋肉の盛り上がる二の腕は丸太のよう。針金のような顎鬚を携えるその兵士の手には、人の背丈ほどもある巨大な刀剣が握られている。恐ろしい風貌の男の登場に、使節団員の間には緊張が走る。
「ロシャ王国の皆様、よくぞお越しくださいました。私は王宮軍団長の任を拝命しておりますデューゴと申します。見ての通りの純血の巨人族でございます」
そう言うと、デューゴは荒々しい見た目からは想像できない優雅な仕草で腰を折った。顎髭を携えた顔には優しげな笑みが浮かび、黒々とした瞳はよく見ればリスのようにつぶらだ。
「王宮軍は現在総勢70名。大規模な魔獣討伐等があれば徴兵はありますが、ここ数十年はこの人数で事が済んでおります。一口に王宮軍と言っても、その中でさらに細かく5つの隊に分類されます。剣技に長ける剣隊、魔法に長ける魔法隊、対人相手の肉弾戦に長ける体術隊、屈強な身体を持ち攻撃の盾となることができる防御隊、その他隠密や長距離の移動に長けた補助隊の5つです」
デューゴの言葉の通り、確かに訓練に勤しむ兵士は5つの塊に分かれていた。剣を持つ者は剣を持つ者で集まり、素手で組み合う者は組みあう者で芝生の1か所に集まっている。それぞれの隊に分かれて訓練を行っているようだ。
「今ここにいる者達は兵士として王宮に雇われている者ばかりですが、状況により他の者が隊列に加わることもあります。剣技に長けたレイバック王と竜族長殿、魔法に長けた吸血族長殿、体術に長けた獣人族長殿、屈強な身体を持つ巨人族長殿。以上5名の方が、状況により隊列に加わることがあります。75名の豪傑が、昼夜ドラキス王国内の治安維持に尽力しているのです」
そこで言葉を切り、デューゴは長く伸びた黒髭をしごいた。リスの瞳が困ったようにシモンを見る。
「…王宮軍の説明をと事前に言われておりますが、この程度で宜しいか?どうにも喋るのは苦手なもので、足りない部分はレイバック王に聞いてくだされ」
「十分でございます。デューゴ団長殿、丁寧な説明に感謝致します」
シモンが言えば、デューゴは再度優雅な礼をして兵士の輪の中に戻って行った。人丈ほどの刀剣を担ぎ上げる姿は確かに恐ろしいが、中身は人間と変わらない。使節団員の顔から緊張の色は消えていた。
デューゴが去った後、使節団員は近場の草むらに腰を下ろした。剣や魔法の打ち合いの邪魔にならぬよう、距離を置いて王宮軍の訓練の見学をする予定となっている。真剣同士が激しくぶつかり合う音、組手の最中に10m以上も遠くに投げ飛ばされる兵士、目に見えぬ魔力の塊が芝生に置かれた的をなぎ倒す様。中でも巨体のデューゴが、突進してくる兵士を素手で弾き飛ばす様子は圧巻である。
「レイバック様は随分と楽しそうですね」
膝を抱えるクリスの視線の先には、上裸で真剣を振るレイバックの姿がある。打ち合いをする兵士の持つ武器も真剣なのだから、掠っただけでも怪我は免れない。裸の身体に刀が触れることが恐ろしくはないのだろうかと不安になる光景だが、当のレイバックは「遠慮はいらん」「王座を狙うつもりで来い」などと叫び兵士を煽っている。水を得た魚の様に生き生きとしているのである。
「レイバック様は好戦的な性格ですからね。仕事の鬱憤が溜まるたびに、こうして剣を打ちに来るのだと聞いたことがあります」
そう返すルナの膝の上には、丸められた白のシャツが載っていた。説明を終えたデューゴに続き、兵士の輪へと戻って行くレイバックが、「暑い」と言い放ちルナに押し付けていった物である。「汗まみれの衣服を人に押し付けるな」とのルナの文句は、意気揚々と訓練に戻って行くレイバックの耳に届くことはなかった。そうしてもう30分もの間、ルナは脱ぎ捨てられたレイバックの衣服を膝に載せて過ごしているのである。
それから数分が経ち、訓練は小休憩に入った。訓練場の一角にある小屋に水を飲みに行く者が多い中、レイバックは鞘に納めた真剣を携えてルナの元へとやって来る。上裸のまま芝生に座り込むレイバックは、適度の汗を流しご機嫌であった。鍛え上げられた上腕にも胸板にも、汗の粒が浮いている。
