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SCENE.2【公安調査庁第三調査部呪霊特別調査室】
Capture.19『試された命』
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「……ほぉ、間に合いましたか」
ヴゥン。視線をさっきまで立っていたところの向こうの壁に送る。煙を上げて、穴が開いている。左手の立てた二本の指から立ち上がった刀を向ける。
「降参です」
あっさりと両手を上にあげ、万歳して微笑む安藤さん。同じように両手を上げたすみれさんは対照的に申し訳なさそうにしていた。
「降参って……ふざけてるんですか?」
私は殺されかけた。小太郎さんが事態に気付いて、憑依してくれたから間に合ったけど……あと一歩遅ければ、私は死んでいた。理不尽な状況にこみ上げる怒り。
「ふざけてなどいません」
降参と言って、両手を上げている相手を斬り付けるほど、私は外道にはなりたくない。だけど、こんなやり方、それ自体が理不尽で……
「十分、理解できました。ご協力、ありがとうございます」
「え?」
手を挙げたまま、今度はまじめな顔で深々とお辞儀した安藤さん。その状況がますます私を混乱させる。集中力がなくなり、構えていた鷲爪が消える。
「では、後はすみれくん。任せました」
「……はい」
そして、すみれさんは語り始める。
「ごめんなさい。あなたを試させていただきましたの」
「試す?」
彼女は告げた。全ては、私が本当に抗憑依体質者であるかどうか。そして、小太郎さんが味方として迎えられるかどうか。それを試したという。
「情報源がさくらでしたから、抗憑依体質者である事は間違いないと思っていましたけど、あなたに取り憑いている呪霊がどれほど、あなたに協力的なのかを知っておく必要がありましたの」
「……もし、私が抗憑依体質者じゃなかったら?」
その場合、私はあの銃で撃たれて死んでいた。それに、小太郎さんが協力的じゃなかった場合も、あの銃で撃たれて死んでいた。
「あの銃で死んでもらいまして」
「え……そんなの「あなたに呪霊が憑いているのは確認できましたわ。しかも、それはとても強大ですの。敵に回したら、厄介な事のこの上ありませんわ。ですから――」
右手を銃のように親指と人差し指を伸ばして私に向けたすみれさん。
「味方として期待できないなら、憑依されて暴れられる前に、一旦、あなたの肉体から解放して、彷徨ってもらった方が安全でしたの」
「そんな……」
私の命なんて、どうでも良かったみたい。
「国家の安全を守るため、です」
黙って手を挙げていた安藤さんが、閉じていた口を開いた。
「しかし、あなたは呪霊との信頼関係を築けていました。無礼を心からお詫びいたします」
「本当にごめんなさい……心から謝罪いたしますわ」
――こいつら、何言ってんだ?
脳内で小太郎さんが困惑した声で尋ねている。味方かどうかを試したなんて本当の事言ったら、怒っちゃいそうだ……どうしよう。
「小太郎さん、誤解があったみたいで、謝罪されています」
――……謝って済む話かよ?
「……許すしか、ないみたいです」
――チッ……
その瞬間、彼は私の体から出て行った。そして、その場からもいなくなっていた。
「お友達は、納得いただけましたか?」
飄々と尋ねて来る安藤さんを私に睨み付ける。
「納得していません。私も含めて」
「では、本題を話させてもらいましょう」
終始、会話のペースを握っているのが安藤さんだ。それも悔しいし、納得いかないのに――
「あなたたち、御手洗家を狙う組織があるのですが」
私はその言葉に驚いた。組織……
「その顔は、どうやらすでにご存じのようですねぇ。あなたのお父さんを殺し、私どもの同僚を殺して姿を消した呪霊がいまして、以来、ずっと追っているのです」
ヴゥン。視線をさっきまで立っていたところの向こうの壁に送る。煙を上げて、穴が開いている。左手の立てた二本の指から立ち上がった刀を向ける。
「降参です」
あっさりと両手を上にあげ、万歳して微笑む安藤さん。同じように両手を上げたすみれさんは対照的に申し訳なさそうにしていた。
「降参って……ふざけてるんですか?」
私は殺されかけた。小太郎さんが事態に気付いて、憑依してくれたから間に合ったけど……あと一歩遅ければ、私は死んでいた。理不尽な状況にこみ上げる怒り。
「ふざけてなどいません」
降参と言って、両手を上げている相手を斬り付けるほど、私は外道にはなりたくない。だけど、こんなやり方、それ自体が理不尽で……
「十分、理解できました。ご協力、ありがとうございます」
「え?」
手を挙げたまま、今度はまじめな顔で深々とお辞儀した安藤さん。その状況がますます私を混乱させる。集中力がなくなり、構えていた鷲爪が消える。
「では、後はすみれくん。任せました」
「……はい」
そして、すみれさんは語り始める。
「ごめんなさい。あなたを試させていただきましたの」
「試す?」
彼女は告げた。全ては、私が本当に抗憑依体質者であるかどうか。そして、小太郎さんが味方として迎えられるかどうか。それを試したという。
「情報源がさくらでしたから、抗憑依体質者である事は間違いないと思っていましたけど、あなたに取り憑いている呪霊がどれほど、あなたに協力的なのかを知っておく必要がありましたの」
「……もし、私が抗憑依体質者じゃなかったら?」
その場合、私はあの銃で撃たれて死んでいた。それに、小太郎さんが協力的じゃなかった場合も、あの銃で撃たれて死んでいた。
「あの銃で死んでもらいまして」
「え……そんなの「あなたに呪霊が憑いているのは確認できましたわ。しかも、それはとても強大ですの。敵に回したら、厄介な事のこの上ありませんわ。ですから――」
右手を銃のように親指と人差し指を伸ばして私に向けたすみれさん。
「味方として期待できないなら、憑依されて暴れられる前に、一旦、あなたの肉体から解放して、彷徨ってもらった方が安全でしたの」
「そんな……」
私の命なんて、どうでも良かったみたい。
「国家の安全を守るため、です」
黙って手を挙げていた安藤さんが、閉じていた口を開いた。
「しかし、あなたは呪霊との信頼関係を築けていました。無礼を心からお詫びいたします」
「本当にごめんなさい……心から謝罪いたしますわ」
――こいつら、何言ってんだ?
脳内で小太郎さんが困惑した声で尋ねている。味方かどうかを試したなんて本当の事言ったら、怒っちゃいそうだ……どうしよう。
「小太郎さん、誤解があったみたいで、謝罪されています」
――……謝って済む話かよ?
「……許すしか、ないみたいです」
――チッ……
その瞬間、彼は私の体から出て行った。そして、その場からもいなくなっていた。
「お友達は、納得いただけましたか?」
飄々と尋ねて来る安藤さんを私に睨み付ける。
「納得していません。私も含めて」
「では、本題を話させてもらいましょう」
終始、会話のペースを握っているのが安藤さんだ。それも悔しいし、納得いかないのに――
「あなたたち、御手洗家を狙う組織があるのですが」
私はその言葉に驚いた。組織……
「その顔は、どうやらすでにご存じのようですねぇ。あなたのお父さんを殺し、私どもの同僚を殺して姿を消した呪霊がいまして、以来、ずっと追っているのです」
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