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SCENE.2【公安調査庁第三調査部呪霊特別調査室】

Capture.20『父の記憶』

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 安藤さんが言っている呪霊カースはたぶん、お母さんに取り憑いていた老人の事だろう。

 「……私たち家族を全員殺せば入閣できたのに、って言ってました」
 「という事は、すでに?」
 「倒しました。お母さんに取り憑いていたんです」
 「なるほど……そうでしたか」

 私の言葉に、安藤さんは呆れた表情を浮かべる。

 「その話を先に聞いていたら……このようなまどろっこしい事はしないで済みましたね」

 安藤さんはスマホでどこかと連絡を取り始める。話の内容は、壁の修理と近隣住人への情報操作の指示のようだった。それが済むと、真剣な顔で私を見つめる。

 「私どもはあなたたちを守りたいのです。あなたの亡き父に代わり」

 確かに、私とお母さんが狙われているというのなら、この人たちと行動を共にしている方が安全だろう。

 「そして、あなたのその抗憑依体質者ソウリストの力が、私どもには必要です。呪霊カースによって巻き起こされる悲しい事件を、共に解決しようではありませんか」

 握手を求める安藤さんの右手を見る。実際、自分が体験していなかったら、信用されない世界の話だ。お父さんはもちろん、奈々さんも呪霊カースに殺された。そして、お母さんも殺されかけた。知らないだけで、もっとたくさんの人が呪霊カースによって死んでいるのかもしれない。

 「……私の力は、本当に役に立ちますか?」

 命なんてかけたくなかった。だけど、お父さんは命をかけた。私は御手洗幸三の娘……

 「少なくても、私やすみれくんよりは、呪霊カースと戦えるでしょう」

 そして、組織は私とお母さんを狙っている。力強く頷いた安藤さん。その横で同じように頷いているすみれさん。

 お母さんを守りたい。そして――

 『強さとはな、どれだけのものを守れるかが大切だ』

 道場で面を取った姿で正座するお父さんの姿。よく言っていた言葉を思い出した。

 『守れない力は強さではない』

 私の尊敬するお父さん。もし今、お父さんが生きていたならきっと……

 『強くあれ、凛』

 今持っている私の力を、人々のために使えというだろう。

 「分かりました。私の力、人々を守るために使ってください」

 こうして、私は呪霊カース特別調査室の職員となった。

     *

 「あら? 仕事決まってないって言ってなかった?」
 「あ、ごめん、お母さん。一昨日、急に決まったの。あ、それ、ここでお願いします」

 実家に戻った私。引っ越し業者が部屋に荷物を運び込む。明日から勤務が始まる事をお母さんに言い忘れていた。

 「そうなの? 良かったじゃない」
 「うん。それで明日から勤務開始なんだ。それはこっちでお願いします」
 「あら? それも急ね」

 今年も残すところ、一か月を切った。約四年半、泊まりに来た時以外、使っていなかった私の部屋に、アパートへ持ち出していた物、買い足した物が運び込まれている。押入れには、綺麗に手入れされている道着がある。その肩を撫でる。

 『凛、稽古試合に行くぞ』

 お父さんは、暇があれば私を道場へ連れ出した。そんな事を思い出す。

 「ねぇ、お母さん。斎藤先生の道場って、今日使えるかな?」
 「斎藤先生? 大丈夫じゃないかしら? この間、菓子折りをいただいたから、行くならお礼言っておいて」

 引っ越しが済み、お母さんが作ってくれた遅い昼食を済ませた私は、通い慣れた道を歩いていた。

 「あれ? ここのカレー屋さん、潰れちゃったんだ」

 お父さんと、稽古帰りによく食べたんだよね……

 「こんにちは」

 道場を覗き込んだ私。懐かしい匂いがする。足音と共に現れたのは――

 「おう! 凛じゃないか! 久しぶりじゃな」

 私が幼い頃から高校まで通った道場の師範、斎藤啓二さんだった。
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