「ポトス城内の散策はどうだった」
「貴重な体験でした。白の街を歩いたのは初めての経験ですし」
ルナがハンカチを差し出せば、レイバックはそれで額の汗を拭う。ルナの太腿に載せたままのシャツは、まだ羽織るつもりはないらしい。
「特段面白い物もなかっただろう。今日は商人が来る日ではないからな」
「のんびりとしていて良かったですよ。でも賑やかな白の街というのも見てみたいですね。明日商人が来るんですよね。どうせ暇だし行ってみようかな」
「明日か。残念ながら俺は一日予定が入っている」
「…別に誘うつもりもありませんでしたけど」
「そこは社交辞令でも誘ってくれよ」
漫才のような掛け合いに、ルナの横に座り込んでいたクリスが慌てて顔を俯かせていた。形の良い唇からは、呻き声のような笑いが漏れ出している。
ふいにレイバックの顔に影が落ちた。レイバックは影の元を辿り顔を上げ、釣られるようにルナも顔を上げる。そこにはマルコーが立っていた。感情の読めぬ笑みを張り付けたマルコーが、レイバックの前に立っている。
「レイバック様。先程の兵士との打ち合い、見事でございました」
「ん?ああ」
「もしよろしければのご提案なのですが…メアリ姫と一戦交えてはいただけないでしょうか」
「メアリ姫と?剣でか」
「左様でございます。レイバック様がドラキス王国内随一の剣豪であるというお噂は、我が国にも届いております。そして偶然にも、メアリ姫も護身として剣技を嗜んでおるのですよ。少女でありながら中々の手練れであると、関係者の間では専らの噂でございます。レイバック様と剣を交えたとなれば、メアリ姫の良い旅の思い出にもなりますし、アポロ王の御耳に入ればさぞかし喜ばれることでしょう。何、お遊びで構わんのです。いかがでございましょう?」
突然のマルコーの申し出に、驚いた者はレイバックだけではない。少し離れた場所に腰を下ろしていたメアリも、使節団員も驚愕の表情を浮かべている。レイバックが良しと言えば、それは大国の王と姫が互いに剣を向け合うことを意味する。お遊びで構わないとマルコーは言ったが、試合をすれば怪我の危険は付きまとう。そしてレイバックとメアリが試合をすれば、怪我をする者は力量で劣るメアリに他ならない。なぜ自国の姫君をわざわざ危険に晒すのか、レイバックはマルコーの真意を掴みあぐねる。
「…メアリ姫が望むのであれば相手をしよう」
悩むレイバックは、決定権をメアリに委ねた。皆の視線は、自然とメアリの元へと集まる。可憐なワンピースの裾を芝生に広げたメアリは、突然出来事に大きな瞳を何度も瞬かせている。そしてやがて力強く頷いた。
「ぜひお願い致します」
林道を抜けると兵士の訓練場が見えてきた。訓練場とは言っても、ある物は運動場のような広い芝の広場だけ。あとは幾つかの物置小屋だ。
広場では70名ほどの兵士が訓練に勤しんでいた。剣を打ちあう者がおり、素手で組合いをする者がいる。兵士のいる芝の広場に近づく内に、使節団員は彼らの特徴的な風貌に気が付いたようであった。ごくりと誰かが生唾を飲む音がする。
「凄い。魔族だ」
ぽつりと零した者は、ルナの横を歩いていたクリスであった。兵士の輪からは数十mの距離を置き、皆が自然と足を止める。剣のぶつかる鈍い音と組み合う兵士の怒号。広場に響く和やかとは言い難い音を聴きながら、使節団員は目の前の光景に呆気に取られていた。剣を打ち合う兵士の表皮には竜を思わせる鱗が生え、今しがた別の兵士を投げ飛ばした巨体の兵士は身の丈が3m以上もある。体中に獣のような体毛を生やした者、鋭い爪を振り翳す者、人の頭上を遥かに超える跳躍を見せる者。人間に近しい容姿を持った王宮の官吏や侍女とは違い、訓練場にいる兵士は正に魔族の風貌だ。驚きと恐怖に顔を引きつらせる使節団員の傍を、灰色の狼が風のように駆け抜ける。
「もう少し近づきましょうか。大丈夫。見た目は恐ろしくとも中身は人間と変わりません」
