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幼少期編
32話《Side 青岸 悠馬》
しおりを挟む「柱の陰に誰かいなかった?」
零くんの言葉に僕たちの体が凍り付く。絶対に柱の方を向きたくない。
私たちは完全に...完・全・に!あいつのことを忘れていたのだから。しかも、彼女は私たちのすぐそばにいたのだ。私たちが忘れていることに気付いているだろう。あの時と同じように――――
========================
あれは去年、私たち―――白野家・黒野家を除く日本有数の6大名家―――が集まった会で、たった一人女の子であったのにも関わらず、私たちを叱りつけた子がいた。
その子の名前は紫崎 優里。紫崎家の長女で稀代の天才とも言われた、私たちの婚約者候補である。
つまり、龍亮の婚約者候補でもあるということだ。龍亮の婚約者候補と聞くだけで私は何故か心臓が痛くなる。心臓を握り締められる感覚でなんだかモヤモヤするのだ。しかし、この気持ちは誰にも知られてはいけない、なんとなくそう思った。
私だけは事前に龍亮から優里さんのことをたまに聞いていた。
龍亮曰く、優里さんは口うるさい時もあるけど真面目で凛としている綺麗な人だ、と。
龍亮の口から初めて女の子のことを聞いた。今までそんなこと聞いたことなかったのに。
―――いつから知り合いだったんだ?なんで言ってくれなかったんだ?なんでなんでなんで?
私の心に不安や疑問を飲み込んだどす黒い感情が溢れ出てくる。
なんでこんな感情が出てくるのか分からなくて、龍亮に知られたくなくて、私はあの時初めて龍亮に対して作り笑いを向けた。親にも気づかれなかったのだ。龍亮にも多分バレない。そう高を括っていたのに、彼は簡単に見破ってきた。
「悠馬、そんな変な笑い方してどうしたんだ?」
「…っ!変な笑い方ってなんですか、失礼ですね!」
「笑いたくないんなら、別に笑わなくてもいいだろ?んでも、いきなりどうしたんだよ」
「っ!!!………なんでもない」
龍亮にそう言われ、余計に胸が苦しくなった。さっきのようなモヤモヤではなく胸が熱くなるような感覚で。私の胸になんともいえない感情が込みあげる。
―――あぁ、私は両親に気づいてほしかったのか。無理に笑わなくていいんだよ、って言ってほしかったんだ。
龍亮は本当に欲しい言葉を私に与えてくれる。
私を何度助けられたか、何度救ってくれたか、彼は気づいているのだろうか。
私はきっとこの気持ちに気づいてはならないのだろう。気づいて、知って、理解したら最後、どうしようもなくなるから。だから私は自分の気持ちに知らないふりをする。彼が誰かと婚約...いや、結婚するときにちゃんと祝福できるように、私は私の心に蓋をした。
それから、2週間後。私たちは彼女と対面した。
彼女は気高い『薔薇』だった。濃紺髪と透き通った紫眼を持つ彼女はとても美しい。見た目もそうだが、何よりも遥か先を見つめるような凛とした眼差し、そして、私たち6大名家の子息が揃って逆らってはいけないと思わせる意思の強さがとても綺麗だったのだ。もし、彼女の美しさと意思の強さが大輪の華とするならば、その裏に隠れている毒は棘となり外に現れるだろう。彼女に『薔薇』という言葉は驚くほどに似合っていた。
しかし、彼女は意思の強さも強いがプライドも高かった。女だから...子供だから...という言葉をよく聞いてきたのだろう。その反動故か、何よりも仲間外れや無視されることが嫌いなのだ。あの日も私たちは彼女を女だからと遠ざけ、彼女の恐ろしさを知った。彼女は、何の躊躇いもなく私たちを正座させ叱りつけたのだ。彼女は、如何に私たちが自分勝手なのか、如何に私たちが愚かなのかを言い続けた。私たちの精神が灰になるまで...。
それからというもの、私たちは彼女を女だからと遠ざけるようなことはなかった。それなのに、それなのに!私たちは新たな友達に夢中になり彼女をほったらかしてしまった。あぁ、振り向きたくない。振り向きたくはないが、振り向かなかった時の後が怖い。
――――覚悟を決めるしかない。
私は、私たちはゆっくりと彼女がいる方向に振り向いた。
=========================
そこには、冷たい目をした般若がいた。
着飾って美しい女の子がいるはずなのに、小刀の幻影がみえるほどに恐ろしい般若が。
「ふふふふ、あなたたちやっと私のこと思い出したのね?あなたたちは私が嫌いなものって知っているはずよね」
「ひっ、な、仲間外れだ...ですっ!」
龍亮が震えた声で彼女に返事をする。彼も小刀の幻影が見えているんだろう。
どうにか気を紛らわせなければ、私たちがやられる。そう殺られるのだ。
―――すまない、零くん。私たちの身代わりになってくれ。
私は零くんを彼女の生贄にする。私は、私たちは命が惜しいのだ。
「……優里さん、まずは彼を紹介させてください。零くん、自己紹介をお願いします」
「っ!?………初めまして、黒島 零です。」
零くんが驚いているのを横目に私は淡々と話を進める。彼女の鋭い目線が私たちから零くんへと移った。
あとは零くんが彼女なんとかしてくれるだろう。
「私は紫崎 優里。仲良くしてもよろしくてよ」
「うん、よろくね!」
きっと零くんなら大丈夫――――
「紫ちゃんの瞳、凄い綺麗だねぇ」
―――そう思っていたのに。彼は彼女の地雷を踏み抜いてしまっていた。
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※今日は書けるだけ書いて投稿しようと思っています
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