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緋糸たぐる御伽姫
1.序
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ある暖かな日の午後。街外れの一角にある小さなカフェテリアで、ゼータ青年は読書の真っ最中であった。視界に入る物といえば、白塗りの丸テーブルに水滴の浮かぶコーヒーグラス。そして真新しい紙の香りが漂う一冊の書物。書物の一項に並ぶ文字は、読書に慣れぬ者であれば数分で音を上げるほどの小ささだ。
心地の良い日差しだ。ここはカフェのテラス席であるから、午後一番の今、ゼータの黒髪には無遠慮な日差しが当たる。しかし不快ではない。全身に注ぐ陽光は「じりじり」ではなく「ぽかぽか」だ。一度眠気を催せば、瞬く間に心地よい眠りへと引き込まれることであろう。
「ゼータ、少し話をしても良いか?」
遠慮がちな言葉を聞いて、ゼータはちらりと顔を上げた。今ゼータの目の前には、一人の青年が座っている。完熟林檎を連想させる鮮やかな緋髪、それと同じ色合いの瞳。外見の年齢は、ゼータと同じ20代前半というところだ。青年はテーブルの上に頬杖を付き、アイスコーヒーを啜りながらも悩ましげな表情である。読みかけの書物に視線を戻し、ゼータは早口でこう告げる。
「急ぎの話があるならどうぞ。耳は空いていますから」
「読書を止める気はないか」
「興味のある話なら止めます」
冷淡な対応を受け、緋髪の青年は溜息を一つ。それから真剣な面持ちで語り始めた。
「実はこの俺に、縁談話が舞い込んでいる」
しばしの沈黙。ゼータは数行書物を読み進め、それから青年の報告を脳内でゆっくりと反芻した。
―縁談話
心地の良い日差しだ。ここはカフェのテラス席であるから、午後一番の今、ゼータの黒髪には無遠慮な日差しが当たる。しかし不快ではない。全身に注ぐ陽光は「じりじり」ではなく「ぽかぽか」だ。一度眠気を催せば、瞬く間に心地よい眠りへと引き込まれることであろう。
「ゼータ、少し話をしても良いか?」
遠慮がちな言葉を聞いて、ゼータはちらりと顔を上げた。今ゼータの目の前には、一人の青年が座っている。完熟林檎を連想させる鮮やかな緋髪、それと同じ色合いの瞳。外見の年齢は、ゼータと同じ20代前半というところだ。青年はテーブルの上に頬杖を付き、アイスコーヒーを啜りながらも悩ましげな表情である。読みかけの書物に視線を戻し、ゼータは早口でこう告げる。
「急ぎの話があるならどうぞ。耳は空いていますから」
「読書を止める気はないか」
「興味のある話なら止めます」
冷淡な対応を受け、緋髪の青年は溜息を一つ。それから真剣な面持ちで語り始めた。
「実はこの俺に、縁談話が舞い込んでいる」
しばしの沈黙。ゼータは数行書物を読み進め、それから青年の報告を脳内でゆっくりと反芻した。
―縁談話
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