使節団員は互いに顔を見合わせ、シモンに続いて歩き出す。歩く内に兵士の輪の中に見知った頭を見つけ、ルナはおやと首を傾げる。
「レイバック様…」
ルナの呟きで皆が視線を集めた先では、レイバックが嬉々とした顔で剣を振るっていた。鎧を纏う兵士の中で、一人だけ白のシャツという軽装である。やがて真剣での打ち合いを一区切りにしたレイバックは、近づいてくる使節団員に気が付いたようであった。
「よ。遅かったな」
剣胼胝のできた手のひらが掲げられる。皆が言葉に詰まる中、困惑の問いを絞り出す者はシモンだ。
「…王は何をしておいでですか」
「仕事が空いたから使節団員の接待に来たんだ。訓練場は俺の庭だからな」
「左様でございますか…」
そう言って額の汗を拭うレイバックの姿は精悍な軍人のようだ。予想だにせぬ最高権力者の登場に、どうしたものかと狼狽えるシモン。対する兵士らは至って平常状態である。剣を特技とするレイバックが、こうして唐突に訓練場を訪れるのは日々よくある出来事なのだ。「いやぁ、レイバック王は相変わらずお強い」などと言っている者もいる。
使節団員の元に一人の兵士が歩いてきた。3mはあろうかという巨体に特注の鎧をまとい、筋肉の盛り上がる二の腕は丸太のよう。針金のような顎鬚を携えるその兵士の手には、人の背丈ほどもある巨大な刀剣が握られている。恐ろしい風貌の男の登場に、使節団員の間には緊張が走る。
「ロシャ王国の皆様、よくぞお越しくださいました。私は王宮軍団長の任を拝命しておりますデューゴと申します。見ての通りの純血の巨人族でございます」
そう言うと、デューゴは荒々しい見た目からは想像できない優雅な仕草で腰を折った。顎髭を携えた顔には優しげな笑みが浮かび、黒々とした瞳はよく見ればリスのようにつぶらだ。
「王宮軍は現在総勢70名。大規模な魔獣討伐等があれば徴兵はありますが、ここ数十年はこの人数で事が済んでおります。一口に王宮軍と言っても、その中でさらに細かく5つの隊に分類されます。剣技に長ける剣隊、魔法に長ける魔法隊、対人相手の肉弾戦に長ける体術隊、屈強な身体を持ち攻撃の盾となることができる防御隊、その他隠密や長距離の移動に長けた補助隊の5つです」
デューゴの言葉の通り、確かに訓練に勤しむ兵士は5つの塊に分かれていた。剣を持つ者は剣を持つ者で集まり、素手で組み合う者は組みあう者で芝生の1か所に集まっている。それぞれの隊に分かれて訓練を行っているようだ。
「今ここにいる者達は兵士として王宮に雇われている者ばかりですが、状況により他の者が隊列に加わることもあります。剣技に長けたレイバック王と竜族長殿、魔法に長けた吸血族長殿、体術に長けた獣人族長殿、屈強な身体を持つ巨人族長殿。以上5名の方が、状況により隊列に加わることがあります。75名の豪傑が、昼夜ドラキス王国内の治安維持に尽力しているのです」
そこで言葉を切り、デューゴは長く伸びた黒髭をしごいた。リスの瞳が困ったようにシモンを見る。
「…王宮軍の説明をと事前に言われておりますが、この程度で宜しいか?どうにも喋るのは苦手なもので、足りない部分はレイバック王に聞いてくだされ」
「十分でございます。デューゴ団長殿、丁寧な説明に感謝致します」
シモンが言えば、デューゴは再度優雅な礼をして兵士の輪の中に戻って行った。人丈ほどの刀剣を担ぎ上げる姿は確かに恐ろしいが、中身は人間と変わらない。使節団員の顔から緊張の色は消えていた。
デューゴが去った後、使節団員は近場の草むらに腰を下ろした。剣や魔法の打ち合いの邪魔にならぬよう、距離を置いて王宮軍の訓練の見学をする予定となっている。真剣同士が激しくぶつかり合う音、組手の最中に10m以上も遠くに投げ飛ばされる兵士、目に見えぬ魔力の塊が芝生に置かれた的をなぎ倒す様。中でも巨体のデューゴが、突進してくる兵士を素手で弾き飛ばす様子は圧巻である。
「レイバック様は随分と楽しそうですね」
