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SCENE.2【公安調査庁第三調査部呪霊特別調査室】
Capture.18『引かれた撃鉄』
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それから、安藤さんは呪霊特別調査室が国家に貢献している様を熱弁していた。やりがいの部分で、私を落とそうという魂胆なのだろう。それでも、私は命がけの仕事なんて、御免だ。
「――と、私ども公安調査庁は、未曽有の事態に備えて、日夜励んでいるのです! それはそうと」
安藤さんは突然、話を止めた。そして、その視線には、段位認定書が映っている。
「ほぉ……四段ですか。さすがは剣士幸三の娘さんで「ちょ、室長っ!「あっ!」
ちらりと気まずそうに私を見る安藤さん。その顔を呆れた表情で見ていたすみれさんがため息を吐いた。剣士幸三ってお父さんの事だよね、きっと。
「……安藤さんも剣道されてるんですね。何段ですか?」
お父さんは有名だ。剣道をやっている者で段位者なら、ほとんどの人が知っている。だから、知っている事自体に驚きはなかった。
「い、いえ……私は、そのですね……えと、空が青いですねぇ」
あからさまに話を変えようとしている安藤さんに、すみれさんが頭を抱えている。剣道をしていないのに知っている? お父さんと同級生ってほど、年上じゃない。三十代半ばって感じだ。そうなると、考えられるのは……
「もしかして、同じ町内会さんですか?」
私の推理に、二人は目を見開いた。当たったみたい。
「そ、その発想がありましたか……違いますねぇ……」
「室長っ!」
すみれさんが言葉を止めようとしている。何故?
「私ども、あなたのお父さん、幸三さんとは同僚でして」
「え?」
「……わたくし、もう知りませんわ」
にやにやする安藤さんに対して、不機嫌そうにそっぽ向いたすみれさん。どういう事?
「お父さん、警察官じゃ?」
私の質問に、ゆっくりと首を横に振る安藤さん。
「幸三さんは、呪霊特別調査室職員でした。霊能力認定は何と――」
にやりと怪しい笑みを浮かべた安藤さん。
「L、でした」
その言葉に、私は混乱していた。お父さんは、自分で警察官だと言っていた。お母さんもそう思っていた。葬儀も、警察官っぽい人たちが来てくれていた。全部、嘘だって言うの?
「幸三さんは、ご家族を巻き込まないために隠していたのです。私どもも、その意見を尊重して、協力させていただいていました」
安藤さんが言うには、呪霊特別調査室職員は、原則、別の職業を名乗る事が徹底されているそうだ。今回、二人が名乗ったのは、私を勧誘するためであり――
「あなたは絶対、私どもと共に呪霊と戦わなければなりません」
断らせる気がない事を意味していた。
「これだけの機密に触れてしまいました。もし、私どもに協力いただけないという事でしたら……」
胸ポケットから何かを出した安藤さん。黒く光るそれは、拳銃だった。
「今日を持って、あなたには消えていただくしかありません」
「え……」
意味が分からない。勝手に勧誘してきて、勝手に説明して、勝手に殺す気だ。本気かどうか分からないけど、一方的過ぎる。私は言い返す。
「そんなの理不尽です」
「はい、私もそう思います。ですが――」
銃口が向く。そして、撃鉄が引かれる。カチという音を立てた拳銃は、真正面に私を捉えている。その向こうに見える、安藤さんの目は……本気だった。
「世の中は理不尽極まりない物です。どうされますか?」
「……本気、ですか?」
「ええ、本気です」
笑顔を浮かべている。しかし、その笑顔は目が笑っていない。冷酷な目……
「……残念ながら、時間切れです」
「え?」
私はその言葉に鼓動が加速する。引き金に手がかかる。嘘でしょ? だって、私はどっちとも答えてない。そんな理不尽な事を、公務員がしていいの? こ、こんな人生の終わり方、嫌っ!
次の瞬間、バンという銃声が部屋の中に木霊するのだった。
「――と、私ども公安調査庁は、未曽有の事態に備えて、日夜励んでいるのです! それはそうと」
安藤さんは突然、話を止めた。そして、その視線には、段位認定書が映っている。
「ほぉ……四段ですか。さすがは剣士幸三の娘さんで「ちょ、室長っ!「あっ!」
ちらりと気まずそうに私を見る安藤さん。その顔を呆れた表情で見ていたすみれさんがため息を吐いた。剣士幸三ってお父さんの事だよね、きっと。
「……安藤さんも剣道されてるんですね。何段ですか?」
お父さんは有名だ。剣道をやっている者で段位者なら、ほとんどの人が知っている。だから、知っている事自体に驚きはなかった。
「い、いえ……私は、そのですね……えと、空が青いですねぇ」
あからさまに話を変えようとしている安藤さんに、すみれさんが頭を抱えている。剣道をしていないのに知っている? お父さんと同級生ってほど、年上じゃない。三十代半ばって感じだ。そうなると、考えられるのは……
「もしかして、同じ町内会さんですか?」
私の推理に、二人は目を見開いた。当たったみたい。
「そ、その発想がありましたか……違いますねぇ……」
「室長っ!」
すみれさんが言葉を止めようとしている。何故?
「私ども、あなたのお父さん、幸三さんとは同僚でして」
「え?」
「……わたくし、もう知りませんわ」
にやにやする安藤さんに対して、不機嫌そうにそっぽ向いたすみれさん。どういう事?
「お父さん、警察官じゃ?」
私の質問に、ゆっくりと首を横に振る安藤さん。
「幸三さんは、呪霊特別調査室職員でした。霊能力認定は何と――」
にやりと怪しい笑みを浮かべた安藤さん。
「L、でした」
その言葉に、私は混乱していた。お父さんは、自分で警察官だと言っていた。お母さんもそう思っていた。葬儀も、警察官っぽい人たちが来てくれていた。全部、嘘だって言うの?
「幸三さんは、ご家族を巻き込まないために隠していたのです。私どもも、その意見を尊重して、協力させていただいていました」
安藤さんが言うには、呪霊特別調査室職員は、原則、別の職業を名乗る事が徹底されているそうだ。今回、二人が名乗ったのは、私を勧誘するためであり――
「あなたは絶対、私どもと共に呪霊と戦わなければなりません」
断らせる気がない事を意味していた。
「これだけの機密に触れてしまいました。もし、私どもに協力いただけないという事でしたら……」
胸ポケットから何かを出した安藤さん。黒く光るそれは、拳銃だった。
「今日を持って、あなたには消えていただくしかありません」
「え……」
意味が分からない。勝手に勧誘してきて、勝手に説明して、勝手に殺す気だ。本気かどうか分からないけど、一方的過ぎる。私は言い返す。
「そんなの理不尽です」
「はい、私もそう思います。ですが――」
銃口が向く。そして、撃鉄が引かれる。カチという音を立てた拳銃は、真正面に私を捉えている。その向こうに見える、安藤さんの目は……本気だった。
「世の中は理不尽極まりない物です。どうされますか?」
「……本気、ですか?」
「ええ、本気です」
笑顔を浮かべている。しかし、その笑顔は目が笑っていない。冷酷な目……
「……残念ながら、時間切れです」
「え?」
私はその言葉に鼓動が加速する。引き金に手がかかる。嘘でしょ? だって、私はどっちとも答えてない。そんな理不尽な事を、公務員がしていいの? こ、こんな人生の終わり方、嫌っ!
次の瞬間、バンという銃声が部屋の中に木霊するのだった。
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