膝を抱えるクリスの視線の先には、上裸で真剣を振るレイバックの姿がある。打ち合いをする兵士の持つ武器も真剣なのだから、掠っただけでも怪我は免れない。裸の身体に刀が触れることが恐ろしくはないのだろうかと不安になる光景だが、当のレイバックは「遠慮はいらん」「王座を狙うつもりで来い」などと叫び兵士を煽っている。水を得た魚の様に生き生きとしているのである。
「レイバック様は好戦的な性格ですからね。仕事の鬱憤が溜まるたびに、こうして剣を打ちに来るのだと聞いたことがあります」
そう返すルナの膝の上には、丸められた白のシャツが載っていた。説明を終えたデューゴに続き、兵士の輪へと戻って行くレイバックが、「暑い」と言い放ちルナに押し付けていった物である。「汗まみれの衣服を人に押し付けるな」とのルナの文句は、意気揚々と訓練に戻って行くレイバックの耳に届くことはなかった。そうしてもう30分もの間、ルナは脱ぎ捨てられたレイバックの衣服を膝に載せて過ごしているのである。
それから数分が経ち、訓練は小休憩に入った。訓練場の一角にある小屋に水を飲みに行く者が多い中、レイバックは鞘に納めた真剣を携えてルナの元へとやって来る。上裸のまま芝生に座り込むレイバックは、適度の汗を流しご機嫌であった。鍛え上げられた上腕にも胸板にも、汗の粒が浮いている。
「ポトス城内の散策はどうだった」
「貴重な体験でした。白の街を歩いたのは初めての経験ですし」
ルナがハンカチを差し出せば、レイバックはそれで額の汗を拭う。ルナの太腿に載せたままのシャツは、まだ羽織るつもりはないらしい。
「特段面白い物もなかっただろう。今日は商人が来る日ではないからな」
「のんびりとしていて良かったですよ。でも賑やかな白の街というのも見てみたいですね。明日商人が来るんですよね。どうせ暇だし行ってみようかな」
「明日か。残念ながら俺は一日予定が入っている」
「…別に誘うつもりもありませんでしたけど」
「そこは社交辞令でも誘ってくれよ」
漫才のような掛け合いに、ルナの横に座り込んでいたクリスが慌てて顔を俯かせていた。形の良い唇からは、呻き声のような笑いが漏れ出している。
ふいにレイバックの顔に影が落ちた。レイバックは影の元を辿り顔を上げ、釣られるようにルナも顔を上げる。そこにはマルコーが立っていた。感情の読めぬ笑みを張り付けたマルコーが、レイバックの前に立っている。
「レイバック様。先程の兵士との打ち合い、見事でございました」
「ん?ああ」
「もしよろしければのご提案なのですが…メアリ姫と一戦交えてはいただけないでしょうか」
「メアリ姫と?剣でか」
「左様でございます。レイバック様がドラキス王国内随一の剣豪であるというお噂は、我が国にも届いております。そして偶然にも、メアリ姫も護身として剣技を嗜んでおるのですよ。少女でありながら中々の手練れであると、関係者の間では専らの噂でございます。レイバック様と剣を交えたとなれば、メアリ姫の良い旅の思い出にもなりますし、アポロ王の御耳に入ればさぞかし喜ばれることでしょう。何、お遊びで構わんのです。いかがでございましょう?」
突然のマルコーの申し出に、驚いた者はレイバックだけではない。少し離れた場所に腰を下ろしていたメアリも、使節団員も驚愕の表情を浮かべている。レイバックが良しと言えば、それは大国の王と姫が互いに剣を向け合うことを意味する。お遊びで構わないとマルコーは言ったが、試合をすれば怪我の危険は付きまとう。そしてレイバックとメアリが試合をすれば、怪我をする者は力量で劣るメアリに他ならない。なぜ自国の姫君をわざわざ危険に晒すのか、レイバックはマルコーの真意を掴みあぐねる。
「…メアリ姫が望むのであれば相手をしよう」
悩むレイバックは、決定権をメアリに委ねた。皆の視線は、自然とメアリの元へと集まる。可憐なワンピースの裾を芝生に広げたメアリは、突然出来事に大きな瞳を何度も瞬かせている。そしてやがて力強く頷いた。
「ぜひお願い致します」
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